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01 泥を混ぜ込んだようなキチャナイ深緑色の宇宙人に毟った油まみれのカツラを頭にかぶせたみたいな生き物

2016/8/24 08:00 1/3

 頬を撫でるやわらかな風に乗って香る草花の匂い。抜けるような青空の下、木漏れ日に誘われて、ふと目を覚ませば愛しいあの娘の微笑が……って感じで目覚めたい。

 いや、俺に愛しいあの娘(彼女)なんて存在はいなかっ……た。

 いや、そこじゃない。そこじゃないんだ。つまり、目覚めくらいは爽やかでありたいと俺は思ってるんだ。

 だから──


「ぅぉおおおわあっ!?」

「ギョ?」


 ──突然とか、急にとか、いきなりとか、そんなのは困る。

 突然ボールが来たり、急にウンコ漏れそうになったり、いきなりドア開けられたり。

 そんなのは誰だって困るに決まってる。ホント困る。


 まあなんて言うかさ、目が覚めたらさ、泥を混ぜ込んだようなキチャナイ深緑色の宇宙人(グレイ)に、毟った油まみれのカツラを頭にかぶせたみたいな生き物。

 おそらくだけど──ゴブリンがボロボロの腰巻からカッチンコッチンのゴブリン捧を覗かせて俺のパンツ破いてたらさ……。


「ギュブブ……」

「死ね! こんにゃろーっ!!」


 俺の魂の叫びが轟き、M字開脚からの右回し膝蹴りが炸裂。グジャリと頭蓋を砕きながらゴブリンが吹っ飛んだ。


「ギュギョォォ……」


 なんでホモゴブリンに襲われてんの俺!? ホモゴブリンはビクンビクン痙攣しながらなんか喋っていたが、やがて動かなくなった。大人しくヤラレてやるつもりは毛頭ないんだけど……マジで殺しちった……。クサッ! キモッ! なんか出てるし!!


 そんなことを思っているとゴブリンは見つけたら駆除とか核宝石(コアジェム)を取るとか、まるで知っていることを思い出したかのように情報が頭に浮かんだ。


「これはいったい……んっ? なんだ? 俺の声が可愛い……うおぉっ!?」


 ワタワタしてるとオッパイがあることに気付いた。いつの間にか俺にチッパイがある! フニャフニャした出っ張りが俺の身体に二つある。更にノーパンだから股間がスースーする。

 そして本来ならば俺の動きに連動して揺れる珍宝と宝玉の存在を感じない……。

 代わりに腰の両サイドで髪の毛が揺れている。

 目覚めたら女の子になっていたとか、どんなミラクルよ?

 しかも着てる服、なんか胸の辺りが破けてて血塗れなんだけど!


 は? え? ど、どうしよう。どうなってんの?

 キョロキョロと辺りを見回してみればここは洞窟の中で、いま俺がフルチン(?)で立っている場所はゴブリンが寝る所っぽい。粗末なベッドや汚い寝藁っぽいものが置いてある。目が覚めるのがもう少し遅かったら危なかったな……セーフだ。女になっちゃってるからセーフなのかよく分からないんだけどさ。


 いや待て、マテマテ、そもそもなんで女になってんの? 俺はネカマプレイとかに興味ないし、VRMMOとか実現してない。ならば夢か、というと……そうでもないようだ。だって頭から色々……クサキモイのがはみ出てるゴブリンは存在感ありすぎだし、頬を抓ったら痛いしオッパイ柔らかい。

 ということは、俺が女になってゴブリンが存在するファンタジーが現実ってことになっちゃうんだけど!?


