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SAMONNER  作者: churunosu
8/14

落ち葉の下に。

1レート=1メートルです。

午後3時、なぜかエクリプスとその他二人の生徒とともに


「今回は大目に見るが、次はないぞ。」


などと、職員室でレイファー先生に怒られた俺は、予定より少し遅れてギルドへ来ていた。


「なにします?」

「なにって・・・。まあ、今からだし、できるのは採集系のクエストぐらいだろ。」


そもそもまだ初心者なので低レベルのクエストしか受けることができない。

受けようと思えば高難度のクエストも受けられる。

実際、エクリプス単独でもドラゴンの一匹ぐらい狩れるらしいが、一人で行かせるのはやはり心配だ。

ギルドに出入りする大体の冒険者が、パーティーまたはクランなるものを作り、3から5人ほどで行動する。

この数が大体行動しやすく、もしもの時に対応できる人数だからである。


「じゃあ大体、リンゴとトカゲくらいでしょうか?」


そういってハヅキが俺に勧めたのは枯れリンゴ10個とサンドリザード3体の採集、討伐クエスト。

報酬はそれぞれ銀貨5枚と銅貨5枚だ。

・・・リンゴ高ぇな。

どちらも同じ砂漠区域の依頼なので、リンゴのついでにこなせるだろうということだ。

ちなみに枯れリンゴとは、本当に枯れているわけではなく、枯れた栄養のない、また水の少ない場所でもよく育つという理由から名づけられた。

水が少ない分、非常に甘く、また三日とかからず実をつけるので砂漠区域に住む生き物たちの主食になっている。


「ああ、トカゲの証明部位はたしか・・・」

「ツノですね。売れるのはシッポとそれくらいです。」


リンゴは摘んでくるだけでいいのだが、討伐系のクエストになると、倒したと証明するモンスターの体の一部が必要である。魔物の場合は倒した瞬間、魔石に代わってしまうので、魔石が証明部位になる。

