20 優しさは心を癒す女神の抱擁。夜空を照らす慈愛の光は安息の灯火。──抱き枕ホールディングス──
2016/9/3 08:00 1/3
「ロコさんが狩ったレイジングベアですが、どうやら特殊個体だったようです」
普通に話しかけてきたけど「ご、ご無事でなにより」と始めの言葉がどもったということは……嵐が過ぎるのを待っていた証拠。リラとユユもいつの間にか側にいる。ズルイ……ズル過ぎる。ちくしょうっ。でも報酬は高くなってるらしいので助かった。普通のヤツでも銀貨八枚と銅貨五枚らしいので、借金はすぐ返せるな。
それで? と、続きの説明を促す。本来のレイジングベアであれば──毒は勿論、病気をくらうことはないそうだ。俺がヤツの攻撃で異常状態になった事実が、特殊個体と判断するに足る状況なんだそうで。
更に問題が二つ。西の森に出現したということ。レイジングベアは南の森に生息しており、餌場を荒らされると怒り狂うことからこの名が付けられている。そしてそんな出現しないはずのクマがいたということ。つまり誘いこむような存在がいるかもしれないのだそうだ。これが二つ目だ。
斥候部隊に渡された遠距離通話が可能な魔道具──伝話具による報告と協議の結果、討伐部隊が出されたらしい。俺がが報告したゴブリンの洞窟には、明日到着して駆除が完了するだろうとのこと。移動が早いのは風魔法士がいる数パーティが参加、移動の補助しているためだった。
「なんてこったぁっ! 参加したかったのにっ!!」
「だ、だってロコちゃん……」
「そう、ロコのせい」
「そう、ボクのせいでしたーっ!」
ユユの吐く毒をヒップホッパーのように身体を傾け両親指で己を指差すポーズで華麗にかわす。こんななんでもない日常が心地好かった。
「ロコ、反省する」
「ロコちゃ~ん?」
「ボ、ボク反省する……申し訳ございません」
そりゃあもうマッハで謝った。超一流ホテルのホテルマンの如し……だ。そしてどの道、俺達の力量では討伐隊への参加は許可できないと副長に言われた。力が足りないと。
「でもあの洞窟が全ての始まりだったからなあ……何かあるような気がするんだよね」
「行ってみる~?」
「そうだなあ……」
「気になるなら行くべき」
「そうですね。魔法士にとって探究心も大切なものですからね。今からなら危険も少ないでしょうし」
副長の言葉に、顔を見合わせて頷く。ただ、出発は明後日ということにした。
狩人ギルドに報酬を受け取りに行かないとだし、ついさっき目が覚めたばっかだしな。明日は準備日だ。となれば、今日はゆっくり休むってことで。
「今日のお宿を取りに行かないと」
そう口に出したら、リラとユユが揃って我が家に泊まれと言い出した。悪いからと断ろうとしたが二人揃ってダメだと拒否される。いつまでも終わらない私んちコールに副長が苦笑しながら今日明日で泊まる家を代えればいいと案を出し、今日は私んちコールが始まるという事案が発生する。そしてジャンケン三本勝負が勃発。泣きの十五本勝負の末リラんち→ユユんちの順で、俺の意思が全く反映されていないお泊り会が決定されたのだった。うーむ……まあいいか。
そんな訳で三人揃ってリラんちに。急なお泊り会の無礼を謝りつつご挨拶ッス。ユユはリラのママさんに一言挨拶をしてお泊まりグッズを取りに、一旦家に戻るようなので俺も着いて行って明日のことを挨拶しておく。
リラんちは田舎に建っている洋館みたいな感じ。黒っぽいこげ茶のレンガ造りで二階建て。青色の屋根が滑り台みたいにグニ~ンとなっている。軒先には縄や紐で肉とか野菜が干されていた。鳥とかに食べられるんじゃ……とか思って聞いたことがあるんだけど、ご飯になっちゃうそうですヨ。そんな殺伐とした生々しい家を囲む生垣が爽やかな香りを漂わせていて体感温度をチョット下げる。断じて恐怖からではない。清々しい香りによる風鈴効果的なヤツだ。
一方ユユんち。グリーンカーテンというか家を全体的に芝生が覆っている平屋。所々覗いているオレンジ色のレンガで、こっちもレンガ造りと分かる。向かって右側に二階建てくらいのサイロっぽい円柱の上に工事用のヘルメットを被せたような建物が併設されている。一階がオーちゃんのスペースで二階は調教中の鳥がいる。丸太を突き刺したユユんちの木柵はオーちゃんの仕業と思われる傷が多数付いていてボロイのでした。ちなみに鳥ちゃんは増えたり減ったりする。リラんちから来たり、リラんちに消えたり……。それでいいのか……?