 だあああっ、クソッ、落ち付け俺。まずは……まずはどうしよう? パンツだ。パンツというか着替えだ。バックパックに入ってるかもしれない。登山用のを横に二個くっ付けたようなでかいヤツだし。なんていうか……今の格好、裸シャツっていうかさ……血塗れの破れた厚手のシャツに、血塗れの破れたチューブトップだもんな。チン的なモノはないけどフルだ。フル。これじゃゴブリンまっしぐらだ。俺もまっしぐらだ


 背負った覚えのないバックパックを降ろして中身を物色すると、幸いにも替えの服が入っていた。ズボンはないから下半身はパンツだけだが。なんていうか、シャツの裾からチラチラ覗くパンツの股間部分と柔らかいフトモモがエッチだ。風呂上りに男物のシャツを借りた、初めて泊まる彼女の「ちょっとおっきいね」的なうひゃあ! ちなみに「大きい」じゃなく、「おっきい」ってのがポイント高い。エロ漫画知識で知っている。


 えー、着替えの際、この身体をチェックしてみた。

 胸の辺りに穴が開いてて血塗れの服を着てたからな。ちゃんと調べておかないと……って思ったんだけど傷は無いみたいだ。ひょっとして魔法!? 魔法で治したのか? そんな疑問に脳内会議が否を返す。そんなことできない、と。


 俺の魔法は生成魔法だから無理だ、と……。


 俺の魔法? なんだそれ!? 俺、魔法使いなのかよ! 俺であって俺じゃない俺の記憶が、俺は生成魔法士(ジェネレイター)だと答えを返した。


 記憶が混じっている。

 寝坊してバイトに遅刻しそうだから、急いでアパートから脱出してここまで来たんだけど不意を突かれて、もう間に合わない……とか明らかになんか混じってんだけどー!!


 う、うーん……俺、この身体に憑依してんのか? そもそも俺の身体はどうなってんだ? そしてこの女の子、死んでたのかな? 服に開いてた穴、心臓の辺りだもんな。でも身体に傷は無かったし……分からないことだらけだ。ゴブリンもそうだし、魔法もだし、核宝石(コアジェム)──っと、そうそう忘れてた。金になるから剥ぎ取っておかないとモッタイナイな。そんなことを考えながら、俺はよどみなくゴブリンを解体して核宝石を抜き取った。

 マジで? マジか……馴染んできてんのかね。危ない所っぽいし、そのほうがいいのかもしれないけどさあ。人型の生き物を解体して平気な自分がコエェよ……。


 そこら辺に散らばってるボロ布で手やナイフを拭いながら、武器になりそうな物を探す。ピッ、ピッ、しかし何もみつからなかった! ピッ、ピッ、しかし何もみつからなかった! ピッ、ピッ、チヒロは棍棒をみつけた!!


 調べるコマンドごっこしてて気付いたんだけど、俺の名前や住所なんかはちゃんと覚えてるみたいだ。走ってバイトに向かったところまでは……だけど。

 そんで自分の名前が、大貝千尋(オオガイチヒロ)とロコ・ルリッタの二つあることにも気付いた。

 ロコちゃんか~。カワイイ声だったし顔もきっとカワイイはず。容姿を確認したいけど鏡を持ってたっけかな。なんにせよ早く町に向かうか。他にもゴブリンとかいるかもしれないし、ここに留まるのは危ないだろう。


 破けたチューブトップ肌着とパンツは袋にしまう。厚手のシャツは道着くらいの厚さなので巻き難いが、腰に巻いてスカート代わりにした。動くと見えてしまうけど、まあ……まる出しよりはマシだよな。落っこちてた汚いロープを帯代わりにくくる。茶帯にランクダウンであります。女の子になっちゃったのにキチャナイ格好だなー俺。


 剥ぎ取り用ナイフを装着。予備武器として所持していたスリングを挟みこむ。スリングブリッドが三個入ってる小袋を落ちないようにしっかりと結ぶ。

 スリングブリッドってのはスリング専用の弾丸で、ただの石より飛距離と威力が高いんだ。ゲーム──TRPGの知識だけどね~。

 そんで、そのブリッドは生成魔法で作った物らしいので、追加してみようとしたけど精霊(?)が反応してくれなかった。魔法使い……じゃなくて魔法士か。俺、魔法士になったのに魔法が使えないとか泣けるぜ。使えたら武器とか防具とか出せそうなのにな。


