鬼ごっこ
レート=メートルです。
「ソイツを捕まえろー!」
「ヒャッハー!」
「ハハァッ、やれ!蹴り落とせ!」
「うわぁ!こっちに来たぞ!」
「逃げろ!俺のことはおいて先に行けぇ!」
「ヤベェ!コイツ足早ぇ!」
「上だ!急げ、早く!」
何も知らない者が聞いたらどう思うだろうか?
おそらく、侵略者に追われる一般人とかそういった感じの、一方的な暴力シーンだろう。
「殺伐としてんなぁ。あっ、あいつもやられたか。」
(彼は逃げられると思っていたのですが。)
「敵が増えますからね。」
「だな。囲まれると終わりだ。」
今日は6月18日。
何時ものように午前は学校、午後からはクエストで金稼ぎ。
と言った日々を俺は繰り返している。
基本魔力操作の授業。
主に身体強化魔法と防御魔法という、魔力があれば誰でもできると言われている簡単な魔法を習う。
ただし、これを習得すれば、防御魔法を足場に、空に浮かぶことも出来る。
早々に出来るようになったやつができないやつに教えたりして、結構平和な授業風景だった。
しかし、
この時間の授業に参加している者全員が一通りできるようになった所で、授業風景がガラリと変わった。
迫り来るアンデッドどもから逃げる死のゲーム。
なんてことを言っていた先生が授業でとり行ったのは、
「「増え鬼」・・・かぁ。ずいぶん活発なアンデッドたちだな。」
(皆が正気を失っています。狂気の沙汰です!)
「まぁ、一人でも多く引きずり降ろす為に躍起になってんだろうな。」
「醜い心ですね。」
「ああ。」
何かを悟ったような、哀れみの眼差しで俺とハヅキは空から眼下の亡者どもを見つめる。
そう。これは増え鬼。タッチするたびに鬼が増えていく遊びだ。
ところでハヅキとは何故かよく同じ授業に出くわす。
結構気が合うのかもしれない。
最初に行った枯れリンゴのクエストからも、よく一緒に金を稼ぐようになった。
コイツも、毒舌を止めてからは少し友人が増えた気配がある。
まぁ、人の悪い噂は長引くもので、まだ多数には嫌われている感じだが。
「てめぇ、彼女つれていい気になってんじゃねぇぞ!」
「オラァ!」
「リア充死すべし!」
いい気になってねぇし。
一方、ハヅキはというと、
「えっ、いやいやそんなつもりは無いんだけど・・・」(チラッ)
とか言いつつ金の瞳をチラチラこっちに向けてくる。
恥ずかしいからやめろ。
「彼女じゃねぇし、いい気にもなってねぇし。」
「そっかぁ、いい気にもならないのかぁ。ハァ・・・。」
なんかハヅキが隣でうなだれてる。
水色の髪が空の色と合って綺麗だし、
すぐ照れるところが可愛いとは思うが
そんな気は・・・・・・・・・・ないと思う。
「彼女の方ほとんどその気じゃねぇか!」
「三人で囲んでんだ、逃げ切れると思うなよ!」
「Go to hell!」
何だよ、彼女じゃないって言ってんのに。
って言うか彼女つれてたら地獄行きとか・・・なんなんだよお前ら。
「そのつもりはないな。っと。」
防御魔法を解除して下に落ちる。
後ろからついてくる三人組。
下にはもう一人が真下で待ち伏せている。
「フハハハ!残ねぇーん!」
「これで貴様も鬼だ!」
「せいぜい彼女を追いかけ回すんだな!」
コイツら、止まろうという気が感じられねぇ。
ってか彼女じゃねぇ。
「ぶつかるぞ。」
真下にいるヤツの手より体一つだけ上に防御魔法を発現させ、前回りに受け身を取る。
身体強化されているので受けるダメージは少ない。
「ヒッ」
「おい避けろ!」
「クッ!」
後ろから追随していた3人の内2人が、待ち伏せていたヤツに激突する。
一人避けたか。
「諦めないぞ、死ねぇ!」
追突を避けた生き残りが昇ってくる。
が、
「勝手に死んでてください。」
ハヅキがボソリと呟いて、防御魔法を発現させた。
鬼の足下に。
スカッ
と、鬼の足が空を切る。
凄い形相だった鬼の顔が一瞬、
あっれぇ、おっかしいなぁ
みたいな顔になる。
足下に防御魔法で足場を作ったつもりだったのだろう。
ハヅキが予測して、同じ場所に同じ魔法を被せたせいでうまく発現しなかったのだ。
考えるのは簡単だが、ピンポイントの位置に発現させるのはとても難しい。
さすがだ。
混乱しながら落ちていく鬼。
地獄へ帰れ。
それにしても何故、皆がここまで狂っているかというと、この増え鬼、鬼になると問答無用で5点引かれるのである。100点満点中70点以上で合格。
7回鬼になると単位がもらえないと言うわけである。
最初から鬼の奴は、鬼の数×0.5点だけ点数が回復する。
鬼になって5点も引かれた奴は、他にも不幸な奴を増やそうと躍起になっているわけである。
「負の連鎖だな。」
「下は地獄ですね。魔力が切れて地面に落ちたら一巻の終わりですよ。」
