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05 π拳の奥義

2016/8/25 12:00 2/3

 いきなりとか急にとか突然とか、そんなの困るって言ってんじゃん? なんなのさ! 取調べか? 刑事かよ! 急に取調べとか困るんだけど!! 毟るぞ!?

 

「な、なんで……しょうか?」

「失礼。警戒しなくてもいいですよ。取り合えずこれを見て下さい。私のレコーダーです」


 なんじゃらホイ? 

---------------------------------------

名 前:アルテュール・T・エルネターヴ

性 別:男

年 齢:83才

種 族:H・深森の民(エルフ)

所 属:魔法士(マジシャンズ)ギルド

備 考:魔法士ギルド副長

存在力:61

技 能:風魔法 状態異常耐性

 存在力順応強化 耐久力強化

 視聴覚情報強化 魔力感知熟練

 多言語理解補助 魔力操作熟練…etc

---------------------------------------

 ハーフエルフだ! エルフ確定しました! 小太りH・H・エルフだけど。

 俺がドワーフな時点でいるんじゃないかと思ってたけどね。

 しかしレベル……じゃなくて──

 

「存在力61かあ、高っ。飲み屋で呑んだくれてるオッチャンみたいなのに魔法士だ……しかも管理職だし強っ。アレッ!? 爺ちゃんだ!」

「ゴホン、そこじゃないですよ。ロコさん」

「えっ!? あ、声に出てた……」


 ヤッベ、小太りハゲ・ハーフ・エルフ辺りから声に出してたらヤバかったぜ。


「確かに私は管理職ですし、それなりに強いです。しかし呑んだくれませんし爺ちゃんというのも違います。が、私が言いたいのは、そこではありません。名前を見て下さい」


 ……あ、Tのミドルネーム?

 

「トリッパー、トラベラー、トランスファ。色々と言い方はあるのでしょうが、ロコさん。あなたは来訪者ですね? 異世界からの。いえ、あなた()、と言うべきですか。異世界からこの地へ来た者にはTのミドルネームが追加されるようなのです。まあ異世界人でなくとも持っている方はおられるので確定ではありませんけど、ロコさんは銃を知っている様子でしたので。この世界には、まだ(、、)ありませんよ」


 あっさりバレター! 一応ロコたんの記憶もあるっちゃあるんだけどな。銃の存在を知らなかったから、銃が存在しないことに気付けなかったのか。


「えっと……じゃ、じゃあ副長さんは地球の人?」


 すぐバレるってことは来訪者とやらは結構いるのかもしれない。とすると帰還のためのヒントが何か分かるかもしれない。ちょっと望みが出てきたな!

 

「ほう、ロコさんは地球の方ですか。私は網の目ε連星P-2という惑星の出身ですが少々関わりがあります。確かアメェルィカ、といいましたか。やむを得ない状況から牛型生物の血液をいただいたことがあります。当時の我々には必要な物だったのですが、牧場主には大変申し訳ないことをしました。物資や技術を渡すわけにもいかず、せめてものお詫びに肉は残したのです。まあ結局は星系間航行船が破損して全滅、この地に転生したのですが。その際、私の魂というのでしょうか……それがこの身体の持ち主、アルテュール氏に定着しましてね。以来、六十年。魔法士として生きているのです」


 キャトった側だよこの人。宇宙人だよ。グレイかよ! マジかあ。でも俺と似たようなことになったんだな。しかし六十年だと? 帰れない……ってことか? マジで? いや、でもこの人の元は死んじゃってるから帰れないのかもしれないな。

 アレ? でもアルテュール氏はいったいどうなって? ロコのこともあるし聞いてみる。

 

「副長さん、元のアルテュールさんはどうなったのか分かりますか!? この身体の持ち主といいますか、ロコのことも知りたいですし。酷い怪我をしていたようなんです!」


 副長は頷いて話し始めた。

 

