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09 キュンの角度

2016/8/27 12:00 1/2

 魔法、それは人類の夢。

 魔法、それは人類の希望。

 ゆえに、我等魔法士は巌の雨を防ぎ未開の地を進むため、力を尽くすのだ。

 

 燃え盛る炎は生物を畏怖させ、穏やかな水の流れは癒しを与える。

 頬を撫でる風を操り空を翔け、巍然(ぎぜん)たる大地の力を極めた者は山すら生むという。

 魔法、それは人類に対し平等に与えられた物ではなかった。

 魔法、それは人類の憧れである。


 俗にいう四元魔法。使用方法も多岐にわたり強力な魔法である。

 しかし四元の才がない者でも、その他の魔法に才が現れることもある。

 そう、“その他”の魔法に、である。

 神は平等ではないのだ。


 その他の魔法のその一つ。生成魔法。

 それを操る魔法士は便利屋と呼ばれている。

 ──ちょっと作ってみてよ──

 ──少しくらい、いいじゃないか──

 彼の者達は己の魔力を犠牲に魔法を行使する。

 ゆえに、便利屋。人々は──そう呼ぶ。

 だが、とある魔法士には希望が生まれた。


 魔法士(マジシャンズ)ギルド所属、ロコ・T・ルリッタ。


 彼女には初代領主様と同じく特異ユニーク魔法が発現したのだ。

 そして彼女は、初代領主様と同じく己の存在を消費するのだろう。

 強力なゴーレムを生み出すために。

 

 我々は知っている。アクセルアサルトの使い手を。

 我々は知っている。彼の御方の末路を。

 我々は叫ぶ。馬鹿だと。愚かだと。自殺志願だと──そう叫ぶ。

 

 ゆえに、私は君達に伝えよう。

 この馬鹿で愚かで自殺志願者の便利屋。そんなツルペタ魔法士を気にかけてやってはくれまいか、益荒男(ますらお)よ。

 ロコ率いるペタン娘月影の魔女達(ウィッチーズ)。生き急ぐ彼女達を、どうか見守って欲しい。

 なぜならば、我々は──二度と失いたくはないのだから。


 ~・~ゴリアテ魔法士(マジシャンズ)ギルド副長 アルテュール・T・エルネターヴ~・~


「あのジジィのせいかっ!! 何やってんの!?」

「心配されて真面目に依頼されておられるのではないでしょうか? おそらく斥候(スカウト)ギルドや探検家(エクスプローラーズ)ギルドにも同様の手紙を出されているのでは? 子供の魔法士が実戦に出ることはあまりないですし、女の子ですし。だから目立つようにわざと……その、ツルペタとかペタン娘とか……ギルド会議で…………」


 ギルド会議ぃ!? 狩人(ハンターズ)ギルドの受付嬢からロクでもない情報を得た。

 燃え盛る怒りの炎が魔力をたぎらせ、真紅のローブがはためく。純白が顔を覗かせた。パンチラの瞬間である。ムッ、視線を感じる。イカン、抑えろ俺っ! サービスシーンなぞ無用じゃ! 控えぃ!


「ふ、副長は優しいから! ね? ロコちゃん、ねっ?」

「副長はバカ。でもペタン娘、広めたのロコ。自業自得」

「うっ! で、でもさ、レコーダーに表示されちゃってんだよ!? 副長めー……」


 自業自得と指摘も受けた。ぐむむ。しかしだな、大きなお世話ってヤツだろ、 コレは! くそぉ……オヤツGETギルドツアーしたせいもあって認知されまくっちゃったのか? そんでデータ集めまくってる世界樹が余計なことをしやがったんだな!? おのれ世界樹……ゆるさん!! ロコブラックGXに変身しそうだ。


「大体、自殺志願者って何? ……死にたくないよ?」

「うん。ゴーレム生成に失敗しただけだもんね……」

「うん。ゴーレム、変だった。それが原因」

「うわあぁっ? なんか二人とも冷たい気がする! ペタン娘? ペタン娘のせい? ワザとじゃないよ? ついだよ。うっかり歌っちゃったんだよぉ。ボクのせいじゃない! はず!!」


 ツルペタカワイイペタン娘だー。とか、ついうっかりだよ。うっかりロコたんだよ。そんで雷電は失敗なんかじゃないぜ! 予定外だっただけだ!!