魔物ではない生物は、それぞれの特徴的な部位を見せればいい。


「じゃあ時間もないし、行くか。」

「そうですね。北から出ますか。」






ラダマントの北と東には砂漠が広がっている。

砂の下からは明らかに人工物の、石造りの建築物や、木の板などが覗く。

これは以前ここに文明があったことの名残で、この砂漠の下には広く深い空間が広がっている。

文明とは、アトラントのことである。

そこには魔物と呼ばれる怪物が潜んでおり、ギルドは主にその場所を監視・調査するためにある。

迷宮ダンジョンと呼ぶ者もいれば、以前の文明を知る者は遺跡や、墓場などと呼ぶ。

これはほかの地にも多数存在し、人の役に立ったり立たなかったり、

人を苦しめたり苦しめなかったりしてきた。


その上を俺とハヅキ、エクリプスは歩いていた。


「あっ、あれじゃないですか?」

「あれだな。」

「このシッポ、歯ごたえがあっておいしそうです。」

「それ、食べられるんでしょうか?」

「人族の料理にはかないませんが、食べれないことはないですよ。」

「へぇ、食べてみようかなぁ・・・。」


素材を入れておくための袋を覗き込みながら、エクリプスとハヅキがしゃべっているのを背後で聞きながら、俺は遠くに見える小高い丘の上にある林を眺めた。

袋に入っているのは、倒してはぎ取ったサンドリザード2体分のツノとシッポ、途中で拾ったアトラント金貨だ。


「7時までには帰れそうだな。」


そういって、俺たちは林に入り、枯れリンゴの木を探した。

落ち葉がすごく多い。

まるで下にあるものを上から覆い隠すように真っ赤な葉っぱがヒラヒラ降ってくる。

秋でもないのに落ち葉のある足元をカシャカシャ踏み鳴らしてしばらくすると、



「あった!」

「んじゃ、採るか。」

「けど高いですよ?」

「エクリプス、採ってくれ。」

「了解しました。」


そういうと、エクリプスは重力魔術でリンゴを吸い寄せる。


「え?」


ハヅキが頭に疑問符を浮かべた。


「どうした?」

「さっきエクリプスさん、リンゴを吸い寄せませんでした?」


ああ、説明してなかったな。


「これは重力魔術だ。エクリプスが昇華させた魔術で、物を強くひきつけたり、遠ざけたり、浮かべたりできる。」

「へぇ、便利ですね。というか、それで移動すればよかったんじゃ・・・。」

「ハヅキは魔術が使えるだろ。魔力のあるやつには効かないんだよ。」


魔術を使う際の基本である。

魔術のもととなる魔力が違うと、合わせようとしても合わさらない。

お互いの魔力に込めた命令が混ざって、全く関係ないものになるからである。

相手を体内から魔術で燃やそうとしても、

相手が魔術が使える奴ならば、体内に別の魔力を持っている。

だから、体内から燃やして殺そうとしても魔術は発現しない。

ちなみに自分には効くので、自分にはなった場合は例外なく燃えるし、黒こげになって死ぬ。


「いいなあ。私は水魔法しか使えないからなぁ。なんか珍しい魔法に昇華しないかなぁ。」

「水魔法の昇華で有名なのは空間魔術ですね。」


昇華というのは、魔法が進化することをいう。進化とはいえ、使える魔法が変化するのではなく、ただ単に増えるので、元の魔法が使えなくなるということはない。

ちなみに、魔法と魔術の違いは、その術が珍しいかどうかだったり、呼びやすいかどうかなので大した違いはない。


「空間魔術なんて使えるの、宮廷魔導師クラスですよ。」

「そうなのですか、以前は転送屋なんて仕事もありましたよ?」

「へぇ、遠くまで送る仕事ですか?」

「ええ、サカナや牛乳など腐りやすいものを一瞬で運べるそうなのでかなり人気がありました。」

「へぇ、今はあんまり見ませんね。需要なくなったのかな?」


そんな話をしつつ、リンゴを収穫していると、ふっとハヅキが顔を上げる。


「わぁ、蝶ですよ。あんなにたくさん、きれいですね。」


空には20匹くらいの蝶の群れが飛んでいた。

真っ黒の羽に鮮やかな青色、1枚が手のひらほどある大きな蝶は確かにきれいだ・・・が、


それに対する俺たちの反応は様々だ。

ハヅキは「わぁ!」と喜び、

エクリプスは「リンゴは渡しません!」と、身構え、

俺は・・・・・・・・・・・・「来やがったか・・・。」と、荷物を片付け始めた。


「ちょっと、レイジさん。きれいじゃないですか?」


そういってハヅキが俺の服の袖を引っ張ってくる。


・・・さてはこいつ、分かってないな。


まぁ、まだ近くに来るまで時間はあるし、少し説明するか。


「なぁハヅキ、共生って、知ってるか?」

「いえ、レイジさんのように山で育ってはいないので。っていうか、いきなりなんですか?」


そうか。まあ仕方ないか。


「自然は弱肉強食だ。弱い奴は強い奴に食われる、それが常識だ。

だが、それで弱い奴はだまってるだけってわけじゃない。

弱い奴は弱い奴なりに策を練った。

その時にそいつらが考え出した策が、別の種族同士が助け合うってことだ。」


ハヅキはいまだ話の内容がつかめないのか、首をひねっている。


「よし、例を挙げよう。

俺の住んでいた山にとある種類の木があった。

その木はとてもおいしい実をつけて、山を下りた町ではけっこう高く売れた。

ある時、俺は師匠であるシンにこう言った。


「あの木の実、食べたいからとっていい?」と、


だが師匠は首を縦に振らなかった。むしろ近づくなと言われた。

なぜかと俺が聞くと、師匠は


「木を見ていればわかる。」


といった。だから俺は一日中、木を見ておくことにした。

その日の昼過ぎ、いい加減飽きてきて眠くなりかけた俺の上を、一羽の小鳥が飛びすぎた。


その小鳥は俺の見張っていた木にとまり、若葉をついばみ始めたんだが。

次の瞬間!