どちらの家も結構広い。どの家もというか、この町の家は総じて広いと思うんだけど、それは俺が元日本人だからそう感じるってのもあるか。まあだから一人くらい増えてもスペース的には大して変わらないんだろうが、手間は増えるんだよな。ソコんところリラとユユは知っているのだろうか。
「だーかーらぁ~、このお菓子セットはボク等のオヤツじゃないんだってば」
「ムー……」
「え~……」
お菓子セットは来る途中に買っておいた。迷惑をかけるし。二セットで銀貨一枚。ペタン娘の呪いだ。そういえば宿には歯ブラシがあったんで買ったことはなかったんだが、今回はお泊まりということで購入済みだ。木の捧の先端を解したグレート爪楊枝みたいな歯ブラシは五本で小銅貨一枚だった。
「ちなみにユユのお母さんにもお菓子セットは渡してありマース」
「ムッ? いつの間に」
ユユが荷物を取りに部屋へ行っていない時さ。でもナイショ。
「影に潜み闇に溶け込む忍ぶ者。フフフ、忍者っぽいだろう?」
「い、いつ!? ズルイよロコちゃん! 私見たかったー!」
「私も見たかった。ズルイ」
「バレたら忍者じゃない。シーッじゃん?」
ウーッとか言って悔しがる二人。気付かないのか、完全に勘違いしているのか。頭の中が忍者の挙動で支配されてるみたいだ。……いくらなんでも俺が分身の術を使ったとかまでは考えないと思う。
先にお風呂へ入りなさいというリラママの言葉に返事をして風呂場に向かう。
髪の毛を洗っていると、リラが分身……とか言い出したので、ユユが部屋に行ってる間にお菓子渡して挨拶しただけだ。と、本当のことを言っておいた。あからさまにガッカリする二人。意識を別のところに移させて真意から外す魔法じゃないマジックの技なのだ! なのだ!
「あ、忍者! って見て分かるようなのは忍んでない証拠。それは忍者ではないのです」
「そっかあ」
「ムゥ……なるほど」
魔法士なのに忍者ルートに入っちゃうと、おかしなことになりそうだし……忍者ネタはもう止めよう。なんかヤバイ気がしてきた! 侍も禁止ってことで。
「魔法士としての本文を忘れたらダメなんですからね、みなさん」
「アリスさんのマネ~?」
「胸、出来損ない」
「張り方が甘かった?」
「勢いとボリュームも」
「サイズ変更は無理だあ……」
「ボリュームはどうしようもないね~」
己の胸に手を当て黙り込むペタン娘月影の魔女達。ペタン娘のせいで一生無理だあ……。ホント、ロクでもねえ神だよ。いつかぶっ飛ばす。そして撤回させてやるんだ~。
しかし団欒と言うスパイスの効いた晩御飯で俺の心は癒された。
リラの部屋で川の字になって寝る。右手をユユが両手で包む。左手がリラの両手で包まれる。心配してくれているのだろう。俺は微笑む二人の手をギュッと握ってありがとうと返事した。優しさは、いつだって心を癒す女神の抱擁。夜空を照らす慈愛の光が俺達を包んだ。
「おやすみ、ロコ」
「ロコちゃん、おやすみ」
「うん……おやすみ。ユユ、リラ……」
月明かりに照らされた二人の微笑みは、まるで女神のようで……寝れねッスよ!?
ドキドキする。月明かりは安息の灯火とか言われてるんだけど、美少女二人に手を握られて沿い寝とか……そんなの絶対寝れない案件じゃんね。
そしてさっさと寝ちゃった二人の寝息を聞きながら、寝返りが打てないことに気付いた。
更にユユが俺を抱き枕にしてホールドし、リラは百八十度回転した挙句キックまでしてくるほど寝相が悪く、プロテクションフィールドの練習みたいになってしまった。
リラが更に百八十度回転した時、俺はユユを背負った状態でなんとかリラを抱き枕にしてホールド。ようやく眠りについた。
朝になりぃ~起きて早々~謝罪されぇ~。なんちって。
「失敗。ロコを間に入れたらダメだった」
「ゴ、ゴメンネ~……まだ直ってないみたい」
「そうか……抱き枕状態は対リラ用拘束術だったのかあ」
「で、でも寝袋なら大丈夫なんだよ~?」
それはみんな大丈夫になるんだよ~?