 

 ただ、チョ~ット気になることがある。チリチリ部位だ。腋、胸、股間。……変な表現だけど、ツルツル&ペタン娘を促進されてしまうのだろうか? ツル的には、まあ良しとして、おっぱいは? 俺のパイドラドはどうなってしまうのだ? 称号を消す方法を探さなければヤバそうだ! 世界樹の記録から抹消だ!!


「ロコ、ロコ、どうする?」

「え? あぁ、そうだね。後で……副長の毛を毟ってから男のアイテム袋も潰すとして、称号を消す方法を探さなきゃ」


 もう少し寒くなる頃なら男のアイテム袋が梅干の種みたいにキュンって縮むから潰しやすいかもしれんな。ほとぼりも冷めて油断しているだろう。ウム。


「何言ってるの!? ロコちゃん!」

「えっ? 仕返しと称号の話だよね?」

「違う。オオカミの討伐依頼を受けるかって話」

「ロコちゃんはオオカミ苦手って言ってたから、危ないんじゃないかなあって」

「ん? 受ければいいじゃん。今はパーティ組んでるし、雷電もいるし。前よりは戦えるんじゃない? だって一人じゃないからね!」

「大丈夫かなあ?」

「ダイジョブ。私が守ってあげる。お姉ちゃんだし約束」


 信用ねーなあ……俺。だがまあ、依頼は受けることになった。なんとかなるさ。……って思ったけど、よく考えたらオオカミ戦の時って確かウンコ漏らしてオオカミが撤退したんじゃなかったっけ? ってあの時の下痢は毒魚食って出たウンコだから、毒々しいウンコに気付いたオオカミに見逃された……のか? うーん……。


「まあ、どうにかするよ」

「かしこまりました。それで、護衛はどうされますか? 護衛料金の支払いは魔法士ギルドとなっていますよ」

「お断りっ!」

「オオカミ、オーちゃんが蹴散らす。私は死ぬまで殴る。問題ない」

「えっと、一応聞くけどさ、死ぬまで殴るって敵が死ぬまでってことだよね? ユユが死ぬまで殴るってことじゃないよね?」

「私は死んでも殴り続ける。敵は倒す。だからダイジョブ」

「そ、そっか、分かった。それなら平気だ? 平気なのかな……?」

「そうだね。オオカミくらいなら私もいるから平気だもーんっ!」

「兎の民なのにオオカミとか平気なんだ?」

「……特訓させられるから…………」


 遠い目をして語るリラ。何があったのか。


「大丈夫! 今は平気だからっ!」

「そっか、じゃあ早速行こっか」

「行く」


 「おー!」と三人で声を上げて出発進行。当列車は狩人ギルドを出ますと、終点、ゴリアテ橋前まで停車致しません。お乗り間違えの無いようご注意下さい。レディース&ジェントルメーン、ウェルカムトゥザ、ロォコトゥレイン、ペラペーラ、ペーラ、センキュ。……いや、一列縦隊で扉を出たらなんとなく電車ゴッコみたいだったので……。ま、まあ存在力が少ないからな。無意識に不安を誤魔化しているのかもしれない。ガンバルぜ!


「朝ご飯食べてないからお腹が悲鳴を上げてる」

「屋台ならもうやってるはずだよー! 食べる?」


 モチロン! と声を上げて屋台へダッシュ。食うのは俺だけだったけど、オーちゃんが俺の周りをウロチョロしてる。無言のプレッシャーを受けつつ、俺は串肉を両手に持って食べながら南門へと進む。


「ロコ、荷物多い。どして?」

「うん? うん。分けるの面倒だったから全部入りー。着替えとかいらないと思うけど、わざわざ出すこともないしね」


 ピトンとかピッケルはもっと不要な気もする。

 そして無言のプレッシャーも受け続ける。足にスリスリ攻撃が始まった。


「あっ! 分かった~、ユユちゃん荷物持ってもらうつもりなんでしょー!」

「正解」

「悪びれろ!?」

「ダメ?」

「オーちゃんに肉をあげていいなら持つよ」


 オーちゃんは俺のバックパックに前足をかけて立って歩いてる。フンフン言いながら耳の後ろを舐め始めちゃったよ。もらえそうなのが分かっている様子。でもくすぐったいのでやめておくれ。ユユから与えていいと許可が出たので残りを食べさせた。くそーカワイイなあ。俺にも従魔がいたらなあ。


「雷電はカッコイイけどカワイイのも欲しいな。具体的にはふわふわ!」

「ロコちゃんは宿暮らしだからペットも無理だもんね」

「だから何度も言ってる。ウチで暮らせばいい。撫で放題。ロコはちっちゃいからダイジョブ」

「そういう甘えはイクナイ」

「変なところでキッチリしてるね、ロコちゃん」


 そんな取り止めもないことを話しながら南門を抜けて町の外へ。おはようの挨拶を門番の騎士と交わす。そしてここから先はデンジャーゾーン。

 ゴーレムの出番といきたいが、実をいうと雷電は接敵するまで出せないと考えている。というのは、瞬間的な動きならまだしも移動速度が遅いと思うんだ。敏捷度に振るようなことを考えてなかったからな、あの時は。まあ、まずは耐久力を強化しないと運用し辛いだろう……って、待てよ……?


