剣術4
「で、なんでまた来てるんだよ。」
エクリプスが以前勇者に倒された神獣、ギガンテスだったと知り、半ば納得しつつ部屋に戻った俺を、玄関で出迎えたのはハヅキだった。
「ハッ、美少女が男しかいないむさ苦しい部屋にわざわざ来てやったんだから泣いて喜べよ。」
・・・以前のまんまじゃねえか。
少しは口調が改善されたと思っていたのだが。
(主、この女とは思えないほど口の悪い少女は誰でしょうか?)
エクリプスが若干の怒りをにじませながら聞いてくる。
言われたのは俺なのだが、怒ってくれているのだろうか。
(ああ、こいつはハヅキだ。ギルドで受付をしてるやつさ。)
「用がないんなら出てってくれよ。たった今、玄関の前でわざわざ待ち伏せていたひどいやつに出くわしてな、すげえ疲れたんだ。」
訳;お前のせいでたった今、疲れが倍になったんだ。
「まま、挨拶はこのくらいにして、本題に入ります。」
「お前それでよく受付を任されたな。」
ギルドの職員数は、そこまでカツカツなのだろうか。
(主、さっきまでのアレは挨拶だったのですか?私ならば3発は殴ってます。)
エクリプスが、実に的確なコメントをする。
(俺たちでも、あんな挨拶はしないぞ。)
「別に受付が本職じゃあありませんので。しかしあれぐらい言わないと冒険者とはやっていけませんよ?」
などとのたまう。近ごろの冒険者の心はそこまで荒んでいるのだろうか。
「それで?」
さっさと出てってもらおう。そう思いながら先を促す。
「ああ、そうでした。以前、ギルドの登録に来ていたんですってね。」
「そういえばまだだったな。アンタを捜しだしたら登録する手はずだったんだよ。」
「登録の申請が通ったので書類を書いてもらいます。」
おお、あのまま登録はなかったことにされたと思っていたのだが、ハヅキの母親は覚えてくれていたようだ。
「ではいきましょう。」
「えっ?今からいくのか。」
「ええ、先に申請したので順序が逆転しています。早く行かないと、なかったことになりますよ?」
帰ってきて早々、俺たちは部屋を出た。
ギルドにつくと、
「おお、ハヅキちゃん、お母さんに似て大きいねぇ。一度でいいからその巨乳を揉ませてくれないかなぁ?」
「うっせえな、黙ってろ豚ども。」
「ああ、その言葉が戦場で荒んだ俺たちの心を癒してくれる!女神さまぁ!」
レイジは頭を抱えたくなった。かくも冒険者たちの心は荒んでいる。
「ほら、ただの挨拶です。」
ハヅキはスタスタとカウンターの奥へ入っていき、右手に紙が挟まれたバインダーを持って戻ってきた。
「ではここの空欄部分ににお名前を記入してください。」
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誓約書
私 はいかなる理由で怪我、
もしくは死亡しようともその任務の
依頼人、またはこのギルドの責任者
に一切の責任を問いません。
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「・・・。」
(主、今はにおいも嗅げませんし、私は字も読めませんが、この紙からはひどく危険な臭いがします。)
(・・・あっ、ああ、その通りだ。よくわかったな。)
どうしたんですか?とでも言うようにハヅキはペンを差し出してくる。
「なあ、これはなんだ?」
俺は震え声でそう問う。
「何って・・・ああ、字が読めないんですね。ここには、私・・・」
「いや、そうじゃないだろ!え!?これに名前書くの!?みんな書いてんの!?」
これ絶対ヤバい仕事の時に書くやつじゃなかったか、
「おいおい、なにやってんだあ?」
酔った冒険者が俺の隣から紙を覗き込む。
うっ!俺は鼻を手でおおった。こいつすげえ酒臭え。
「おお、懐かしいな!なんだお前、冒険者始めんのか。ハヅキちゃん、こいつの名前は?」
「えっ、レイジさんですけど。」
「そうかそうか、レイジレイジっと。はいよ、ハヅキちゃん。」
「えっ、ちょっ、」
「ほいほーい。ではではー。」
そう言ってハヅキはカウンターの奥へ消えていった。
・・・え?