まあそれはいいとして、本日の予定は傷薬の購入とプロテクションの訓練、それから雷電の強化だ。
えーと? 使ったお金は、お土産x2で銀貨一枚、歯ブラシが小銅貨一枚、傷薬x2で銅貨六枚、借金が銀貨六枚x2。
収入はレイジングベアの報酬が二倍になって金貨一枚、銀貨七枚。オオカミ分が銅貨三枚。埋め込んだ苦無と鉄のソリも返却された。傷を受けてなかったら結構な額だったんだけどな。残念。
<所持金の更新>
銅貨二枚 銀貨三枚 金貨一枚
<雷電 爲右エ門>
出力5 耐久10 速度4 制御2→4 核LV2→4
雷電を強化したため、俺の存在力は現在9から5に落ちている。強化箇所は予定通り、制御と核LVを二つずつアップした。
しかしなんだな、硬貨を六枚しか持ってないから……スゲェ貧乏になった気分。だけど大人パンツを直してもらったので大人になった気分。
そんな感じで二日過ぎ──
──夜明けを迎えた。
狩人ギルドに行き先を伝え、一応ゴブリンとオオカミの依頼を受けておく。そして南門の前でリラから朝焼けは二日酔いという全く爽やかではない情報を仕入れつつ、気合を入れる。ユユがオーちゃんに魔法をかけている間に、水や寝袋といった重たい物を預かっておいた。お馴染みの行動だね。
「準備完了」
「うん。ロコちゃん、案内よろしくー」
「じゃあ行こうか。全てが始まった──あの場所へ。キリッ」
「アハハ変なの~っ。キリッ」
「ロコが変。それは当然、いつも変。川の流れも、変わらないまま」
「五七五七七ぃっ!」
二人とも首を傾げた。そうか、聞いた共通語が日本語になるの俺だけだしな。短歌とか俳句とか知らなければ意味不明の五七五ゥ。
聞いてみたところ日の国にそういった分化があるという。
「ヒノクニ語、無理……」
「漢字カッコイイのに難しいんだもん!」
「日の国かあ。やっぱり一回は行ってみたほうがいいかも」
「私も行きたいなーっ!」
「うん、私も行く」
「となれば、旅費を稼ぐのが目標になるかな。うん」
「洞窟見たら、南の森」
「そうだね~っ」
ウルルルーとオーちゃんが鳴いた。話が長いと言いたいのかもしれない。うーむ……なんかいっつも出発前に話し込んでいるな。
「ゴメンゴメン、オーちゃん。さあ行こう、始まりの場所へ! キリッどわあっ?」
「オーちゃんって、せっかちなの~?」
「話しすぎただけ。かも?」
「分かったってば。押さなくても行くから」
我等ペタン娘月影の魔女達は川辺を行く。討伐部隊は帰還する。早っ。俺等が一日進んだ辺りで野営の準備をしていると、いかだに乗って川を下る討伐部隊と遭遇した。
……今更気付いた。いかだを作ればすぐ町に着いたことに。あの孤独と不安に耐えた五日はイッタイ……。
俺がガックリしている間に、リラとユユが情報をもらっていた。洞窟までは移動を優先したらしく、間引く程度だったので普段程度にはなっているが気を付けて進めと助言を受けたようだ。
美少女三人のお礼とバイバイでテンションの上がった討伐部隊は、雄叫びを上げながら夕日に染まる川を下って行った。「この僕がエスコートしようじゃないか」とか言いだしたナルシーハンターみたいに、中には変なヤツも混じっていたのだが「不要。黙って去れ」というユユのポイズンブレスにやられた模様。
うむ、川の流れに消え去るが良いわ。あ、そうか……今は分かってるけどさ、あの時は川の先がどうなってんのか知らないんだからセーフだ。だって滝があったら死ぬかもだし。ゆえにセーフなのだ。俺は一個も間違っ──
「ロコ、ロコ、聞いてる?」
「──聞いてませんでした……」
「もぉー、だから洞窟は殲滅済みだからお金になりそうな物はないけど、探索だけなら楽になるねって話」
「ああ、うん。あそこの洞窟はホントに臭かったからマシになってて欲しいなあ」
「特殊個体、残ってたら儲かる」
「残ってないと思うよ~?」
「チョコチョコ稼げそうだけどね」
オオカミ九匹、ゴブリン三匹。存在力は7まで上がった。うん、普通程度にはチョロついてたよ。行きしなには肉と皮が邪魔になるので夕食用にチョット取って証明になる尻尾だけってことに。
日が落ちる前に晩御飯の準備。野草とオオカミ肉を混ぜて肉団子を作り、干し肉とキノコ類でスープを作って投入する。煮えればアトモスフィアスープの完成だ。
数種類のキノコと干し肉の旨味がスープに広がり、肉団子に染み込んでいる。アツアツの肉団子は力を込めずともホロリと解れ、野性味あふれる力強さをヨモギの香りと夜空を彩る精霊の幻想的な情調が包みこむ。つまり雰囲気汁ということ。
「もうちょっと美味しくしたいねー」
「やっぱり血抜きと熟成をしないとダメなんじゃん?」
「オオカミがダメ」
「こっちに鳥がいればいいのになあ」
「干し肉だけにしちゃう~?」
時間短縮になるしオオカミ肉はなしってことにペタン娘会議で決定した。
洗濯と行水を済ませて焚き火にあたりながら、のんびりする。今の内に雷電を強化するか。そんで呼び出して夜番にしよう。
<雷電 爲右エ門>
出力5→6 耐久10 速度4→5 制御4 核LV4
出力と速度を+1した。筋力をチェックするため、呼び出した雷電と腕相撲をしてみる。結果は俺が勝ちでリラが負け。
「リラとの腕相撲チェックをちゃんとしてなかったからリラの筋力が4~5って曖昧になってしまったなあ」
「でも結構強くなってるよね!」
「ずんぐりしてるのに速い。不思議」
「出しっぱなしでも問題なさそうだから、このまま夜の番にするよ」
「オーちゃんも休めるね~」
「うん。オーちゃん、のんびりしていい」
「ただ、うるさくなる可能性がある。おっきいし、岩だし」
あれ? そういえば一回夜の番にしたことあったような……。起きた時には消えてたような……?
