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失血の第七救世主  作者: 烏野 点滴
1章『異世界召喚編』
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第7話:最初の依頼

三日目の朝だ。ファルテは顔を上げる気力も沸かない程に頭痛に苦しんでいた。所謂『二日酔い』だ。


「あ~ぎもぢわるぅ…」


気怠い声をベッドの上で漏らすファルテ。そのだらしなく無防備な格好は昨晩バッチリ見せて頂いたので、そちらに目をくれずに彼女の部屋を綺麗に整理していく。


「ファルテ、この魔術書机に立てかけとくからな」

「あーい」


適当な返事。朝、いつもの事ながら健康的に起床した揺命は、朝は彼女の部屋を掃除すると決めていた。夜行性の吸血鬼はまだ眠そうだったので、そっと布団へ残しておくことにする。


「めちゃくちゃ怠そうだな…朝飯食いにいかねぇの?」

「うー。ちょっと待ってよぅ」


うつ伏せになりながら頭痛に苦しむ彼女の覇気の無い声を聞いていると、こっちまでやる気を無くしてしまいそうだ。勿論、勝手に上がり込んで掃除させてくれと提案しただけなので、やめようと思えばやめれば良いだけなのだが。


「――よし、これで完璧。どうだ、ファルテ。全部キレイにしといたぞ」

「んぁ、……おお!え、凄い!これ本当に私の部屋!?」


顔を上げると、とにかくファルテは興奮していた。頭の痛みを抑えるように片手を頭部に添えつつ、自身の部屋の床が見えたのは数年振りと目を輝かせている。どんな杜撰な管理しているんだ、と溜息を漏らす。


少しだけ機嫌が良くなった彼女に、昨日の出来事の一部始終を伝える事にする。


「そーいや昨日スラム街に行ったんだけど…」

「あー!あんなに行くなって言ったじゃん!お金むしり取られたの!?それとも怪しい人に声かけられた!?」


彼女の声が一層大きくなる。今度は怒った表情だ。ファルテの表情はコロコロと変わって、見ていると面白い。取り敢えずは誤解を解こう、と心配している彼女に聞こえるように咳払いする。


「…えーと。今は確かに一文無し。50万ウェン自分で払ったんだ」


その言葉に彼女は眼を見開く。驚いたのか、心配したのか。


「その――ヴァンパイアの女の子と会ったんだ。何てか、助けなくちゃいけないだろうと思って。今は俺の部屋で寝てる」


生命を買うという表現は好きじゃない。故に、会ったと言ったが、伝わっただろうか。

何を言うか整理していなかった為に、彼女がどういう状態だったのか、どんな相手から買ったのか、その他諸々の事を説明していなかったが、ファルテはこの世界には詳しい。その辺の事は察してくれたのだろう、しばらく俯き考えた後に微笑みを揺命に向ける。頭はまだ痛いだろうに、自分の事を心配してくれている事は容易に分かる。

彼女は数度頷き理解を示した。


「――へぇ、あのフラトがねぇ。そっかそっか、だいぶ運命感じたんだろうね。」

「あのフラトってなんだよ」

「だってキミさ、面倒事を忌避したいって怠そうなオーラムンムンだったじゃん?歩き方にしろ、話し方にしろ。人助けとか嫌いなのかと思って、お姉ちゃん将来を心配してたんだよ」


彼女の観察眼に、改めて賛美の言葉を贈りたいところだ。確かに揺命は他者に好かれるような人間では無いし、彼自身他者との関わり合いが好きではない。面倒な事を持ち寄られるのは、ただの迷惑行為でしか無いし、人助けに喜びを感じる事も出来ないのだ。


そんな揺命が、彼女を助ける事には意欲的になった。その理由は、本人にも分からない。


「…そうか」

「ちょっと安心した。で、私にはその女の子を家族として受け入れてほしいって言いたいんでしょ?」


物分かりが早くて助かる。明るい表情でこくりと頷いてくれた彼女に、感謝してもしきれない。


「そういえば、もう一人ここに住みたい人がいるらしいから。その子が来たら多分家庭食が食べられるようになるよ!」

「お、そいつは有難い。で、その子はどんな奴?」

「まだ詳細は聞いてないんだよねぇ。まぁ、遠くない内に来るだろうから」


家庭での食事――恐らく、この家での生活には欠かせないものだろう。銭湯に行くだけでも辛いのに、外食のために毎日三回家から出ていたら頭がおかしくなる。街からの距離が遠いのが、やはりこの物件の最大の難点だろうか。