「ああ、追っかけすぎて先に魔力を切らした鬼どもの餌食だ。」
俺とハヅキは空中に発現させた防御魔法の障壁の上に身体強化魔法で飛び乗っていき、地上10レート程の高さにいる。
この増え鬼は、主にこの動作になれるためのものだ。
10レートは結構高い。
俺でも5レートまではしゃがんでいないと安心できない高さだった。
ただ、その5レートを越えてからは、空中にいるのに慣れてきて何処までも昇れるようになった。
それに比べ、ハヅキは普段から冒険者を相手にしているから怖いものがないのだろうか?
高いところもスルスル昇って上空で仁王立ちしている姿はかっこよかった。
怖がりな奴は地上3レートの場所で鬼に追いかけ回されている。
グラウンドの回りを囲むように立つ20レートの防風ネットを越えなければ良いので、あと15レートくらいは大丈夫だろう。
「あと15分くらいですね。」
ハヅキが時計をチラリと見て言う。
「だな。今日は曇ってて涼しいから逃げやすい。」
「快晴だとそれはそれで暑いですからね。」
青空4:白い雲6の空はとても気分がいい。
そして今はこの高さまで上ってくる鬼はいない。
魔力が切れたときを心配しているのか、単純に下のほうが全員で追いかけ回せるからなのか。
下を見下ろして空を駆け巡る生徒を見下ろしていると、川で泳ぐ魚を見ている気分になってくる。
最初は200人くらいいた生存者も、今ではこの高さまで来れて、それでいて自由に動けることのできる俺達を除く20人と、下で逃げ回る異常な程の魔力量をもった3人、それと中間地点に10人位がちらほらという状況だ。
「あいつらすげぇな。」
「元気ですね。」
「俺達と同じようにクエストでレベル上げてんのかね?」
下にいる動きのいい3人はそうとしか考えられない。
しかもそのうちの1人はギルドで見たことのあるやつだ。
「職業が騎士の方は少しのレベルで能力が大幅に変わりますからね。」
「そういえば、ハヅキはどうなってるんだ?ステータス。」
なにげに見ていなかった。
一緒にクエストへ行き、お互いに命を預けているのだ。
知っておく必要があるだろう。
「こんな感じですけど。」
ハヅキがステータスプレートを投げて来る。
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name hazuki
tribe human
job knight(lv.12)
title
HP 260
MP 190
str 213
vit 230
agi 174
int 132
luc 60
skill magic aqua
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「騎士ヤベェ・・・。」
「レイジさんのステータスは?」
「ほらよ、こんなんだ。」
そう言って俺はステータスプレートにステータスを表示させ、
ハヅキのステータスプレートと一緒に投げる。
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name Laiji
tribe human
job samonner
title mixed blood
HP 240(×2.3)(×1)=552
MP 299(×1.85)(×1)=553
str 143(×1.6)(×1)=288
vit 75(×1.8)(×1)=135
agi 242(×1.75)(×1)=423
int 183(×1.9)(×1)=347
luc 27
skill magic gravity samon
follower
Guardian
name Eclipse Leavantin
tribe dragon
job knight(lv.700)
title thousand
HP 13000(×1)
MP 8500(×1)
str 6000(×1)
vit 8000(×1)
agi 7500(×1)
int 9000(×1)
luc 73
skill magic gravity dark holy
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「HP2.3倍って・・・。
まさか召喚士って騎士より強い職業なんですか?」
「いや、エクリプスが強いだけだな。
何せ竜人だし。普通は高くて1.3倍らしい。」
「全部1.3以上じゃないですか・・・。」
「っつーか、それなら騎士だってすげえよ。」
エクリプスの超ステータスで倍になってる分を除けば、lv.3も違うのにほとんど追い付かれている。
(騎士ってそんなに成長早いもんなのか?)