数秒後、ハヅキはトコトコと、奥から戻ってきて、
「ではではレイジさん、登録かんりょーです。ようこそっ冒険者のぉ、世界へー。」
パチパチと、一部始終を見ていた他の冒険者からも、拍手が上がる。
(主、そこはかとなく、危険な香りがします。気をつけて下さい。)
(もう遅いよ・・・。)
その夜、俺はギルドでやけくそになって酒を飲みまくった。
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・・・頭がいたい。
俺は昨日からの二日酔いで非常に気分が悪かった。
学院に着き、一限の必修科目である召喚術の講義を受けている。
「ねぇ、あんな人いたっけ?」
「いや、見覚えないな。お前知ってる?」
「知らないわね、顔はちょっとかっこいいけど。」
「剣を持っているわ、何でかしら?」
・・・目線がいたい。
俺は入学式、1日目の登校を逃し、クラスメイトから好奇の視線を向けられていた。
(主、周りから視線を感じます。)
(そうだな。俺は顔合わせの時にいなかったから、珍しいんだ。)
脳内でエクリプスと会話する。と、
「それじゃあレイジ、守護魔獣とのシンクロ率が一定以上になるとできる、
守護魔獣の力を自分に宿して、それぞれで闘うよりも強い効果が期待される、召喚術の応用はなんだ?」
「えっ、と・・・」
(衛装魔法です、主。)
エクリプスが教えてくれる。
「衛装魔法です。」
「その通りだ。次は守護魔獣に聞かなくても答えられるようにしろ。」
なんでわかんだよ・・・。
そう思いつつも、「はい。」と返事する。
ゴーン、ゴーン。
と、一限の終わりを告げる鐘がなった。
俺は二限目には何もとっていないので、適当に学院の中にある図書室で過ごしていた。
図書室は静かでいい。
寝ようと、机の上に突っ伏していると、エクリプスが、
(主、私の生み出した重力魔法はあまり使わないのですね。)
と、少し残念そうに脳の中に喋りかけてくる。
(ああ、燃費が悪いんだ。一秒に1ずつ魔力が削れていくからな。)
(そうですか・・・。)
(わるいな、あまり使ってなくて。)
(いえ、あれは闇属性魔術の応用なので使えるだけでもすごいです。それよりも、主のステータスは一体どのくらいなのでしょうか?)
と、エクリプスは聞いてくる。
たしか・・・
と、答えようとして、俺はエクリプスと契約したおかげでステータスに上昇効果がついている事を思い出した。
そういえばエクリプスと契約してから一度も見てないな。
と思い、首にかけているステータスプレートをシャツの中から引っ張り出す。そこには、
name Laiji
tribe human
job samonner
title mixed blood
HP 210(×2.3)(×1)=483
MP 194(×1.85)(×1)=358
str 113(×1.6)(×1)=180
vit 60(×1.8)(×1)=108
agi 152(×1.75)(×1)=266
int 138(×1.9)(×1)=262
luc 27
skill magic gravity samon
follower
Guardian
name Eclipse Leavantin
tribe dragon
job knight(lv700)
title thousand
HP 13000(×1)
MP 8500(×1)
str 6000(×1)
vit 8000(×1)
agi 7500(×1)
int 9000(×1)
luc 73
skill magic gravity,dark,holy
・・・倍!?
見るとHPが二倍になっていた。
というかそれ以外も、ほとんどのステータスが倍になっている。
千年種とは竜人の別の呼び名だ。千年生きたものがそうなると言われているのでそう呼ばれている。
というかエクリプスのステータスが高すぎる。これが最高ランクとうたわれる竜人の力なのか。
ほとんどが4桁だった。
・・・のだが、運気のみが異常に低い。
俺の運気が低いのもまさか「混血者」の称号のせいではないだろうか・・・
(いえ、そんなことはありません。主。)
と、エクリプスが言う。
(なんでだ?)