 素で生成した時は存在力を5消費するってことは、筋、耐、敏、器、知がそれぞれ1なのかな? とすると今は筋と耐が+2で3になってる? 9消費したからな。

 あ、これって1つずつ強化していくと筋と敏は調べることが可能かも? ゴーレムと俺で比べたら……ステータス的に数値として表せられる、か。おおぅナイスアイデーア! 後で調べよう!


『祖は血脈の息子。()は血脈の後裔(こうえい)也。──月の眼を開け、怠惰の王。安息は眠り、屍を晒す』


 お、ユユが従魔に何か魔法をかけるようだ。言葉に乗せた魔力が紡ぎ出す、世界に書き込む魔法の呪文(マギスペル)。輝く魔法円に光のツブツブが集まって、形を成していく。

 高まる魔力。はためく濃紫(こむらさき)のローブがフワリとめくれて、ちっちゃなお尻を包むパンツがちらり。う~ん魔法士はズボンはかないとパンチラしまくりですな。白い布地にヒマワリのアップリケが眩しい。魔力光よりも煌めいている。俺にはそう見える。これが──女子力っ! なんて力だっ!! なんてなー。


「ヨシヨシ」


 オペークパンサーのオーちゃん。そのフワフカした毛並みを撫でながら警戒と守護の指示を与えている。


「ヒマワリのアップリケが眩しかった」

「二人ともローブの下に短パンとかはかないの?」

「この町に着くまで破けたパンツで過ごしてたせいで、まる出しじゃなかったらわりと平気になっちゃった」

「私も破けてなかったらダイジョブ。母様(かあさま)がパンツ直す。全く問題ない」

「でもパンツ見えちゃうよっ!?」


 かぼちゃパンツだからなあ。

 ユユはよく分かんないけど、俺は男だし正直パンツ程度なら見られてもなんともないよ。羞恥というよりは、みっともないからパンチラ回避するというか。風呂上りに素っ裸でうろつくオッサンのみっともなさっていうか、そんな感じ?


「あーでも、確かに男の視線に晒されるのは避けたいなあ。まあボクのは子供パンツだから、気を付けてれば問題ないかな?」

「モコモコするの嫌。リラと違って、私も子供パンツ。問題ない」


 ン?


「……リラは大人パンツはいてんの?」

「は、はいてないよ!?」

「リラのパンツは大人パンツ。キュンってなってた。前に見た。確実」

「な、なってないっ!!」


 ワザワザ魔力を込めて宙に文字を描くドヤ顔のユユ。光輝くその文字は勝利を約束するVの文字。正にキュン。リラは焦って消そうとしているな。これは紛うことなき真実を物語っている。


「なってた。間違いない。キュンのパンツ確定」

「キュンのパンツかあ……」

「ち、違うっ! 違ぁーうっ!!」


 そんなパンツ談義してたらオーちゃんが「ギャフー」と文句を言った。そうそう、パンツ談義じゃなく狩りの時間だった。すまないね、女子力を高めるために俺は獣にならなきゃいけない時もあるのだよ。昨日風呂屋に行った時、リラはキュンのパンツじゃなかったから今度見せてもらおう。キュンのパンツの角度ってヤツ。

 ……俺も大人パンツ買おうかな。かぼちゃパンツしか持ってないんだよね。

 

 うーむ……当初の予定だった帰還のための情報を得る旅。その日暮らし過ぎて資金があんまり貯まってない。どこかにお宝が落ちてないかなー。

 とりあえず大人パンツは旅費が貯まるまでガマンしよう。


「まあ、キュンのパンツは後にして、索敵して欲しい。リラは落ち着いてよ」

「も──っ! もぉ────っ!!」


 羞恥か怒りか、真っ赤な顔して地団駄を踏むリラ。スタンピングが激しい。いや、すでに震脚。石畳が割れちゃいそう。からかい過ぎてしまったようだ……俺とユユは顔を見合わせて同時に頷く。気持ちが通じ合った。