(最初の内はレベルが上がりやすいのです、200を越えた辺りからスピードはガクッと下がりますよ。)
なるほど、たしかにエクリプスのレベルに変化は無い。
最近よく狩っている魔物のガルムも、エクリプスにかかれば瞬殺なんだよな。
「暇だし、ちょっと下に降りてくる。」
少し、油断していたのかもしれない。
これでは夏期休暇前に剣術1の奴らを倒すなんて、夢のまた夢だ。
気を引きしめねば。
「ハァ、まぁレイジさんなら逃げ切れるでしょうけど、踏み外して地面には落ちないでくださいね。」
「こんなもん楽勝だって。」
(あっ、フラグですね、これは。)
意気揚々と、俺は鬼どもの住む下界へ降りていった。
「へぇ、そんなことがあったのかい。」
「はい。ホント綺麗に踏み外して、コントを見てるみたいでした。」
「誰かがハヅキの真似をしのでしょう。」
「ったく、しかも鬼になるまで結構おとなしそうだった娘が、落ちた瞬間凄い速度で追いかけてくるんだぜ?」
結果、見事に足を踏み外し、地獄へ落ちた俺は、不時着したところをあっさり逮捕された。
今は俺、カイル、ハヅキ、ドレッド、エクリプスの5人で昼食をとっている。
そういえば最近よくこのメンバーになるな。
「レイジ、人を外見で判断すると痛い目をみるよ。」
「本を表紙で選ぶなってヤツだね。」
「おお、久しぶりに間違えなかったな。」
カイルがドレッドの頭を撫でる。
召喚士カイルとその守護魔獣ドレッド ノート。
この二人は以前エクリプスと一緒に、俺が職員室で怒られる原因を作った犯人だ。
四六時中、教職員から追われる身の彼らだが、
俺から見たこの二人の印象は、ちょくちょく問題を起こす愉快な先輩といったところだ。
職員室から出た後も、
「アハハッ、ゴメンゴメン。君がレイジ君だね。お詫びに夕食おごるよ。」
なんて言われた。
迷惑をかけたら飯をおごる、この行為が俺には凄く先輩に感じられた。
「今日も午後からクエスト?」
ハヅキが聞いてくる。
「そうだな。」
「へぇ、どんなクエスト受けてるんだ?」
「貴族が出した調査系のクエストだな。報酬が金貨30枚もある。
内容は、最近家の天井が崩れたり、食器が全部割れてたりするらしい。」
このクエストを見たときは驚いた。
報酬額が俺の宿代2月分に相当する。
こんなことに金貨30枚も使うとは、貴族とやらは余程金をもて余しているらしい。
できればいくらか譲って欲しいものである。
ハヅキが少し嫌な顔をする。
「大丈夫なの、それ。」
「当人達に実害は無いみたいだし、大丈夫なんだろう。」
「ポルターガイスト、だよな。」
カイルは詳しいんだろうか、こういうの。
「まぁ、もしもの時はエクリプスがいるしな。
ただ、手掛かりが一つもないから、むしろなんか起こらないか・・・とか考えてる。」
「物騒なことを、なにも起こらないに越したことはないよ。」
「ねぇ、私もいってみていい?」
ハヅキが肝試し感覚で聞いてくる。
まぁ、何も起こらないし、連れていってみてもいいかもしれない。
何かを見つけるかもしれない。
「じゃあ行くか?」
「はい、行きましょう!」
読んでくれてありがとう。
話が全然伸びないので、今回はちょっと長めの話を書こうと思います。