From my mother
私の家は貧乏だった。
物心ついた時から父はおらず、母はスーパーで朝から晩まで働いている。
学校から帰ってもあたたかいご飯が出たことはなかったけど、それが普通だと思っていた。
学校に行けるだけで十分だった。
幼稚園の頃、ショーウィンドウを見るのが好きだった。
中にあるおもちゃはスターのようで、いつもきらきら輝いている。
そして、自分の手には届かない。
一度だけ、一度だけ母に頼んだ事があった。
友達が持っていたピンク色のくまのぬいぐるみが欲しくて。
「まま、あのガラスのなかのくまちゃんかって!」
私がそう言うと、母は少しびっくりしたあと
「ごめんね、智子」
ととても哀しそうに笑うのだ。
その顔がとてもいやで、もう頼み事はやめようと決めた。
高校生になった私は、夜遊びをするようになった。
朝帰りすることも多く、毎日友人とバカ騒ぎばかり。
ある日、出かける直前母と口論になった。
「なんで夜出かけるの!?危ないじゃない!!」
「うるさいのよ!アンタには関係ない!」
「関係なくないわ。わたしは智子のためを思って」
「私のため?一年中仕事仕事仕事…仕事のことしか考えていないんでしょ」
「違う!」
バシッという音と共に母が叫んだ。目には涙を浮かべていた。
―はじめて…叩かれた…?―
理解した瞬間にカッとなり、目の前が真っ赤になる。
「いた………最悪!母さんなんか死ねばいい!」
放心したような表情で立ち尽くす母を放置したまま家を飛び出した。
はしる・はしる・はしる
「ちょ、トモどーしたのー!」
友人の声も無視して。
はしる・はしる・はしる
近くで車のクラクションが聞こえた気がするが無視。
まだ叩かれた頬が熱い。
いつのまにか公園の前まで来てしまったみたいだ。
周りはもう暗い。
ベンチに座っているといつのまにか寝てしまっていた。
気づけば大分明るくなっている。
公園の時計は午前10時半過ぎを指していた。
学校は今日はサボればいい、めんどくさいし。
母はこの時間は仕事だろうから家に帰ろう…。
ちょっと、言いすぎたかもしれない。
家につくと、電話が鳴っていた。
かかってくることなんて滅多にないから慌てて掴み取る。
「もしもし」
「あ、ともちゃん!ともちゃんなの!?」
相手は母の仕事先の人だ。声が焦っている。
「はい、智子ですけど…なんでしょう?」
「それがさっきともちゃんのお母さんが倒れて…!!」
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
享年、42歳。死因、過労死。
倒れてから母は一回も目を覚まさなかった。
あまりにも呆気なさすぎて、涙はでなかった。
葬式はお金もなく、来る人もいないからしないらしい。
冷たく布団に横たわる母の顔には、クマができていてひどくやつれていた。
最期に一言でいいから謝りたかった。
伝えるすべは、もうないけれど。
数日後、私は親戚の叔母さんちで暮らすことになった。
着々と引越し準備を進めていく。
誰もいないこの家に未練はない。
あとは押入れだけ。ほこりっぽいなー。
片付けていくと見たことのない箱があった。割と大きくて、煤がついている。
(なにこれ、箱なんてあったっけ?)
そう思いながら開けるとぼろぼろの何かが入っていた。これは…。
「くまの…ぬい、ぐるみ…?」
中に入っていたのはツギハギだらけのぬいぐるみだった。
縫い目から綿がでてたり、目のボタンがのいていたりひどい出来で、手作りでもさすがに下手くそ。
でも考えるより先に涙がこぼれた、このぬいぐるみを作ったのは紛れも無くおかあさんなのだろうから。
「おかっ…さん…ごめん、ごめ、んなさい、おかあさん…」
仕事で疲れているのに自分のために縫ってくれている姿が目に浮かぶ。
あのショーウィンドウに飾られていたのとは程遠いけど、世界一心がこもっている。
ありがとうおかあさん、一生大事にするよ。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「あっお邪魔しまーす!」
「はいどうぞー」
「わあ、智子先輩の家ってやっぱ綺麗なんですね~」
「褒めてもお茶ぐらいしか出さないわよー?(笑)」
「いやいや~家具とかもお洒落だしー…あれ、このぬいぐるみは?」
「これ?ふふふ、かわいいでしょ。おかあさんの手作りなの」
お題「ショーウィンドウ」を使わせていただきました。
メインが別になっちゃったけど…。