「流暢な物理言語でお話するしかないか」


 戦い方を考えていると、どうやら魔法士はプロテクションフィールドとかいうのを身に纏うということが分かった。

 大気に存在するマナ。そのマナを体内で圧縮し、身体の表面に展開する基本防御術。


「んんんんんんんんむむむむむむむむむむむむむむむむむ────~っ、はっ!」


 不思議パワーを感じる。マンガやアニメのオーラ的な何かが俺を包んだ。

 でもへたくそ! ロコのイメージだと五秒くらいなのに倍以上掛かってら。まあ仕方ないか。俺が魔法を使ったのはゲーム内だけだし。

 俺であって俺じゃなく、ロコであってロコじゃない。下手なのはそんなんだからかなあ。生成魔法が使えないのも、俺がそんな存在だからかもしれない。


 行くか。なんだかんだと三十分くらいここにいた気がするし──とか考えてたら洞窟の奥から聞こえてくる声に気付いた。複数の話し声で、さっきのゴブの声に似ている。しかも最悪なことに近づいてくる! マズイな。ゴキと一緒で一匹見たら三十匹はいる……と……いう…………。


 隠れる所! どっか隠れる所! ベッドの下いけるか!? いけそう! あ、ヤバイ、バックパックが邪魔で入れねぇし!! って、あ、ゴブx3が現れた! もうヤルしかねぇ。右から順にABCと呼称するっ。


「あーAゴブさんBゴブさんCゴブさん? 俺さ、女になっちゃってるんだけどさ、どうすればいいんだい?」


 よう! 久し振り! みたいな雰囲気で俺はゴブリンに声をかけながら近づく。


「ギョ? ギョンギャギャ。ギュブブ」

「ギャンギャ、ギョギャギェー!?」

「ギョーッ!? ギョブギャギョウギャッ!」

「ゴメンゴメン、ホモ認定しちゃってたけど俺が女だったよ。まあゴブだし、いいよな? 死んでもさ……ってマジでゴキブリ殺す程度の感覚だなあ」


 突然話しかけられて驚いてるゴブBC。ニヤついてるゴブAは後に回してBCを先に片付ける! BCを俺とAの間に挟むようにダッシュ。ゴブCの膝関節を狙い右前蹴りを放ち、へし折る。感触が気持ち悪いが怯んでいる場合ではない。勢いのままに蹴り出した足を踏み込み左掌底を打ち付け、(たい)を崩したゴブCの頬に右肘を叩きつける。棍棒持ってる意味ねぇし!


「ぐっ!?」


 ゴブCを倒すと同時に肩へ棍棒の攻撃を受けた。ゴブBに回り込まれ、ゴブAとの間に挟み込まれる。クソッ、ちゃんと連携しやがる。挟撃ボーナスがゴブに付いて命中判定に+2じゃん、とか考えられるのは受けたダメージが子供パンチにも及ばない威力だったからだ。鈍器で攻撃されても、この程度まで軽減するならプロテクションフィールドは結構使い勝手がいいかもな。


 なーんて暢気に考えてはいるものの、早目に片付けないと増援があるかもしれない。ゴブAの攻撃を捌きつつ、ゴブBにタコ殴りにされている俺は──


「せぁ────っ!!」

「ギャギッ!?」

「ギャーッ!? ッ!?」


 気合とともに鷹拳的なポーズを取る。荒ぶるフェイントで僅かに後ずさるゴブAB。振り向きざまに棍棒をゴブBへ投擲する。棍棒がメガヒットしたゴブBはボギャーとか悲鳴を上げながら吹っ飛んで戦闘不能になった模様。ゴブAはそこそこ冷静みたいだし、ザコから減らすぜ!


 ゴブAの方を向くとジリジリ後ずさって──逃げ出した! マズッ、助けを呼ばれるとヤバイ!!