『ゴメンナサイ』声を合わせて謝罪する。

「ママが全部洗濯しちゃってアレしかなかったのっ! 買ってきたのもママだもんっ!」

『ゴメンナサイ』心を込めて謝罪する。

「私にはかせるために全部洗ったに決まってるもん!」

『ゴメンナサイ』魔力も込めて謝罪する。

「尻尾の毛が痛むからキュンってなってるの仕方ないもん!」

『ゴメンナサイ』誠心誠意、謝罪する。

「ううう~……」


 俺達はひたすら謝り続けてリラの機嫌が直るのを待った。石畳は一応大丈夫だった。……一応。

 キュンのパンツのせいで敵に先手を取られるのはマヌケだもんな。

 

 そういえば破けたパンツを直せば高い金を払うことなく大人パンツに戻れるか。元祖ロコは大人だったんだなあ。刺繍とか凝ってんのは銀貨だぜ。大人パンツは侮れんぜ。いや、大人パンツとか言ってるけど実際はティーンズ用な。元祖ロコパンツは。


「二人は裁縫とかできる?」

「私は苦手だなあ。ユユちゃんは?」

「少し。母様に習ってる」

「破けたパンツ直せる?」


 俺はバックパックから二枚の破けパンツを取り出そうとしてユユにデコピられた。


「後で」

「それもそうだ」

「もー……早起きした意味がないよ?」


 そだね。門の辺りでパーティメンバーを待つハンター達も、ちらほら集まってきている。獲物は早い者勝ちだし、とっとと進むか。

 橋を渡って森へと進む。南門の前にある川は天然の堀って所だな。生活用水なんだろうな、この川。毒ウンコ垂れ流しちゃってゴメンナサイ!


「川魚食って死んでたかもだけど……この川が無かったら森で迷って野垂れ死んでたかも」

「初耳だよっ!?」

「私も聞いてない」

「あーそういえば言ってなかったっけ」


 テクテク歩きながら、俺はこの世界に来てからのことを話した。


「──という訳でゴブリンに大人パンツを二枚とも破かれてしまったんだー。ピラピラめくれてたらしくてさ……うぅ今思い出しても恥ずかしいな……モロだし……」

「そこじゃないでしょおっ!? ロコちゃんっ!」

「ロコは一人にすると死にそう」

「え、ナンデ?」


 目覚めたらゴブリンに犯されそうだったとか、食う物ない上に知らないから毒魚食ったとか。仕方ない……よな?


「来訪者は変。決定」

「そうだね。副長も来訪者だから普通の人と違うんだって、ロコちゃんの話で分かったかも」

「後、漢字の知識、狙われる。ナイショがいい」

「シーッ! だよ? ロコちゃん!」

「そ、そう……?」


 お姉さんぶりたい二人に諭されて、なんだかよく分からないが漢字のことは内緒にすることになった。いやいや、内緒も何も副長には翻訳も頼まれそうなんだけどね。

 そんなこんなで姦しく。我等、ペタン娘月影の魔女達(ウィッチーズ)は森を行く。

<所持品>

 財布x4 水袋x2 袋x2 ウェストポーチ 油 タオル×2 バスタオル×2

火打石と打ち金 ロープ15m フック付きロープ5m ピッケル ピトン×4

 保存食x6 革製多目的手袋x2 手鏡 応急セット

 レコーダーと紐付き革製カードケース

 厚手のシャツ シャツ×2 チューブトップの肌着×2 かぼちゃパンツ×2

 ▼破損している物

  血染めのシャツ 血染めのチューブトップの肌着 大人パンツ×2

<装備品>

 鉄のトンファーx2 解体用ナイフ ローブ 革のグローブ 剣帯

 シャツ チューブトップの肌着 かぼちゃパンツ ブーツ

<所持金>

 小銅貨x21 銅貨x4 銀貨x1 金貨x1

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購入:串肉x2(一本小銅貨一枚)

預かり物:ユユの荷物

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『月の眼を開け、怠惰の王。安息は眠り、屍を晒す』

※今から月曜な! さっさと動けハゲ! キリキリ働けハゲ! テキパキ仕事しろよハゲ! わかったな! ハゲ!

そんなイメージで呪文を考えました。


 次回ペタン娘魔女AA(ウィッチダブルエー)第十話「チンッ!」にセーットアーップ!

次話は20:00です。

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