鳥が焦ったように羽をはばたかせ、木から落ちた。

なぜだと思ってそのまま見ていたけど、そのまま落ちて翌日には骨になってたよ。

その若葉は俺が食べても大丈夫だったし、毒がないのは確実だった。


師匠にそのことを話したら、共生について教えてくれた。

その木は鳥から葉を守ってもらうために蟻に木の中に巣を作らせて、代わりに蜜を蟻に分けているらしい。

蟻はエサを手に入れれるし、木は新芽をついばまれないからお互いに排除しようとはしないんだ。」

「まさか・・・」


ここまで言えばどういう状況か理解できたようだ。


「ああ、俺たちはさっきの話でいうと木の実を食べて落ちた小鳥の立場だ。

あの蝶はアリだな、たぶん。

実をとった直後に集まってきやがった。

折れた枝からなんか特殊な臭いが出てるんだと思うが。」

「でもでもっ!死ぬっていう証拠がないじゃないですか!眠らせるだけかも。」


俺もあまり見たくないし、女の子にこれを見せるのはどうかと思うが、仕方ないか。

冒険者だし、なれておいたほうがいい。


「さっきから足下でカシャカシャ踏んでるの、落ち葉だと思ったか?」

「・・・はい。」


さっきリンゴの木を探したときに見かけた。この辺にもあるだろう。

俺はそう考えて、近くで少し盛り上がっている落ち葉の山を足でのける。


「ひゅっ!」


ハヅキが息をのんだ。

果たして、そこにはサンドリザードの頭骨と思われる骨があった。

牙で傷つけられた形跡は無い事が、他の猛獣に襲われたのでは無いことを物語っている。


「主、では早急に退散しましょう。」「だな。ハヅキ、逃げるぞ。」


ついでに頭骨からツノを回収し終えて空を見上げる。

よし、まだ気づかれてないな。

・・・なんて思っていたのだが。


「・・・すいません、あの花びらみたいなの、全部蝶ですよね。」

「絶たれた。」


何って、退路を。

どんな攻撃を仕掛けてくるかはわからないが、多分鱗粉だろうと思う。

うかつに近づけない。


「水で落としますね。」

「そうしてくれ。」


ハヅキが水魔法を発動させる。

魔法は呪文を唱える奴もいるが、たいていは何かする前にいつもやる行為を決めておいて、魔法を成功させやすくする暗示みたいなもんだ。ローティーンとか言ったりするやつだ。


水にぬれた蝶はペタペタと地面に落ちていく。


「やりましたか・・・?」

「おい、それを言うんじゃねぇよ。」

「は、なんで?」

「いや、世間にはフラグと言われるものがあってだな。

「俺は無敵だ!」とか言うやつは案外あっさり倒されて、

ああいう何か隠してそうな敵に「やったか?」とか言うと・・・」


突然、

地面に落ちた蝶が黒い影に変わって、落ち葉をすり抜けて土に染み込んでいく。

地面が盛り上がって、黒くて腕の大きな土人形が姿を現す。

腕が俺の肩幅ほどある。

これは魔法か?

と、こんな風に、


「パワーアップして復活するもんなんだ。」

「えぇー・・・。」


ずるくないですか?

と言うようにハヅキが視線を向ける。

お前が禁句を口にしたんだろ。

まあ、ほんとに来るとは思わなかったが。


「囲むぞ。」


このパーティー、後衛がいない。

しかも周りはそこそこ広いので囲むほうが楽なのだ。

まだ動かないゴーレムを横に見ながら、ハヅキはゴーレムの左に、俺はゴーレムの右に移動する。

エクリプスは召喚を解いておく。

元々の能力がずば抜けて高いエクリプスは、戦闘の経験を積みたい俺たちには邪魔だからである。

召喚士の能力だけで強くなるつもりはさらさらない。


(来ます。)


