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スライム王子

スライム王子と臣下が我が家に住み着いたせいで、学校へ行けない

作者: 深水晶

 青い不定形生物がうるさいので翌朝、駄目元で自称宇宙船の金属塊の扉と思われる部分に金ノコを当ててみた。

 意外と固いそれを苦労しながら切断する。まぁ、だいたいで良いか、だいたいで。

 一呼吸ついた時、切断途中の謎金属の一部が大きく吹き飛んだ。


「危なっ!!」


 なんとか避けられたが、危うく玉のお肌に傷がつくところだった。心臓に悪い。

 脇に飛びすさり、額の汗を拭う俺。


 平々凡々で超善良な男子高校生、高田正史(たかだまさふみ)の日常は、我が家の庭に隕石?が降って以来、奇妙なものと化した。


 我が家の家族構成は、五キロ先のスーパーでパート勤務の母ちゃん、車で片道一時間半の隣町で普通にサラリーマンしてる親父、元気に畑仕事してるばあちゃんの四人である。

 昨日、間食用のおやつや常備している非常食などの減り具合で、何か生き物を飼い始めたと察知した母ちゃんによって、初日でスライム(推定)は見つかった。


 それはともかく「スライムなら仕方ない」ってなんだよ、母ちゃん。意味不明だよ。

 親父にしたって「スライムに人間の食べ物は与えない方が良いんじゃないか」って何? スライム飼育マニュアルとかあるのかよ。実在するなら教えてくれ。

 ばあちゃんは「動物病院に連れて行かなくて大丈夫かい?」って言ったけど、スライム診られる医者ってこのド田舎村の周辺にはいないと思うぞ。


「フゥ、危うく死ぬかと思いましたな。咄嗟に張った結界が間に合って良かった」


 金属塊に空いた空間──船の出入口の扉らしい──から白いスライムが現れた。

 ヤバイ、増えた。


「カクラコン!」


 自称スライム王子が、心持ち大きめサイズの白いスライムに飛び付いた。

 むしろ何故死んでないのか疑問だ。あの金属塊、確かに燃えてたよな。しかもガスの火より強く眩しい青い炎を上げていた。


「殿下!」


「ああ! ルーべリア! ミナファース! アンガルク! 全員無事だったのか!!」


 自称王子なスライムより大きなスライム達が金属塊からぞくぞく現れた。赤、緑、紫である。ピンクじゃなく紫なんだな。別に良いけど。


 謎金属なので融点が不明だが、外壁および出入口の扉──そうは見えないが、スライム達がそうだと言っている──は溶けて変形しているのに、何故中にいたスライムどもが全員無事なのか。

 ミステリーサークルやフェアリーリングより不思議である。


 まあ、現代日本に手のひらサイズからタブレットサイズのスライム達が、計五体存在している事がまずおかしい。

 いっそ夢だと思いたい。こいつやたら食うんだよ。

 飲み物は井戸水で良いからまだマシだが、ものすごい雑食で、普通は食えない発泡スチロールやビニール包装も、そのまま食べて消化する。

 1体で1日バケツ7~8杯の水と、2~3キロ以上の固形物──人間の食べ物はもちろん、その包装やプラスチック・金属・木材、虫や草や土まで、ありとあらゆるものを食べる悪食ぶりだ。

 諦めて食事は庭に生えている雑草と虫のみとした。

 幸い我が家の庭は無駄に広いため、しばらくは問題ないだろうが、一体でももて余していたのに、五体に増えてしまった。

 これはいつまで保つだろか。頭が痛い。というか、これ、俺が養わなくちゃいけないのだろうか。絶対無理だ。

 こいつらから目を離すのは正直恐いが、学校で誰かに相談することにしよう。


「頼むから、しばらく餌はうちの庭の草と虫で我慢してくれ。

 その辺の蛇口をひねれば水が出るから、家の外でならいくら飲んでもかまわない。

 あと絶対敷地内から外に出るな。一応うちの庭は木の柵で囲いがしてあるから」


 家の中の蛇口は水道だから、上下水道代かかるから勘弁な!

 畑は家の敷地の外だから大丈夫だと思いたい。庭は山菜や竹とか樹木とか、たまにキノコが生えているけど、竹と樹木以外は育てているわけではなかったはずだ。


 不安だらけ、もとい不安しかないが、こんなことで学校は休めない。

 昨日、我が家に隕石と一緒にスライムが降ってきたので、今日はお休みします。……嘘臭すぎる。


 ちなみに隕石?はニュースにならなかったようだ。

 これ、人口密度の低い田舎だからだろうか。それとも結局どこにも通報しなかった&されなかったからだろうか。


「敵襲! 怪しい生物を発見! 総員構え!!」


 イケメン主人公っぽい声でタブレットサイズの赤スライムが叫び、他のスライム達を庇うようにピョンと飛び跳ね、前?に出た。


「!?」


 謎言語を唱え、ピカッと目映く光る赤スライム。

 嫌な予感がする。そう思った俺の目の前で、赤い炎の玉が現れた。あれ、たぶんファイアボールってやつだよな。

 っておい!!