(運気は100までしか上がりません。通常の魔術の強化では運気は上がりません。まあ、最高レベルの聖属性魔術にそんなのがあった気がしますが。)
(・・・そうか。)
運気が低いのは自分の素だと知り、少しがっかりする。
エクリプス レーヴァンティンか。
(なあ、ファミリーネームがあるって事は貴族かなんかだったのか?)
基本、ファミリーネームがあるのは貴族か王族なので、聞いてみる。
(いえ、そんなことはありません。竜人はそれこそ、とても長い時を過ごした個体しかなれません。なので元々の数が少ないのです。そこで、私たちは村の中で助け合いながら過ごします。ファミリーネームは、人間を真似た時に、たまたまそうなっただけです。)
そうか、竜人は数が少ないから統治するものがいなくてもいい世界なんだろう。
(いい村だったんだな。)
(はい、皆さんとても優しかったです。)
エクリプスは嬉しそうに言う。
だが、神獣ギガンテスは勇者によって死んだと聞いた。
しかしこれを聞くのはまずいだろう。やめておこう。
「で、なんでお前がここにいんだよ・・・。」
三限目剣術の授業をとっていた俺はグラウンドで、昨日も言ったと思われる言葉を呟く。
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
そこに立っていたのは、ハヅキだった。
白いコートに赤いラインの入った騎士科の格好をしている。腰には剣をさしていた。金色の瞳でこちらを見上げてくる。
そういや騎士科でも一人遅れたやつがいたってあの神官がいってたな。
こいつの事だったのか。
「っていうか、あなたも騎士科だと思ってたんですけど。」
少し残念そうにそう言って(いや、おそらく気のせいだ。)ハヅキは俺の服装をジロジロ見つめる。
と、ニヤリと笑って、
「まさか、落ちました?騎士科。」
鋭い!
(さすが、ギルドで受付をしているだけはありますね。主のわずかな表情の変化も見逃してません。)
エクリプスが冷静に分析する。
「チッ、別に良いだろ、まさか礼儀作法まで出るとは思わなかったんだよ。」
っつーかコイツあの口調でよく合格したな・・・。
そう思っていると、グラウンドに耳の長い30代の女性・・・(多分エルフだ)が歩いて来て、
「はい、静かに!今回、この剣術1の授業を受け持つことになったポメラだ。」
と、言った。
ハヅキが、
「こちらを受けて正解でしたね。」
と話しかけてくる。
「?なんでだよ。どこでも変わらないんじゃねぇのか?」
違うのだろうか。
「はあ、運が良いですね。剣術4のクラスはあのアルゴが担当者ですよ?」
「誰だそれ?何せ召喚士科の奴はほとんどが魔術系の授業を取っているからな。
クラスメイトと剣術の話はしないんだ。
それに俺は2日学校を休んだせいで何か怪しまれてるしな。」
「騎士科ではかなり有名ですよ。
盗み聞いた話によると、どうやらアルゴという人はもともと軍の出身らしく、シゴキとも言える乱暴な訓練で数々の不登校生を排出しているらしいです。」
おお、この授業を取って正解だった。
そう思っていると、ポメラ先生が、
「ではまず、私の授業では剣術、それにともなうチームワークを鍛えてもらう。なのでここでは5人のペアで行動してもらうことになっている。ペアの成績で単位をやるかやらないかは変わるぞ。あと20分でこれから一緒に戦う仲間を作れ!」
そういい放つ。
俺たちは、200人はいると思われるグラウンドで、ペアをさがすことになった。
「残り3分!」
ポメラ先生が言う。
もうほとんどの人がペアを作った中、俺とハヅキはまだ2人のままだった。
「おい、おかしくないか?俺が話しかけたら断るのはわかるが、なんでお前そんなに避けられてんの?」