まぁ、しばらくのニート生活封印は致し方無いだろう。こっちの勝手な事情でストレアを家族にした以上、彼女の生活費分くらいは自分で稼がないとファルテに顔が立たない。ギルドでの依頼を受けて、コツコツと稼いでいこう。ファルテに依存しきった生活を送る自分にも、嫌気がさしていた所だし。


問題は、ストレアとファルテが馴染めるか否かだ。揺命とストレアには既視感と違和感という共通点があった為容易に彼女とコミュニケーションが図れたが、ファルテはともかくストレアはきっとコミュニケーション能力が高いほうでは無いのだろう。まだ子供だ、仕方が無い。

二日酔いで重いだろう体を起こすと、ファルテは笑って言う。


「じゃ、三人で朝ご飯食べにいこっか!昨日と同じ店で!」

「あ、待って。ファルテが昨日友達と呑んだ残骸を片してから行くよ」

「え?昨日は家では外での乾杯の勢いで一人酒だったけど」


いやマジかよ。人間が呑める量じゃねぇし病気になるぞ。そうツッコみたくなったが、彼女の稼いだ金を彼女がどう使おうと咎める事は出来ない。リビングの瓶の本数を思い出し軽く青ざめながら、適当に相槌を打った。







――一時間後。




「ストレア、起きろ。朝飯行くぞ」

「……誰」


寝惚けているようだ。その声質は昨日聞いたソレと同じく、無感情だが幼さを残している。青い瞳に魅入られながら、その目を覚まさせるように。


「俺だ、俺。昨日逢っただろ」

「…濁った黄色い目」


余計なお世話だ。家系的な特徴の自身の瞳を気にしつつ、外に出るようジェスチャーする。ブカブカの衣服からは色々と見えてしまいそうだ。彼女は眼を擦りつつ、「おはよう、フラト」と言葉を漏らす。

――あー、そういや服買わなきゃな。


すっかりその事を忘れていた揺命は、この日の朝もファルテの財布に依存する事になってしまうのだった。






「でさぁ、フラトってばそのギルドのおじさんにあからさまに嫌そうな態度でさぁ」

「主人はそういう所、すぐ顔に出るから。バレてないつもりみたいだけど」


飲食店で二人は意気投合していた。朝一にがら空きの銭湯に入ってからは、ストレアのよそよそしい態度も消えて、まるで姉妹のようにすら感じられる。

俺をディスる話題というのは流石に豆腐のメンタルが傷つくのだが、二人が仲良くしているのなら良いだろう。何故か湧き出る涙を抑えつつサンドイッチを口に含む。

心配の必要など存在せず、二人はなかなか相性が良く、会話を楽しんでいた。ファルテはやはりヴァンパイアに対する偏見など無いし、きっと彼女がヴァンパイアだとは周りの人は知らない。常連で人気者のファルテと普通に話しているうえに、創作の吸血鬼を見てもいないのなら、その牙を見ない限りは彼女は少し肌が白い可愛い女の子としてしか映らないはずだ。


「何、ところでフラトに主人って呼ぶよう言われたりしたの?」

「んーん、昨日ベッドで俺がご主人様だから下に行けって指示されて」

「流石に言い方に問題があるんじゃないですかねぇ!?」


その言葉は聞き捨てならない。確かに彼女にはベッドから降りるよう言ったし、自分が主人だからと主従関係を分からせようともしたけど、そういう事は考えてないからな!大慌てで言葉を割る揺命に、ストレアは「ぷぷっ」と小馬鹿にしたように笑う。…このヤロー。


相手を睨むと、その様子に苦笑交じりにファルテが言葉を挟む。


「さて、今日の予定確認させてね。私はまた友達と討伐行くけど、フラトは?」


ならば自分は今日も街の探索――と言いかけたところで口を閉じる。

彼は少しでも収入を得なくてはならない。流石にファルテに借りっぱなしは自身のポリシーに関わる問題になる。


「――俺も何か依頼受けてみるよ、簡単なやつ。」


その回答にファルテは満足したようで、表情を晴らす。まるでニート卒業の子供を抱えた親のように。


「じゃあ、決まり!無理はしないでね、フラト」

「分かってる。…その前に、時間あるならストレアの服を買ってやってくれ」


ここでも他力本願となってしまうが、流石にこのブカブカの服装を無理矢理適当な鉢巻で縛った恰好で街を出歩かせるのはいかがなものかと思う。それに、彼女が満足しない服装でいさせるのも、主人としてどうかと思うわけだ。


