竜人エクリプスの探検
私の名前はエクリプス レーヴァンティン、種族は千年種です。
以前、勇者と名乗る無法者に殺されたのち、主に召喚されて蘇りました。
現在は守護魔獣として主に仕えています。
今は主のなかで外の出来事を見ているのが退屈だったので、外へ出させてもらいました。
最初に召喚された時は、この地の寒さに凍えましたが、今は主に買ってもらったこのコートとマフラーがあるので安全です。ぬくぬくです。
「木しかありませんね。」
ヒマダナー
私は主の講師、アルゴに聞いた、同じ竜人のいるらしき場所へ向かいます。
林の中は丁寧に手入れが施されていて、とても歩きやすいです。虫一匹いません。
あっ、グラウンドが見えてきました。
しかしこの広いだけでなにもないグラウンドは、いったいいくつあるのでしょう?
主はこの目の前のグラウンドが第4グラウンドだといっていましたが、どうも第8ぐらいまではありそうです。
林を抜けると、グラウンドでは召喚獣でしょう、
私から見て左側に杖を持った腕の長い大きな猿のような魔獣と、
右側には鱗が銀色に光る小さなサメが空中に浮かんでいます。
それぞれの後ろに一人づつ人が立っていて、その周りを囲むように人が集まっています。
あの二人はそれぞれの魔獣の召喚者でしょうか。大猿の後ろに立っているのは金髪の太り気味の男性で、
サメの後ろには黒い髪をした美青年です。お互い召喚士であることを表す黒いコートを着ていて、どちらも私より二つ上くらいの年齢です。
「始めっ!」
いきなり声が響きます。少しビックリしました。
戦闘が始まる。
大猿が杖でサメを上から叩きつける。
サメはそれを避けずに歯で噛みつく。大猿はサメの噛みついた杖の先端から炎を放射する。
魔術!あの大猿、魔術がつかえる!・・・私も使えますが。
サメが炎で溶かされ液体化する。そのまま杖の表面を滑るようにまとわりついて、杖を半ばからへし折った。
・・・あのサメ、風魔術で電撃を与えるか闇魔術で悪夢を見せるかぐらいでしか倒せないみたいですね。
サメだった液体はそのままスルスルと大猿の腕にまとわりつくと、そのまま肘間接を切断した。
大猿は実体化が解け、赤い光と共に消える。
「勝者、カイル。」
勝った方の男性は「はぁ、またか。」と、少し落ち込みながら、
「キャー」「カイル様には敵わないわね。」などの女性陣の羨望の眼差しとともに
「あー、やっぱりかー。」「チッ、なめてやがる。」などの男性陣からの、恨みのこもった眼差しも向けられています。
・・・カイルと言うらしいです。そのカイルが、
「そろそろ出てこい。」
と足元に向かって言うと、
銀色のサメはスルスルと地中に潜り、カイルの隣の地面から勢いよく霧のような白いもやが出てきます。
次第に霧が濃くなり、それが晴れると、私と同い年くらいの青いドレスを着た青い髪の女性が立っていました。真っ青です。
「頼むから、ちょっとはまじめに闘かってくれ。」
「えー、めんどいしー。だって外寒いじゃん。無駄な体力を節約してるだけだもん!」
そう言ってその女性は軽く身震いします。
・・・と言うか、
「ドレッド・・・」
知らず知らずの内に私はそう口走っていました。
世界は狭いとはよくいったものです。
だって、こうも簡単に知り合いがいると思わなかったのですから。
「はぁ?」
鬱陶しげに、その女性はこちらを見て、見た瞬間!
さっきの鬱陶しげな態度はどこへやら、いきなりこちらに右ストレートを放ってきました。
竜人には挨拶がわりです。素手で受け止めます。
「エクリプスじゃん!おひさー!」
「いきなりパンチするこの性格、やっぱりドレッドですね!」
彼女はドレッド ノート、私の友人です。
「なに、ここにいるって事はあんたも召喚されたの?」
「そうです。まさか本当に知り合いがいると思いませんでした。」
私たちは手を取り合って喜びました。
もう会えないと思っていたのに。
「そうなんだよ。てゆーか他の竜人もいるんだけどね、知り合いがぜえんぜんいないし。」
私たちが話していると、さっきの召喚士が後ろから駆け寄ってきます。
「ちょっ、いきなりどっか行くなよ。
あと殴っちゃダメだって!」
「いいじゃん。それよりさ、知り合いがいたんだよ!?」
そう言ってドレッドはこちらを指差します。
カイルというらしい青年はさっとこちらを振り向き、
「ドレッドがいきなり殴りかかったりしてすいません。自分は3回生でカイルといいます。」
と謝ってきました。
ドレッドは礼儀正しい良い主に当たったようです。
「私の名前はエクリプス レーヴァンティンです。1回生のレイジという生徒のの守護魔獣です。大丈夫ですよ、私たちの間では挨拶ですから。」
「ほらいったじゃん、これぐらい普通だって。」
「つったってお前な、この前それ別のクラスの千年種の顔面にぶちこんで、大喧嘩になったんだぞ。」
「ああ、ケガでちょっと休みがもらえただけだったけどね。いっぱい遊べたし、怪我のこうみょうってやつだね。」
