8.ファーストキス
8.ファーストキス
それにしても、妙にリアルな夢だった。 夢に細かい設定などは有り得ないのだろうが、僕のあの姿はどう見ても40歳前後だった。 結婚20年と言うと…。 僕は計算してみた。 二十歳かそこらで結婚したことになる。
「マジか!」 僕は思わず声をあげた。 前田がチョークを手にして再び僕を睨みつけた。
その日の放課後、校門を出たところで優希が待っていた。
「よう! 久しぶりだな」 優希はそう言って、僕の肩を叩いた。
「久しぶりって、今朝も会ったじゃないか…」
「今朝? 会ったっけ?」
「あれっ? 会わなかったっけ…。 そうだ! あれは夢だった」 そう言って、僕は『しまった』と思った。 案の定、優希は僕の顔を覗き込んでこう言った。
「夢って何だ?」
「いや、何でもない」
「何でもないことはないだろう? 教えろよ。 私と片桐の仲なんだから書く仕事なんかするなよ」
「僕と優希の仲って、どんな仲だよ」
「なーんだ。 今更それを言わせるのか? ってことは、片桐はそう思ってないんだな」
「だから、何なんだよ」
「ちぇっ! 片桐って意外と鈍いんだな」 優希はそう言うと、僕の腕を掴んだ。
「ちょっと来いよ」 そう言って、走り出した。
しばらく走って優希は立ち止った。
「ここ覚えてるか?」
そこは僕と優希が初めて出会った場所だった。 遅刻しそうな優希が無理やり僕の自転車に乗って来た。
「あの時、どうして片桐の自転車に乗ったと思う?」
「そりゃあ、遅刻しそうだったからだろう?」
「学級委員長をやってる割には頭悪いな! ここからだったら、わざわざ自転車を止めて乗せて貰わなくたって何とか間に合ったさ。 自転車に乗っていたのが片桐だったから止めたんだ」
僕は優希が何を言いたいのかよく分からなかった。優希が言ったことを思い浮かべながら考えてみた。
「なんで…」
僕は優希に聞き返そうとしたけれど、声を出すことが出来なくなった。 優希の口が僕の口をふさいでいたからだ。
ベンチで隣に座っている優希がとても女の子っぽく感じられた。
女の子であることには違いないのだが、ボーイッシュな外見と男勝りの性格、そんな優希を女の子だと意識した事はなかった。 いや、一度だけあったか…。
優希が自転車を返しに来て泊った時。
それからというものは忙しくて、そんなことを考える暇もなかった。
「驚いたなぁ」
「なにが?」
「キス。僕にとってはファーストキスなんだ」
「違うよ。 少なくても二度目だ」
「なんで優希がそんなこと知ってるんだ…」僕はそう言いながら気がついた。
「あっ! もしかしてあの時…」
優希は恥ずかしそうに俯いた。 こんな優希を見るのは初めてだ。