17.悲劇の入城
いつも遅くてすいません。
実は異世界の処刑人の家系でした始まります。
この世界の一日は地球と同じ二十四時間。蒼真の説教が終わったのは午後四時。説教が終わってからすぐに真那美が、
「今からみんなで王城に行くから着替えとか準備しなさい。」
とのこと。なので僕もスーツに着替えたのだが…何故か両手を縛られた。そして、その先を持つのは龍…ではなく煉華だった。
「トイレとかどうするんだよ。」
との僕の問に対し煉華は、
「漏らせば?安心しなさい、湿ったままが嫌なら乾かしてあげるから。」
とのとても同じ年の女子の口から発せられるとは思えない酷い言葉をいただいた。
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暫くして王城に着いた僕たち。門を通る際、荷物検査的などがあるのかと思ったがあっさり通してくれた。なんか門番の皆さん、僕のことを憐れみの目で見ているような…気のせいかな。
城に入って最初に応接間に案内された。部屋に飾られた美しき絵画、可憐に咲いた花が入った花瓶。どれもやはり高価そうだ。てか、絶対高価なので近づかないでおこう。……自らの命を絶たないために。
「ちょっとだけ落ち着かないわね。」
「私もです。緊張します。」
「これからこういう事が多くなるから慣れとかなきゃ駄目よ、四人とも…って言っても一人は大丈夫かしらね。」
「…zzz」
「もう寝てやがる。」
珍しくおとなしいかと思えば寝ていた蒼真。相当疲れていたのか鼾が小さい。起きて面倒事を起こされるより現状維持がベストと考えたのか、放っておくことにした。
コンコンッ…キッー
そんな時だった。誰かがドアをノックした後開けたため、先程まで寝ている蒼真にあった四人の視線はそこに向けられた。
そして、そこにいたのは…
「失礼します。私、第二王女のエリスカ=リュシュート=アファルシュです。本日お見栄すると聞きましたので、御挨拶のため来ました。」
「「「「………………」」」」
「…zzz」
御丁寧な挨拶を沈黙で返す龍、煉華、雪那の三人と真那美。そして小さな鼾をする蒼真。三人からしても真那美からしても、この後パーティーで御一緒するのに何故今挨拶を?っという疑問で頭がいっぱいだった。
そして、そんな四人をよそに、エリスカは寝ている蒼真の方へ近づいて、
「昨日は助けていただきありがとうございます。つきましてはお礼がしたいため、お、お時間をいただけませんか?」
ほんの少し顔を赤くして言うエリスカだったが…龍達は残念っと心中で叫んだ。
「エ、エリスカ王女。悪いんですがそいつ寝てますよ。」
「えっ?」
「……ケーキ…渡さzzz」
「…………」
どうやら蒼真が寝ていることに気づいたらしく気が抜けてその場で倒れこむエリスカ。そして、「ふぅ~」っと安心したかのような息をはいた。
それから昨日のことを四人に話したエリスカ王女。その出来事を聞いて驚いた表情をする煉華と雪那、真那美だが、龍は納得していたようだ。
そんな話終えて直ぐのことだった。突然ドアがバンッと開き、またも蒼真以外の視線がそちらを向いた。
「エリスカ王女、部屋をでるならメイドか執事に言ってください。私が探さなければ…いけ、ない。……き、貴様は!」
突如として入ってきた騎士の姿をした女、シェルス。エリスカを探していたようだが蒼真をみて殺気を急に発しだした。無論エリスカから話を聞いていた龍達は何故この女が殺気を放っているのかは知っているが…面倒事は嫌いなので放っておくことにした。
だが、エリスカはそうではないらしい。
「やめなさいシェルス。この方は―――」
「止めないでくださいエリスカ王女。わかっています。今すぐあなたをこのクズから解放してみせます。」
「だ、だから話を聞き―――」
「zzz…これは……俺の…zzz。」
「き、貴様エリスカ王女をこれと物のように呼び、さらには俺のだと!許さん。」
シェルスから放たれた怒気は部屋を覆い尽くし、隅にいたメイドがそれによってその場に倒れた。もうエリスカの声はシェルスには届いていないようだ。ただ怒りのままにレイピアを抜くシェルス。