 俺はスリングブリッド入りの小袋を毟り取って袋ごと投げつけた。背中に当ってすっ転んだゴブAは、海老反りながら悶えている。そんなゴブリンを見下ろしながら首を踏みつけ──容赦なくへし折った。


 子供なのに全く容赦なし。だって今の俺、十二歳だよ? 女の子なのにゴブリン殺して解体して、素材を売却。それが当たり前の殺伐とした世界。日本に戻れるまで暮らさないといけないのかあ……。なんかどんよりしたものが胸の中に広がった気がする。

 解体されたゴブの開き四体がここにあるからかもしれないけど。


 そういえば、このロコちゃんの身体だけど結構……というかかなりパワーがあるみたいだな。今のところゴブリンなら、って条件は付くけど一撃で骨まで粉砕してるし。そんでふと気付いたんだけど、光源なしで洞窟内が見えてるってことはナイトビジョンを持っている。俺は耳を触って確かめた。ふむ。短めの尖った耳が存在を主張している。

 筋+2、夜目、短めの尖った耳、技能取得ボーナスもある? 分からん。

 マイナス補正は防御力とHPってとこか……TRPG的にこの情報を当てはめると、人間と荒野エルフのハーフ?


 つまり俺はペタン娘ぷにハーフエルフだ!?

 あ、違った、ハーフドワーフだって。ロコちゃんの記憶が語りかけた。技能とかもホントにあるっぽい。首にぶら下げているレコーダーを確認する。ステータスカードみたいな物を持っていたようだ。ロコちゃんの記憶があっても関連したことを考えないと思い出せないのが不便だ……。

 ---------------------------------------

 名 前:ロコ・T・ルリッタ

 性 別:女

 年 齢:12才

 種 族:H・巌の民(ドワーフ)

 存在力:9

 技 能:生成魔法[AA]

 ▽裏面

 種族特性

 暗視 筋力強化

 言 語:母国語 共通語

 ---------------------------------------

『アクセス──個体名ロコ・T・ルリッタ』

「ん?」


 頭に声が響く。『ククク私の声は直接脳に響くのだ』的な? システムボイスまで完備してるとはスペシャルな世の中だなあ。あれ、名前にTが増えてる? これは転生のTだな。間違いないぜ。なんちゃってー! TihiroのTか?

 でもロコちゃんの記憶と齟齬があるなあ。名前もそうだけど、生成魔法にも[AA]とかくっ付いてる。おっぱいのサイズとは無関係だよ? うっ!? なんだコレ? アサルトアームズ? うぐー……色々と情報が頭に入って来てゾワゾワする。

 アクセスとかで、何かが俺に接続したのかロコちゃんの記憶と合わせて、なんだか魔法が使えそうになった!


 マナが体内に入ると、個人のオーラみたいなのと混ざり合う。それが魔力。

 その魔力で魔法円を展開して世界に書き込む魔法の呪文(マギスペル)


「集え精霊。(うた)えよ、(うた)え。精霊よ」


 万物に宿る精霊が魔力に応えてくれる。そして俺のイメージを形作る。


「ジェネレイト・スリングブリッド、セットアップ」


 光り輝く魔法円の中心に、石ころの弾が五個生成された。

 大貝千尋は女の子のロコになって十二歳になった挙句、魔法使いにもなりました。ミラクルファンタジーだね。目が覚めたらゴブリンに犯されそうなペタン娘ぷに魔法少女になっていました──とか全く意味が分からないけどな……。

取得:ゴブリンの核宝石(コアジェム)x4 棍棒x1

生成:スリングブリッドx5

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名 前:ロコ・T・ルリッタ

性 別:女

年 齢:12才

種 族:H・巌の民(ドワーフ)

存在力:9

技 能:生成魔法[AA]

▽裏面

種族特性

 暗視 筋力強化

言 語:母国語 共通語

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 次回ペタン娘魔女AA(ウィッチダブルエー)第二話「生ごみが溜まった排水溝のデロデロを手に取ってネリネリした物を顔に近づけてキッタナイ公衆便所の中で嗅いだような臭いと女子のおケツ」にセーットアーップ!

次話は12:00です。

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