「勿論良いよ、まだ1時間あるし。それじゃ、イナバラビッツ行こうか!」

「うん」


僅かに言葉を返すストレアの表情も、どこか嬉しげであった。




さて、ストレアの好みとファルテのセンスに任せて外で待っている揺命は、その二人が帰って来るや、絶句してしまう。


「…ストレア、お前――その恰好は…!!」


彼女の服はこうだ。ヴァンパイアらしく配色は赤と黒をベースに、黒いミニスカートに赤のレースのものを選んでいる。動きやすさを重視したスカートだろう。そして、動きやすさを追求したためか、その肩や脇には穴が開いており、圧迫感を薄めている。しかし、その服装の最も素晴らしいのは――肩までが覆われている全身インナーだ。これにより、ヴァンパイアの肌は焼け辛くなっており、確かに画期的な発想なのだろうが――エッチすぎないだろうか。破壊力の高い服装に言葉を失う。ハーゼさん、マジ感謝ッス。


「…やらしい目で見てるでしょ」

「み、みみみ見てねぇよ!!??」


軽く声は上ずり、むしろわかりやすい反応を示してしまう。そんな様子に僅かにファルテは微笑みつつ、


「ふふ、元気だねぇ。じゃあ私はそろそろ行くから。くれぐれも無理しないでね二人とも!」


と手を振り仲間の元へ走っていった。こちらも軽く手を振る。そして腕を上へ伸ばし深呼吸すると、ストレアに声を掛けた。


「…さて、ストレア。ギルドに行くぞ」

「できるだけ手伝う。」







「あ~ら♡わざわざ会いに来てくれるなんて感激だわァ♡アラ、今日はちっちゃいお友達も一緒なのね。ファルテちゃんとの子供?」

「流石にありえないでしょう!?」

「友達です」


俺とファルテが子持ちの年齢には見えないだろ普通…揺命は内心呟く。


冗談のつもりなのだろうが、流石にこれにはツッコミを入れさせてもらう。流石に子供と言われたのが嫌だったのか、あるいは揺命の子供設定が癪に障ったのか、ストレアも否定する。


やはりこの人には慣れない…二度目に現れた大男(シュトローマン)に苦笑を返す。先ほど話題に上がっていた男を前に、さっきの朝食中はファルテの言葉に頷いたストレアだったが、今は割と揺命に同情している様子で、哀れみの眼差しを向けてくる。そんな目で見るな。


「あ…えーと。今日は依頼を受けに来ました。コレ」


予め入口すぐにあった掲示板から選んでおいたDランククエスト:『雑草駆除』を選び、相手の目の前に置く。ランクが最低から一つ高かったのは気になるが、雑草の駆除なら自分にも出来そうだと選んだ次第である。


「働く気になったのね!?私嬉しいわ、フラトちゃんこの前ギルドに入ってから雰囲気が悪かったから…」


いやお前のせいだよ、と言いたくなるのを堪える。きっと顔には出ているのだろうが、シュトローマンの眼は割と鈍いらしく、気付かれている様子はない。


「じゃあフラトちゃんの初依頼は雑草駆除に確定ネ!いってらっしゃぁい♡」


投げキッスに悪寒が走る。身体を這う寒気に身を震わせつつ、軽く礼をしてはストレアの手を引きその場を後にした。


二人は早速、雑草駆除に向かう事になる。まずは5000ウェン手に入れる為に。

情報開示:『クエストランク』


この世界のクエストは、その難度に合わせてランクが設計されている。


Eランク→底辺ランク。誰にでもできる。

Dランク→最低の討伐もこのランク。簡単だが死の危険も付きまとう。

Cランク→比較的高いランク。ソロは危険だが、しっかりと対策していけば達成は可能。

Bランク→危険なランクで、ソロで向かうのは非常に困難を極める。対策は必須。

Aランク→非常に危険なランク。必ず10人以上で向かう事が望ましい。

Sランク→手練れ以外は受けてはいけない。ここまで来ると母数が非常に少ない。最低20人。

Lランク→レジェンドランクは、例外的な事案にのみ発生する。天変地異レベルの敵の討伐となる。

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