「ねえ、こないだボクが倒れた時さ、雷電はすぐ消えたんだっけ?」
「チョットしてから消えたって聞いたよ?」
「うん、そう。眠たい……」
「前に夜番させた時さあ、朝になったら消えてたんだよ。だから意識がないと消えるって思ったんだけど……違うとなると時間制限かも? あ、敵を見つけて追っかけて距離制限に引っ掛かったって線もあるのかな?」
「明日、試す。眠たい」
「そうするかあ」
「じゃあ、おやすみー!」
リラはおやすみの挨拶が元気だな。オーちゃんに消えたらゴメンと謝って、俺も寝袋に潜り込んだ。抱き枕サンドの体温上昇による寝苦しさとリラキックのおかげで睡眠不足だったせいか、すぐに意識がなくなった。
<所持品>
財布x4 水袋x2 袋x4 寝袋 ウェストポーチ 油x5 火打石と打ち金
ロープ15m フック付きロープ5m ピッケル ピトン×4 ショベル
保存食x29 革製多目的手袋x6 手鏡 応急セット 傷薬x2
レコーダーと紐付き革製カードケース 雷電用バックパック
小袋(メモ帳十枚 筆記用木炭 消し木) 鉄棒 剣帯 鉄のソリ
タオル×2 バスタオル×2 歯ブラシx5
シャツ×3 チューブトップの肌着×2 かぼちゃパンツ×3 大人パンツ×1
<装備品>
鉄のトンファーx2 解体用ナイフ 火蜥蜴のローブ(耐火、耐斬撃、耐刺突)
革のグローブ 厚手のシャツ チューブトップの肌着 かぼちゃパンツ ブーツ
クナイベルト(腕用x2 腰用) 飛苦無x15 石弾x9
<所持金>
小銅貨x0 銅貨x2 銀貨x3 金貨x1
<雷電 為衛門>
出力6 耐久10 速度5 制御4 核LV4
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消費:保存食x1
リラ、ユユの重い荷物を預かっている
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名 前:ロコ・T・ルリッタ
性 別:女
年 齢:12才
種 族:H・巌の民
所 属:魔法士ギルド
月影の魔女達
存在力:5→6→7→5
技 能:生成魔法[AA]
毒耐性 耐久力強化 存在力吸収量強化 魔力操作
存在力順応 病気耐性 状態異常耐性
▽
種族特性
暗視 筋力強化
言 語:母国語 共通語
称 号:ペタン娘魔女
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名 前:リラ・ポル
性 別:女
年 齢:13才
種 族:兎の民
所 属:魔法士ギルド
月影の魔女達
存在力:12
技 能:交霊魔法
ラヴィッシュ・アーツ
聴嗅覚情報強化 気配察知 存在力順応
投擲 存在力吸収 魔力操作
▽
種族特性
脚力強化 鋭敏聴覚 鋭敏嗅覚
言 語:母国語 共通語
称 号:ペタン娘魔女
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名 前:ユユ・ヒッティネン
性 別:女
年 齢:12才
種 族:月の民
所 属:魔法士ギルド
月影の魔女達
存在力:10
技 能:使役魔法[魔獣]
存在力順応 存在力吸収量強化 投擲
▽
種族特性
夜目 闇属性
言 語:母国語 共通語
称 号:ペタン娘魔女
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次回ペタン娘魔女AA第二十一話「ロコスプラッシュ。それはまるで──光の噴水だった。」にセーットアーップ!
次回は12:00です。