「停学食らったんだよバカ!」
フフッ
少し笑ってしまう。どうも性格は変わってないみたいです。
「いいんですか!?」
あのあと、すっかり意気投合した私たちは、カイルさんのおごりで、学院から少し離れた場所にあるレストランに来ていました。
「ああ、ドレッドもよく食べるからね。遠慮しないでいいよ。・・・ところでレイジ君だっけ、彼には」
「大丈夫です。主には許可を得ていますから。」
「そうかい。はぁ、ドレッドもこれぐらい聞き分けがよかったらなぁ。」
「もうっ、分かったってば!さっさと頼もう?」
そう言ってドレッドは店員さんに、
「あ、この欄のやつ全部ください。」
と言って、ピザを全種類注文します。
・・・ほう、遠慮はいらないみたいですね。
幾らでも頼めそうなことを確認すると、私もパスタを全種類注文しました。
「レヴァも狩りにあったんだね。」
ドレッドが少し寂しげに聞いてきます。
「はい。」
「そっか。いや、私もね、召喚されてから何人かの所へは行ったんだ。レヴァを含めて4人殺られてた。」
竜人は基本的に単独で生活します。
また、お互いの縄張りが広いので、かなり遠くまで行ったのでしょう。
「やはり皆、勇者の仕業なのでしょうか?」
「そうだろうね。アイツら言ってたでしょ、竜人を無理矢理奴隷にして高値で売るんだって。
従わないやつは殺されるんだよ。
でも今は竜人も単独で生活するのが居なくなってるよ。
連合っての組んでるんだってさ。勇者も迂闊に手を出せないみたい。
三人よれば文殊の知恵ってやつだね。」
ピザを続々と平らげながらドレッドは言います。
かなり調べたのでしょう。
「でもレヴァは全然ニュースにならなかったね。」
「えっ、何がですか?」
「私が召喚されたときなんか、目の前にいきなり人がいたから驚いて近くにあった林、全部切り倒しちゃったもん。人族に殺されたからね。窮鼠猫を噛むってやつだね。」
「俺たち何もしてなかったじゃないか!」
カイルが文句をいう。
聞きながら、私も最後の皿のカルボナーラを頬張ります。
すると、
「おいっ、お前らそこをどけ。」
いきなりスーツを着た大きな体格のハゲに声をかけられます。
後ろにはいかにも上流階級な服装をしたデブも居ます。
「お客様、他の方々のご迷惑となりますので・・・」
店員がマニュアル通りに対応します。
迅速な対応ですね。
そう思っていると、
「うっせえ!」
そう言ってハゲは店員を殴りつけます。
ゴッ!
鈍い音がして店員が宙を舞いました。
「俺は貴族だ。おいガキ、分かったらさっさと席を譲れ。」
デブが席を優先されるのはさも当たり前のごとくしゃべります。
なんだこいつは・・・。
貴族はマナーというものを知らないのでしょうか?
周りの客は無関係を装って、黙々と料理を口に運んでいます。
困った私は前の席のドレッドを見ます。
「ねえカイル、このハゲとデブ殺していい?」
「止めろって、そろそろ退学になりかねないんだぞ。」
「大丈夫だよ。迷惑な客を追い払ったって事でほめられると思うよ。
汚名挽回ってやつだね。」
「絶対するなよ!あと挽回するのは名誉だからな!?汚名は挽回するなよ!」
「大丈夫大丈夫、こんなザコ加減するのが難しいくらいだから。」
「ああ?聞こえてるぞ。もう一回言ってみろ!」
ハゲが怒鳴ります。
「聞こえなかったか?アンタらを追い払うって言ったんだよ!」
「ほう、俺はこれでも職業lv17の格闘家だぜ?」
自慢げに言うハゲ、
「けっこう低いじゃないか・・・。」
「うっせえ!召喚士を殴るには十分だ!」
カイルに向かってハゲが殴りかかっていきます。
ゴンッ!
そんな音がして透明な膜がカイルを守りました。
ドレッドが水属性の魔術で結界を張ったのです。
そのままドレッドはハゲの頭をつかみ、ギリギリと手に力を込めていきます。最強種族のアイアンクローがきまります。
「ギャアアア!」
ハゲが悲鳴を上げて気絶します。
「おっ、おい!誰か見てないで助けろ!金ならいくらでもやる!
そこのリザードマン、金貨20枚でどうだ!」
そう言ってデブが私を指差してきます。
ブチリ
何かが千切れた音が聞こえました。
ほう、腰の翼の鱗を見て言ったのでしょうが、竜人に向かって、このデブはリザードマン。と、
・・・なるほど、殺してもいいようですね。
後ろでカイルが
「あー、言っちゃった。竜人に対する最大の禁句言っちゃったー」
などと言っています。気にしません。
私の纏う雰囲気が変わったと知るや、一目散に逃げようとするデブを闇魔術で眠らせて、足の骨を砕きます。
頭を潰そうとしたところをドレッドに止められるまで、私の一方的な私刑は続きました。
・・・という事があったのです。」
「ふむ、なるほど。全然わからねえ・・・。」
2時過ぎ、何故かレイファー先生に怒られた俺はハヅキと一緒に、何故か「あのクソブタがっ!」と呟くエクリプスから事情を聞いていた。
早くお盆にならないかなー。