(確かに、ハヅキさんが話しかけてもあからさまに避けていますね。)
(だろ?コイツ見た目は良いから誰か釣れると思ったんだが、)
エクリプスと軽く相談する。
召喚士科のコートを着た俺よりも騎士科の奴を選びたいのはわかるが、ハヅキが話しかけても他の生徒が断ることに俺は疑問を感じていた。
「ああ、いい忘れてましたね。なぜか私も避けられているんです。」
と、ハヅキが言った。
「ああ、お前も遅れたから仲間に入るとこがなかったのか。」
そうかそうか、コイツもか。
若干の仲間意識をもってそういうと、
「違うに決まってるでしょう?ただ適当に挨拶しただけで皆さん黙って去っていってしまうんです。」
(主、彼女の言う挨拶とは多分・・・)
(ああ、十中八九あの口調の悪いキャラだろうな。)
エクリプスの言葉を俺が引き継ぐ。
「お前あの挨拶手遅れになる前にやめた方がいいぞ。」
「え、なんでですか?」
コイツ素でやっているからな・・・。
「あの挨拶で喜ぶのは冒険者だけだぞ。あれを一般人にやると、ほとんど相手にされなくなる。」
「そうだったんですか・・・。じつは、もうほとんど相手にされていません。」
そう言って、困った顔で見上げてくる。
・・・手遅れか。
励まそうと思い、
「ま、そのうちまた話しかけてくるさ。
とりあえず2人さがそうぜ、残りは俺の守護魔獣でごまかせる。」
「そうですか、ありがとうございます。」
そう言ってハヅキは笑顔になった。よかった。
と思っていたら、
「そこまで!」
と、ポメラ先生が声をあげる。
「5人そろったペアは座れ。」
結局、残ったのは俺たち2人のペア、男子4人のペア、女子1人の合計7人だった。
「よし、じゃあそことそこはくっつけ。」
そう言ってポメラ先生は俺たち以外のペアたちを合わせた。
え?俺らどうすんの?
「じゃあ残ったお前らは2人で何とかしろ。」
俺とハヅキは顔を見合せる。
「マジで?」
「ああ、別に他の奴をこの授業に入れてもいいぞ。」
「守護魔獣とかは・・・」
希望をもってきいてみる。
「ダメに決まっているだろ。ステータスが違いすぎる。」
「そっすか・・・。」
と、言っていると、
「おーい、ポメラー、そっちに何人か生徒余ってないかー?」
間の抜けた声で20代位のエルフの男がグラウンドにやってくる。
彼も教師だろうか?ずいぶん若い。
「なんだ、ついに一人も来なくなったのか?」
ポメラ先生が言う。
「なあ、この人誰だ?」
俺はなぜか暗い表情のハヅキに質問する。
「ヤバイです、ピンチですよレイジさん。この人は・・・」
ハヅキが、いいかけると、
「あーあ、今回の犠牲者はあいつらか。」
「召喚士にあの授業は可哀想だね。」
「もう一人の結構かわいい子もか、残念だな・・・。」
「おいおい、やめた方がいいぜ?あいつ、すっげえ口わりぃから。」
「どのみち、もう決まっただろ。心中お察しいたします。」
「ハハッ、お察しいたすなら代わってやれよ。」
「嫌にきまってんだろ?」
「ま、そうだわな。」
「アルゴの授業は無理ゲーだからな・・・」
おいっ、お前ら聞こえてんぞ。
「えっ、ウソだろ?だってあいつあんなに若いぜ?
軍にいたんだろ?」
「知らないんですか?エルフは長生きする分、年を取るのが遅いんですよ。」
と言うことは・・・。
「おお、コイツらは?」
「ん、そいつらはたった今グループを作れなかった奴らだ。」
「ちょうどいいじゃん。コイツらもらってくぜ?」
「ハァ、好きにしろ。」
え?俺たちの意思は?
「と、言うわけだ。お前ら、剣術4に来い。」
「「・・・はい。」」
俺たちは、拒否権も与えられずに剣術4の授業へ連行された。
いい忘れていました、すいません。
この小説は毎回土日に投稿します。