今まで静かに俺の目を通して相手の様子をうかがっていたエクリプスが、脳内でぼそりと呟く。


「ガァァァァァァァァァ!」


咆哮とともに俺よりちょっと高いくらい、大体2レートの土人形(ゴーレム)が両腕を広げ、右に一回転する。

3レートは離れていたので当たることはない。

と思いきや、腕から俺の頭ほどある石が飛んでくる。


「あっぶな・・・」


とっさに剣で受けた。

腕が痺れる。

ハヅキももうひとつの石を横に避けたようである。

俺もあんな顔をしているのだろうか?すごく驚いた顔をしている。


ゴーレムがこちらに突っ込んでくる。

何故か足を引きずっている。いわゆる摺り足だ。

本で読んだ事があるのだが、ゴーレムは核で動いているらしい。

それを壊せばいいと。

あるのだろうか?蝶が原料のゴーレムに。


とにかく土を溶かして中の核を探すべきだ。


「ハヅキ!こっちで引き付けるから水でとかせ!」

「わかりました!」


そう言っている内にゴーレムが殴りかかってくる。

両腕の先端には先程より少し大きな石が装填されている。


石というより岩だな。


何て思いながら右に避けた時にゴーレムの右腕の関節部分を切りつける。

関節部分のせいか、柔らかく、刃が3分の1まで入ったところで硬いものに当たって腕の外へ抜ける。


硬いものじゃねぇな。腕の先に付いてる岩だ。

摺り足の理由はこれか。

・・・いくつ入ってんだよ。


脳内で文句を言いつつも、ゴーレムのパンチを避けていく。

近くにいる奴から襲うのか、ゴーレムは俺しか狙わない。

ハヅキを狙わないのは好都合だ。

腕にあんなに大量の岩をつめた奴の一撃なんて避けるしかない。

俺ならいける。

そう自分に言い聞かせつつ避けていく。


アッパーやフックなど、上半身を使って攻撃してくる。

ハヅキが全身に水で穴を穿っていくが、中々見つからない。

そろそろ全身廻ったんじゃなかろうか。


「有ったか!?」

「無い!」

「早くしてくれ!」

「違うの、何処にもないの!」


どうしろってんだよ・・・。


夕日をバックに立つゴーレムを注意しながら

次に思い付いた方法は、

逃げる。


「なら逃げるぞ。クエストは達成したし、こいつと戦う意味もない!足、切れるか!?」

「石は切れないけど、了解!」


ハヅキとゴーレムのほうが近くならないように離れる。

ゴーレムの足元にハヅキが水の玉を大量にぶつける。

水の玉は回転しながらゴーレムから土をえぐりとっていく。

しかし足の中心に来るとハヅキの制御を離れてただの水に戻っていく。

魔力が通っている部分があるからだ。


「クソッ!」


案の定、そこには岩でできた骨組みがあった。

叩き割るハンマーがないとこれは無理だ。

足は岩で繋がれ、砂でできていて切り裂けそうなところは何処にもない。


「ハッ、なるほど。核を壊すんだったな。」


逃げる方法は無いものかとゴーレムの足を見ていた俺は思わず笑ってしまう。

そんなことか。と、


ふと、足元に注目していると見えてきた。

ゴーレムの周りに出来た黒い水溜まり。

その黒から出たゴーレムの後ろの影は長細く延びて、先ほどゴーレムが出現した場所から続いている。

夕日をバックにしながら。

出現した場所からずっと水を被せていた覚えはない。

地面を隠すように積もる落ち葉の中を、見え隠れしながら影はゴーレムに魔力を注ぎ続けている。


そう言えば東の国には、相手の影を踏むと自由に操ることのできる術が在るとか、無いとか。


なんてことを考えながら、バレたと悟ったのだろうか?

動かなくなったゴーレムの横を駆け抜けた俺は、

夕日の方向にある影の先端、核に剣を突き立ててこう言った。


「みいつけた。」

お盆が終わってしまった・・・。

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