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第三話

「いいわよね、ベィーラ」

「いや、すぐに警察に届けないと…」

「大丈夫よ!お姉ちゃんに見せたらそのあとすぐに警察に行くから!ほら、行くわよ…」


ラームイはそう言って、赤ん坊を抱えたまま出入り口に向かっている。


「ねぇワッツ、今日は私このまま帰るから、そう報告しておいてね」

「おう、言っておくから。赤ん坊、気を付けるんだぞ」

「はーい。何してるのベィーラ、早くいきましょ!」


ラームイとワッツのやり取りを見つめていたベィーラは、慌ててラームイについていく。


「本当にすぐに警察に行くんだよな」

「当たり前よ。ちょっとかわいいからお姉ちゃんに見せてあげたいだけよ」

「ついでにベィーラも早上がりだと伝えてあげてね、ワッツ!」

「了解了解、おつかれさん」


ラームイの強引な意見に押されてしまったベィーラだったが、とりあえずついていくことにした。

スタッフの詰め所を出て、そのまま従業員通路を進むと、商業施設の従業員専用出入り口がある。

従業員専用出入り口には、IDカードリーダがあり従業員の入退場を管理しているので誰でも通れるわけわけではない。二人は首からぶら下がっているIDカードをそれぞれリーダに通した。『ピッ』という小さな音とともにドアが開錠される。


「赤ちゃん、思ったより軽いのね」


ラームイが出入り口を出たところで赤ん坊を抱きながら言う。


「でも、ベィーラに返すわ。何かあったらまずいものね」


ラームイは赤ん坊を抱きかかえた腕からそっとベィーラに渡した。


「その子、全然目を覚まさないのねぇ。そういうものなの?」


ラームイから受け取った赤ん坊を右手に抱えつつ、左手で右手を支えながらどうしたらよいポジションなのかを調整していたベィーラは一瞬考えながら言った。


「わからないが、赤ん坊というのは寝るのが仕事だと聞いたことがある。とにかくずっと寝るものなんだろう」

「それよりラームイのお姉さんの店というのはどこにあるんだ?商業施設ここから近いのか」


ベィーラはラームイにお姉さんがいるというのを知らなかったので、もちろんお姉さんのお店というのもどこにあるか知らない。


「寝るのが仕事ね。あはは」


赤ん坊を見つめながら、ラームイは微笑んだ。


「姉さんの店はここからすぐよ。ついてきて」


そういって、ラームイは歩を進めた。

従業員専用出入り口の目の前の横断歩道を渡り、そのまままっすぐ進むと、オフィス街になる。歩いている人々はみな忙しそうだ。

べィーラは普段、深夜になってから仕事が終わるので、まだ夜にもならない時間帯にこうやって外に出ることはない。

いつもと違う街の風景にすこし戸惑いながら、ラームイについていく。

レンガを模した壁のビルの前について、ラームイが立ち止まる。

1階は喫茶店になっていて、入り口の周りは4テーブルほどのテラス席になっている。2階以上に上がるには、喫茶店の横にあるビルの入り口から入るようになっているようだ。

ラームイはそのままビルの入口に向かって歩いて行く。


「ここのビルの4階にあるバーがお姉ちゃんのお店なの。まだお店が開く時間じゃないから、気にしないで大丈夫よ」


1階の入り口を入ると、あまり広くはないフロアがあり、エレベータがあった。

ちょうどエレベータが来ていたので、そのまま二人はエレベータに乗り込んだ。ラームイが4階のボタンを押すとドアが閉まる。

音もなくエレベータが上昇し、『4階です』の音声とともにドアが開く。


「さ、こっちよ」


4階のフロアはいくつもの店舗が集まって1つのフロアとなっているようだ。

洋食屋、ラーメン屋、居酒屋、そして、


「ここよ」


フロアの奥でラームイが手招きしている。ここがラームイのお姉さんの店のようだ。小さな看板が店の入口にある。

看板には『BAR ミスリナ』と書かれている。黄色い看板に黒い文字で書かれている。看板のすぐ後ろに木製のドアが有り、そのドアを開けて、ラームイが店に入っていった。


ラームイがドアを開いて入店すると、カウンターの奥で作業をしている人影が見える。店内はカウンターのみにライトが点灯していて店内全体はほの暗い。カウンターに6脚、テーブル席が4つの小さな店だ。店内は観葉植物がテーブルごとに配置されているように見えるが、暗くてハッキリしない。


「すみません、まだ開店前なんです」


作業している人影がこちらに振り向きもせず言葉をかける。あれがラームイの姉さんだろうか。


「お姉ちゃん、遊びに来ちゃった」


ラームイがカウンターのそばまで近づいて話しかける。


「あら、ラームイ。どうしたのこんな時間に。仕事はもう終わったの?」


ラームイの声に振り返った女性の額のあたりに第三の眼があった。驚いた顔でラームイを見つめる。

手には包丁を持っている。ライムかレモンでもカットしていた最中だったのだろう。


「そうよ、もう仕事は切り上げてきたの。それよりお姉ちゃんに見せたいものがあるのよ、何だと思う」


手招きでべィーラを呼び寄せながら、ラームイは楽しそうに話し続ける。


「あのね、赤ちゃん!、見てよ可愛いでしょう!」

「赤ちゃん!?」


ガシャンと音がして、ラームイの姉が持っていた包丁が手元から落ちた。


「やだ、お姉ちゃん大丈夫?」

「あ…あ、赤ちゃんてあんた…」


震える声で姉がカウンターから顔をラームイに近づける。はっきりと見えないが、目が見開いているのが分かる。


「違うの、違うの、なんか勘違いしてるみたいだけど!」

「べィーラこっち来て、見せてあげてよ!」


店の入り口とカウンターの間で所在なげにしていたべィーラだったが、カウンターに近づいて抱いていた赤ん坊を見やすいように抱え直した。


「ね、この子かわいいでしょう」


ラームイの顔とべィーラの顔、そして赤ん坊の顔を順番に見ながら、ラームイの姉は怪訝そうな顔を崩さない。


「で、何が違うっての。この子の母親があんたで父親がこの彼?ってこと?今まで彼がいることも言ってなかったじゃない」

「違いますよお姉さん、おい、ラームイおかしな方向になってるぞ!」

「あ…違うの違うの、この子はね…カクカクシカジカで…」

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