「精霊種や妖精種と呼ばれる種族には死という概念がありません。肉体の活動が停止した場合、精霊魂となり空へ昇ります。それからしばらく後、新たな身体に受肉するのです。記憶を受け継ぐこともあるようですね。そしてエルフとドワーフは精霊種に属しますので、元のアルテュール氏とロコさんは新たな身体に生まれ変わるかもしれません。かもしれない、というのは親の片方の種族が精霊種や妖精種でない場合、命を失う可能性も否定できないからです」

「そう……ですか。ロコの故郷を探そうかなあ……死んでた場合、身体を返したほうがいいと思うし。ボクも元の身体で日本に戻る方法があるかもしれないし」


 よく分からないが、ロコちゃんの親の記憶がない。記憶の継承は完全じゃないみたいだ。だからこの世界で知らないことがあるのかもなあ。


「お勧めしかねます」

「エッ? どして?」

「生まれ変わった場合は新しい人生を歩んでいます。仮にあなたの魂が抜けても死体になるだけです。亡くなっていた場合、ロコさんの振りをして生きるのですか? ロコさんの身体で別人だと伝えるのですか? どちらにしても上手くいかないでしょう」

「で、でも……」

「第一、魂を扱うなどということは誰にもできないでしょう。世界樹レーラズだけが精霊の導きを可能にしているのではないでしょうか。それから……言い難いことですが、あなたの魂がロコさんの身体に定着しているということは、おそらく……」

「そ、そうか……死んじゃった……んだ」

「あなたは今、ここに、生きているんです! いいですね!?」


 おおっ? なんだ? 強く言われた。生きてる……かあ。そっか……そう、だよな。それに、まだ死んだ記憶はないし、ロコになっちゃったけど俺は俺か。可能性だってまだあるはずだよな。なら諦めることはないだろう。ロコだって転生してるかもしれない。

 世界樹か。そこに辿り着けば何かしらヒントを得られるかもしれないな。よし!

 

 そういうことだとしたら、確かにロコちゃんの家族に接触するのはマズイかも。誰か試した人がいるのかな? 副長本人かもしれない? 俺じゃ誤魔化す自信ないし出会わないように祈るしかない。


 う~ん。これからどうするかな。いや、どうするもこうするも旅をするなら金が必要じゃん。世界樹がある場所も知らないしなあ。

 稼ぐには? 商売なんてやったことない。発明? ムリだ。バイト……異世界に来てまでバイトなんかしたくないな……絶対イヤだ。オオカミが厄介だけどゴブリンで稼ぐのがいいかな? パーティ組めば可能性が広がるか! あ、でも強くないと組んでくれないかもしれないな。ゴブリン倒してレベルアップするか! オオカミが厄介だけど! ってな……。

 

「そういえば頭に響く声、聞きました? ロコさん」

「? ……あっ! あの直接聞こえるアレですか? アクセス、個体名ロコ・T・ルリッタとか毒耐性とかのシステムボイス的な」

「そうです。あれは世界樹の声といわれています。この世界の世界樹は全てに繋がっているそうですよ。なんでも記録を収集するのに貪欲なのだとか。だから別世界からも魂を引っ張ってくるという説があったりします」


 そんでこの世界では神様らしい。へえ、そうなのかあ。でもあの声って英語っぽい共通語だよな。世界樹とか地球の神話っぽいし何か関係あるのだろうか?

 んー? でも世界樹ってユグドラシルじゃなかったっけ? ユグドラシルって英語だっけ? レーラズとか聞いたことがないなあ。英語っぽい共通語で聞いた言葉を日本語として理解してる……からワケワカラナクなってきた……。地球の神様と関係ありって考えておこう。そのほうが帰れそうだしな! と、なれば──

 

「生成魔法の特異(ユニーク)? についても教えて欲しいです」


 情報プリプリプリーズ! 魔法なんか地球ないから知りたいんだよね。効率のいい特訓とかさ。

 