 燃え上がる草むらに、慌ててホースで井戸水をかけた。


「なんと!?」


「詠唱もなしにあのような魔術を……!」


「いえ、魔力の集まりも術の発動もありませんでした。信じられないことに、あれは魔術ではありません!」


 イケボやナイスミドルな渋い声、妖艶な女性のような声が聞こえる。見た目はプルプル震えるスライムだが。

 順に赤、紫、緑である。サイズ順には大きい方から赤、紫、緑、白、青。こいつらも青いのと同じ食事量なのかね。


「庭で火を使うな!」


 火の消えた草むらには、焦げたトカゲの死骸が転がっていた。南無。すまん、成仏してくれ。


「トカゲや蜘蛛はなるべく殺さないでくれ。こいつらはうちの庭の虫どもを食べて増えるのを抑えてくれるんだ」


 スライム達とは多少食い物が被るので、敵対生物とみなされているのかもしれないが。


「オレは火魔法しか使えないというのに……!」


「体当たりするしかないわね、図体だけは大きい役立たずのアンガルク」


「うるさい、ミナファース! お前は風魔法しか使えないくせに!!」


 とすると、紫が使うのは火と水だろうか。


「喧嘩はやめないか、見苦しい。……失礼、貴殿はこちらの原住民の方か?」


 丁寧口調でいきなり無礼発言! 原住民ってなんだ。こいつら俺に対して地味に上から目線でムカつくな。


「ここは俺の家の庭だ」


 より正確に言えば、父ちゃんの家の庭だが、家計を等しくする同じ屋根の下で暮らす家族なのだ。間違いではない。


「なんだと!? 王宮より広くて巨大ではないか!!」


 イケボがうるさい。お前らのサイズじゃ、そんなに大きくなくても問題ないだろ。

 しかし、その身体でどうやって王宮なんぞ造れるんだ? その自称宇宙船もだが。

 どう見ても手も足もないしな、スライムだし。


 そんなことよりどうしようか。とても目が離せない。これでは学校どころではない。下手すると登校中に家や庭が燃えていそうだ。

 クソッ、話の通じない宇宙人どもめ。おっと、こいつら宇宙人だった。しかもまだ一度もまともに会話してない。


 自称王子の話の通じなさに辟易していたが、もしかしたらこいつらは違うかもしれない、特に紫。赤はダメそうだ。こんなところで突然火を放つ辺り、確実に頭が悪い。バカとの会話は時間の浪費だ。


「お前達は我が家の敷地内に不法侵入している。しかも、昨日・今日と二日連続で火事になるかもしれない所業をやらかしているわけだ。

 まあ、少なくとも昨日はアルなんたら号とやらの墜落事故が原因で、故意にやったわけではないようだから、その件についてはおいておくとして、だな。

 昨日から聞きたかったんだが、お前ら何故ここに来た? 全て話を聞いたわけではないが、五十億光年先の星から宇宙船でこの地球まで来たんだろう? 何が目的だ」


「本来の目的は、殿下の遊学のため、ですな。しかし、正直に申し上げると、目的地はここではない。国交のある八億光年先の星へ向かうはずだったのです」


「なんらかのトラブルで、不時着したということか?」


 思わず顔をしかめた。連中が乗って来た宇宙船とやらは、あの変形し熱で溶けた謎の金属塊だ。あれを直して目的地、または故郷へ戻れるのだろうか。


「そういうわけですな。予備の部品があるので、壊れた部品などを交換・修理すれば、船内システムの回復は支障ないはずです。時間はかかりますが」


 それを聞いて、ホッとした。交換・修理に多少の時間が掛かるのは仕方ない。こいつら五体しかいない上、少なくとも二体は確実に役に立ちそうにないからな。


「しかし、問題は船の主動力です。こちらはちょっと専門の技術者がいないと無理そうですな」


「専門の、技術者……?」


 ザッと血の気が引いた。謎金属で作られた、謎のシステムと動力で動いている宇宙船。そんなものを修理できる技術者なんて、どこにいるんだ!?


「副動力は後で確認予定ですが、おそらく問題ないでしょう。今回の不時着の原因は、そもそも主動力の不具合が原因ですからな。それについては、故郷と目的地の友好国に状況報告および救助要請を送ったので、早ければ三年後には、救援が来るでしょうな」


「……三年、後……?」


 天国のじいちゃん、大変です。ちょっとおかしな事を言うスライム?らしき不定形生物が五体、我が家の庭に不時着しました。救援が来るまで、早くて三年は滞在するんだってさ。……ガッデム!


「……なぁ」


 怒りで煮えたぎるってこんな気分なのかな、ハハハ、初めて経験したよ。胃がムカムカするね!


