第一話 夢の施設
坂道を、私は自転車で走る。
今は日が照っていて熱いが、風が気持ちい。
やがて自転車を止め、自分の家へ入る。
スライド式のドアを開けると、お母さんがキッチンで玉ねぎを切っている。
「お母さんただいま。」
「あらお帰り。もうすぐお昼できるから。」
「は~い。」
すると、お母さんが近寄ってきて聞いた。
「ねえねえ。で、どうなの?」
「どうなのって・・・」
実はさっきまで、アナウンサーのオーディションに行っていた。
たぶん無理だけど・・・。
「ど・う・な・の?」
「たぶん・・・」
「たぶん?」
「・・・ごめんなさい!たぶん無理!」
「あ~!そっか~!」
悲しむお母さんを見るともっと悲しくなるので、私は2階に行こうとした。
するとお母さんが、広告入れをあさり始めた。
私はハッとした。
まさかお母さん。ショックで頭がおかしくなっちゃったとか・・・?
「あ~ほらあった!」
あれ・・・?違うの?よかった。
お母さんが持っていたのは、あるポスターだった。
「お母さん、何それ?」
「これはね、紅音にピッタリな施設のポスターなの。」
「施設?アナウンサーの?そんなのあるの?」
「あるの。それでね・・・」
お母さんが言い掛けた時、ドアが開いた。
お兄ちゃんが帰ってきたのだ。
「ただいま。ご飯もう出来てる?」
「あともうちょっと。」
「オッケー。」
「お兄ちゃんお帰り。」
「ただいま。何見てんの?」
「施設のポスター。」
「施設?」
私はお兄ちゃんにそのポスターを見せる。
お兄ちゃんは、立ち上がりながら言った。
「すげぇ。俺も行きてぇ。」
私は、お母さんの方を振り返って言った。
「私も行きたい!!」