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花屑プロローグ4 世界が終わるまでは・・・

作者: 霧香 陸徒

超高層ビルが立ち並ぶそんな都会の一角に、ごく平凡に生まれた私。


 父は研究所勤めの教授だったが、家族サービスをかかさない優しい人だった。


 母はその助手をしていたが、同時に料理教室に通って毎晩の献立にも手を抜かない素敵な人だった。


 そんな両親の愛に育まれて、私は正しく育てられたと思う。


 何が悪いのか、何が良いのか。 そういう判断を強いられる事は無かったが、両親が私の指針になっていたのは確かで、だからこそ間違わないで生きてこれた。



 13になった私はその年のクリスマスの日を忘れないだろう・・・。



 あの「世界が終わった日」を・・・・・・。









 色とりどりのイルミネーションで彩られた町並みを私は歩いていた。


 クリスマス用のケーキを買いに行くという大役を命じられた私は、お気に入りのタヌキの顔の形のがま口財布を手に商店街へとやってきた。


 家から電車で一駅先にあるお店で、とても美味しいケーキの店だと母に地図を渡されてやってきたのだが、一向に見つからない。


雪が降っていた。


 真っ白い雪。 その白さに単純に綺麗だと思った。 だけど、雪は綺麗なだけでなく、その冷たさで私の体温を奪っていった。

 少しづつ、少しづつ・・・。


 どうしてだろう。 このまま居ると凍えてしまうだろうに、足が動かない。

 ケーキ屋は見つからない。 雪の勢いがどんどんと強くなっていく。

 早くケーキを買って家に帰りたい。 そう願ってケーキ屋を探すけど、何処にもそれらしき店は見当たらない。


 私は、そんな・・・幸せで悲しい夢を見ていた・・・。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「此処は・・・・・・」


 目が覚めると私はベットに横たわっていた。 安物のパイプベットだった。


 薄いシーツに包まれて、酷く冷えた室内で冷え切った体を暖めるために自分で自分を抱きしめる。 横を向くと薄汚れた窓の外がチラチラと白い物で無数の影を作っていた。


 あぁ・・・雪が降っている。


 だから、あんな・・・「ありもしない幻想」が浮かんだのか・・・。


 私の両親は・・・私の事を愛してくれた事が無い。 ・・・いや、覚えてない。 いつも仕事に追われて私を腫れ物を見るような目で見ていた。

 だけど、私はそんな親でも大切な肉親だったから・・・。 愛して欲しかった。 褒めて欲しかった。 私は彼方達の自慢の娘だよって言って欲しかった・・・。


 実際には・・・、その求めていた物を現実にする事も出来ずに・・・死んでいった。


 私の目の前で・・・。


 

 その日は避難勧告が出ていた。


 私は戦争屋のクラスメイトと別れを告げ、すぐに家に帰った。 


 家といっても誰も居ない家。 両親は研究所での仕事が忙しくて帰って来る事は無かった。



 でも・・・、その日だけは違った。 クリスマスだからと言って、家に帰って居た。


 空襲で破壊され尽くした町並みに、奇跡的に残った私の家の中に・・・。


 家の居間で、敵の兵に見つかってしまって今まさに銃を突きつけられていた所だった。


 私はその居間の扉の裏からを覗き込んで、体が恐怖に固まってしまった。


「悪く思うなよ」


 敵兵はそう呟くと銃の引き金を引く。 その凶弾に頭を打ちぬかれて絶命する父。


「あなたーーーーーー!!」


 母が血を噴出しながら倒れる父に発狂しながら寄り添う。

 そして、最愛の夫が目の前で撃たれてしまって正気を無くしたのだろう。 母は無謀にもその敵兵に掴みかかろうとした。 


 パン!


 それもそんな軽い発砲音で終わる。


 掴み掛かるより撃たれた反動で後ろへ倒れていく母。

 そこに敵兵は何度も何度も銃弾を打ち込んでいく。母と父交互に。

 撃たれた母と父はもう絶命しているだろうが、撃たれる度に衝撃で震えた。

 それは何度も殺されているように見えてしまって正視する事も出来ない模様だっただろうに、私はその光景から目を離す事が出来なかった。


 ギシッ


 我知らず後ずさってしまって、床板が鳴った。 その音に過敏に反応する敵兵。


「誰か居るのか!」


 怒鳴りながら近づいていくる敵兵。 私はその声に呪縛から解き放たれたようにすぐに駆け出した。

 何処に逃げるなんて頭には無かった。


 ただ、この場から離れたい一心で、生きたい一心で駆け出した。


 子供の足で逃げ切れるなんて事は無いのだろうが、私はただ走り続けた。


 雪の降る廃墟をただ走り続けた。


 数分走った後、私は後ろを振り向くと、そこには誰も追ってきては居なかった。


 助かった?



 街中に敵の兵が居る時点でまだまだ安全だとは言えないだろうが、私はそれで安心してしまった。

 それに、走り続けてもう体力は尽きてしまってもう走れない。


「・・・・・・」


 ずっと降り続いている雪が地面を、景色を白く染め上げていた。


 せめてその雪で全てを清めて欲しい。 そう思った。 汚れてしまった景色が少しはマシに見えるだろう。 汚れてしまった心が少しは綺麗になってくれるかもしれない。


 このまま降り積もれば、全てが銀世界に包まれて・・・


 私はその中で、その綺麗な世界に立っていられるかもしれない。



 ・・・だけど・・・。


 きっと、どれだけ白く染め上げても、すぐに踏みにじられて、泥で黒く汚れてしまうのだろう。


 今の私のように・・・。



 どれだけ・・・綺麗な記憶を重ねようとしても・・・。


 私の景色は変わらない。


ーーーーーーーーーーーーーーー



 「・・・・・・雪が降ると思い出してしまう・・・。弱いな・・・」


 初めて私の世界が汚されてしまったあの日から、私は雪が嫌いになってしまった。


 ただ、その事があったから私は「花屑」という部隊に志願したのだ。


 仇が討ちたいんじゃない。


 ただ、私の居場所が欲しかったから・・・。


 同じく候補生だった「久々知 智亜子」と「樟葉 菜乃」と共に居る事を選んだ。


 いつか、綺麗な街並みで「クリスマスケーキ」を買う為に・・・。


 雪を見て綺麗だと思える為に・・・。



 この世界が本当に終わってしまうまでは私はそれを願い続ける・・・。



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