そしてその刃を振り上げ、
「エリスカ王女のためだ…死ね。」
降り下ろす。エリスカは止めに入ろうとするが間に合わない。龍、煉華、雪那も特に表情変えずに紅茶を飲む。そんな三人をみて大丈夫だろうと判断した真那美も同じく紅茶を飲む。
そして刃が蒼真に当たる直前で止まった。…否、止められた。寝ているはずの蒼真の手によって…。
「なっ…!そ、そんなバカな…。」
降り下ろしたレイピアが両手で押さえられたことに驚きの声を漏らすシェルス。そして、パキンッという音ともにレイピアは折られた。ショックだったのか折られたレイピアの持ち手をその場に落とす。
そして、寝ていたはずの蒼真が…
「これは俺のケーキだ。不良だろうが教師だろうが、警官だろうが総理だろうが大統領だろうが誰にも渡さねー。」
っと叫んだ。
蒼真が急に変なことを言い出したため、呆気に取られるエリスカとシェルス、あとその他のメイド達。そして、ため息を漏らす龍、煉華、雪那であった。やけに動きは状況に合っているものの、言葉は全然合わないという変な寝相の悪さ。
とりあえずこのままだとあるはずもないケーキのせいで城が半壊にまでもっていかれるかもしれないので三人は蒼真を起こすことにした。その間にどうにかシェルスを納得させたエリスカであった。
~~十分後~~
漸く蒼真を起こすことのできた三人なのだが…
「ぼ、僕のケーキは…何処へ行ったんだ…。ぼ、僕の…ケーキ…。」
「ダメだこいつ、未だ心が夢の世界に行ってやがる。」
「蒼真、さっきの夢。諦めて。」
「そ、そんなわけあるか。あんなに大きくて甘そうなショートケーキ…夢なわけ―――」
「蒼真…それ大きさは?」
「高さが俺の身長の二倍弱で、弧の長さが―――」
「「「そんなの夢に決まってるだろ(です)。」」」
その言葉により蒼真の中からパキーンッという音が鳴り、蒼真は崩れるようにその場に四つん這いで倒れた。あまりのことに只々眺めているしかなかったエリスカとシェルス。
とりあえずメイドにショートケーキを持ってくるよう頼んだエリスカ。それによって何とか立ち上がることのできた蒼真であった。
そんな落ち着きを取り戻した蒼真にシェルスは近づいた。そして、頭を下げ、
「先程は本当にすまなか―――」
「えっ、なんのこと?」
「えっ!いや、だからその…先程私はお前を殺そうと…。」
「えっ、そうなの!まっ、別にいいじゃん。結果的に僕は死んでないし、誤解も解けたようだし。」
そんなことを笑顔で言う蒼真に呆気に取られるシェルス。そして龍達の方をみると、龍は両手を肩の高さまで挙げ首を横に振り、煉華と雪那な苦笑していた。
それを見て察したのかシェルスはその手を蒼真の前に差し出し…
「ああ。これからも宜しく頼む、蒼真。」
「うん、こちらこそ宜しく。」
お互いに握手をしたのだが…
蒼真は違和感を感じた。
今のシェルスの言葉に
『これからも宜しく』
嫌な予感がした。聞いたら後悔する。しかし、いつかはわかってしまう。だったら一層…
この予感は当たって欲しくないと望みつつ蒼真は口を開く。
「これからもってどういうこと?」
「ん?聞いていないのか?」
シェルスがそう言ったとき真那美…母さんが何かを思い出したのかのように口元に手を当てていた…目を大きく見開いて。そして龍は眉間辺りに手を、煉華は明後日の方向に目線をやり雪那は口笛を吹き出した。
三人のこの行動は五年間の付き合いで蒼真は学習していた。そしてこの行動をとった三人を見た瞬間蒼真の顔色は真っ青になっていった。
そして錆び付いて動きが悪くなった機械のようにギゴギゴッという音でもなるのではないかというくらい不自然に首を動かしシェルスを見た。
「やっぱり聞いていなかったのか。明日からこの国、アファルシュにある学園に入学することになっているんだぞ。私とエリスカ王女とお前たち四人を含めた六人で。」
とシェルスが言い終わった瞬間だった。
僕は窓から飛び降りようとしたが龍により拘束された。
次回の投稿は9月2日
午後7~8時の間に投稿しようと思います。