「アサルトアームズでしたか。うーむ、残念ながら私には繰り返し生成するくらいしか思いつきません。書物を調べれば役に立つ情報があるかもしれませんね。書庫は地下にありますので、ギルドへの登録が済み次第利用できますよ」


 ん? そういえばペラペラ自分の能力を喋っちゃったけどマズかったかな……まあいいか。親切な人っぽいし問題はなさそうだ。仮に敵対したら……とシミュレートしてみ……うん、考えるまでもないか。存在力──それが七倍くらいあるしな。副長とバトっても絶対負ける。キャトられる。宇宙人VS日本人IN異世界バトルとかファンタジー過ぎるわ。

 

「あっ、そうだ! 副長副長! どうやってそんなに存在力上げたの!? 効率のいいやり方ボクに教えてよ!」

「おっ! いいですね。フレンドリーいいですね! 元惑星人同士、仲良くやりましょう! ロコさん!!」


 ムッ? ちょっと地が出てしまったらハッスルしたぞ? まさかロコたんを狙ってるのか? ジジイめ! 許さんっ! ロコTシールド全開っ!

 

「大変失礼しました副長さん。しかし惑星人とは妙な言い方をされますね? ホホホ」

「あ、あれ? フレンドリーは? ま、まあいいでしょう。ええ、この世界は惑星ではなく……世界樹の葉の上にあるそうです。星じゃないんですよ? 不思議ですねえ。実は私、実験しました。風魔法を使って空を飛んでみたのです。ですが、どこまで行っても成層圏に辿り着くことはありませんでした。少々意地になりまして、九十日ほど上昇し続けてみたのですが空から抜けられなかったのです」


 バカー! 九十日飛び続けるってバカじゃねーのかこの人! 九十日間なにかやり続けるとしたら俺はおっぱい揉み続けたいよ。吸い続けたいよ! 揉めば揉むほどデカくなる。吸えば吸うほど強くなる! π拳!! なんちゃってー!

 あ、そうか。揉めば揉むほどデカくなる!? 今はつるぺたぷにちっこいからな。俺も頑張ればいずれ……。

 

 π拳の奥義に辿り着いた時、俺のレコーダーが更新されて戻ってきた。それからゴブリンの核宝石(コアジェム)九個で銅貨九枚もらった。

<所持金の更新>

 小銅貨三十七枚 銅貨十三枚 銀貨五枚

 

「お疲れ様でした。以上で終了ですよ。書庫に行かれますか?」

「あー……っと。いえ、今日この町に着いたばかりなので宿を取って休もうかと」

「そうですか。では大通りを東門に向かった所にある猪の鼻亭という提携宿に泊まるといいでしょう」

「猪の鼻って……あ、美味しい物見つけるって意味かな? ありがとうございます副長さん。行ってみます」


 ペコリと一礼して退出。ククク、キュートなロコたんに悶えるが良いわ。だが生足は見せぬ。爺には過ぎたるものよ! ハーッハッハ、フゥ疲れた。疲れるとテンションがおかしくなる。今日は早めに寝よう。

 大通りが十字に交わっている所をコキっと方向転換。東に向かってテクテクと。目指すは鼻の猪亭。疲れた身体に鞭打って~。


「めっざすは~鼻っの、いっのしっかて~い」

「フフッ」


 やっちまった。またやっちまった……昔からなんだよ。なんか頭の中で歌ってたら、いつの間にか声に出してて笑われるという羞恥コンボ。注意しても治らない。この癖と名前のせいで一時期勇者大貝、つまり「ゆうしゃおお・がい」と呼ばれてた。悲しい勇者王だった。GGG(ぐぎぎ)……。おっぱいの歌を教室で歌っちゃったからなあ、あの時の俺。