「ここ、日本という国には、『働かざる者食うべからず』という言葉があるんだ。お前ら一体、何ができる? 俺と俺の家族にとって利になるような事だ。無駄飯食らいの役立たずに食わせる飯は、この世にない!」


「ふむ、困りましたな。我々は翻訳魔法が使えるので、簡単な通訳または翻訳といった仕事はできなくもありませんが、そもそもこの星と交流していない理由は、我々の文化・種族・倫理観といったものが違いすぎること、過去にこちらの原住民と遭遇した際は、一方的に虐殺されたそうですからな。

 そのような事を鑑みると、他者との接触が多くなる事は避けた方がよろしいでしょう。幸い貴殿は会話のできる御仁であるようですから、そちらの需要に合う対価があれば、食料などの支援、あるいは対価に見合う要望を聞いていただけるという事ですかな?」


「俺は未成年で被保護者だから、最終的には俺の両親の了承がいるが、問題ないと判断すれば、口添えするし、場合によっては協力しても良い」


 だから早く出て行ってくれ。


「あ、待てよ。その、翻訳魔法ってやつ、俺が使ったり、俺にかける事はできるのか?」


「貴殿に魔力の欠片もないようなので、どちらも無理ですな。魔力のない者へ魔法をかけると、高確率で魔力による体調不良を引き起こし、最悪寝たきりになるという症例があります。

 さすがに翻訳魔法は命と引き替えにしてまで使用する価値のある魔法ではありませんからな」


 命と引き替えにしてまで、英語のテスト向上企んだりしねぇよ! ねえよ!!


「青いのは水魔法、赤いのは火魔法、緑のは風魔法が使えるんだよな? 紫のあんたはどんな魔法を使うんだ?」


「光・闇を除く全属性ですな。水・火・風・地・無属性魔法を使えます。こう見えても、王国一の大魔導師と呼ばれております。

 今回、殿下の教師および護衛役の他、船の操縦・保守管理者として、乗船したのです。主動力の問題さえなければ、本来そう難しい旅でもありませんでしたから」


 スライムなので表情はないが、人間だったらどや顔してそうだ。たぶん有能なんだろうが、ウザい。


「言っておくけど、日本国内に外敵なんかいないから、攻撃魔法なんかいくら使えても無駄だぞ。百害あって一利なしだ。

 その翻訳魔法って、文字にも適用されるのか? だったら、インターネットを利用すれば、人と顔を合わせなくても仕事ができると思うぞ」


「『インターネット』、ですか? それはいかような代物でしょう」


 毎日何気なく使ってるけど、改めて聞かれると困るな。見ればわかる、とは思うんだが。


「そうだな、それを使えば、タイミングと機会さえあれば、この世界の全ての人に情報を発信したり、特定の人と情報交換できるツール、かな。

 昨日、王子とやらに壊されたスマホ、小型の通信端末とか、娯楽のための通信機能もある機械、そこの赤いやつくらいの大きさの板状の機械や、それら全て合わせたより高性能で使い方によっては何でもできるパソコンっていう自由度の高い機械とかでも、インターネットを経由することで繋がることができる。

 説明すればするほどややこしくなるから、実際見た方が早いだろう。でも、絶対魔法は使うなよ。どれも地味に高いんだ。金持ちならいくらでも買えるかもしれないけどな」


「ほほう。それは興味深いですな」


 ちなみに青いのに破壊されたスマホは、くの字に変形していて無理矢理蓋をこじ開けたら、電池が浮いた状態になっていた。そりゃ電源切れるよな! じゃなくて、そこまで衝撃受けて変形してるなら、他も色々アウトだろうが。しかも水。死ねば良いのに。


 それより。良く見るとこいつら、ちょっと汚れているな。


「あ、その前に、水浴びしろ。そのまま家に入られると、家の中が汚れる。ちょっと待ってろ。今、たらいを持ってくる」


 そう言い置いて、家へと戻った。


「あら、マサ君。まだいたの? もう十時過ぎてるけど、学校平気なの?」


 ガッッデム!!! 不定形生物どものせいだ!! 畜生!!


「……母ちゃん、スライムが更に増えた。あの青いのと一緒に落ちて来たらしい。でも、あいつら放置すると何やらかすかわからないから、今日は学校休むって連絡してくれ」


「空からスライムが降って来たので、今日はお休みしますって言えば良いの?」


「それ、絶対信じてもらえないだろ。風邪か腹痛で休むって言っておいてくれ」


「わかったわ、マサ君。お腹壊してトイレから出られないので学校行けませんって言っておくわね!」


「やめろ! 言い方ってものがあるだろ!? 母ちゃんっっ!!」


 頼むから勘弁してくれ。

「スライム王子が襲来しました」の続編です。

後書きかこうと思ったら、内容がないので、書きにくいという事が判明。

不定期更新予定です。

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