 まあ知り合いのいない世界だ。ロコたんダッシュで逃げればいいだけさ! だから微笑ましい感じで俺を見ないでくれ。

 走って小道に逃げ込んだら迷ったので宿の場所を道行く人に聞く。


「すいませーん。豚の猪鹿亭って宿を探してるんですが迷っちゃって……」


 猪の鼻亭の場所は八人目にてやっと判明。なぜなら豚の猪鹿亭なんて存在は無かったからだ。真紅のローブに身を包んだ赤面ロコたん。何度もお礼を言い、ダッシュボタンを押して走り去る。ゴリアテの町が夕日に染まる頃、ようやく猪の鼻亭に到着した。


 銅貨一枚分の割引があって、一泊二食付きで銅貨四枚だった。部屋に荷物を置いて、早速夕飯を頂く。ステーキと麦飯、肉と野菜のスープだった。相変わらず肉々しい。オナラが臭くなるぜ。明日の朝食は野菜多めでお願いしようか……。そういえば以前牛丼屋で大盛一丁肉抜き! っていう店員の声を聞いて吹きそうになったなあ。きっとあの客も臭い屁を回避したかったに違いない。さて、満腹になったことだし休むかな。いや、風呂に入りてーな……部屋には無かったが大浴場的なものはあるのか? 風呂屋か?

 

「二件隣に大衆浴場があるわよ」

「ありがと! おばちゃん。ご飯美味しかった!」


 どうしたしまして~の声を背に受けて、俺は颯爽と歩みを進める。漢は背中で語るのさ。小銅貨三枚支払う。そして男湯に入りそうになった。危うくロコたんボディを無粋な視線に晒すトコだったぜ。ちなみにおばちゃんばっかだったので、俺の視線は無粋にならなかった。だから一生懸命洗った。ピカピカにした。隅々まで。一心不乱に全てを磨いた。一生、懸命は俺の誓いになった。改めて伝えよう。一生懸命は俺の誓いだ。

 

 宿に戻り部屋に入る。風呂が無いのは不便だけど、ここはいい宿だ。副長に感謝。ご飯は美味しいし、部屋には銅鏡かな? が置いてある。手鏡よりも良く見えるねえ。きっと女性に優しい宿なんだろう。鏡で色々チェックできるな。服を脱いで改めて身体をチェック。

 シャツは胸に穴が開いてて血に染まっていた。やはり身体に傷はないようだ。背中……にもないな。聞くの忘れたなあ。世界樹がなんとかしたってことかな? 俺がこの身体に入った時点で、俺の身体ってことになるっぽいし、傷がないならまあいいか。元祖ロコが新しい人生を歩むように、俺も新しい人生を進もう。

 失敗を──ロコたんを操作している気分で誤魔化すのはもうやめだな。

 

 この世界にいる限り、大貝千尋ではない。ロコたんでもない。

 俺はロコとして、女として生きる。より深く、擬態しなければ厄介事を招くだろう。ゆえに! 女を磨かねばならないのだ。誓いだからね。

 

「はくちょっ」


 素っ裸で何やってんだか。少し練習して寝るか。

 腰を落として正拳突き。風を切り裂くドワーフの膂力。

 右回し蹴り、左回し蹴り。空を断つ一撃は異世界筋肉の躍動。これならば──あの技が完成するかもしれない。

 両掌を相手に向け軽く前方に出す。後ろ足に重心を置き、前足は踵をやや上げて前羽(まえば)の構えを取る。

 ここからだ。重心を置いた後ろ足で大地を蹴る。滑るように前進する八極拳の歩法! そして両胸を掌握し一気に揉みしだく!

 π拳一の手、前羽胸握襲掌まえばきょうあくしゅうしょうなり。なんちゃってー! 気分だよ、気分~。

 

 さて、ベッドに潜り込んで一人で上手にし~よおっと。

<所持金の更新>

 小銅貨三十四枚 銅貨九枚 銀貨五枚

串肉一本:小銅貨一枚

提携宿 :一泊二食付きで銅貨四枚

大衆浴場:小銅貨三枚

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 次回ペタン娘魔女AA(ウィッチダブルエー)第六話「見参! 其の名はロコ!!」にセーットアーップ!

次話は20:00です。

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