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6.優希の策略

6.優希の策略



 母親の声で目が覚めた。

「遅刻するわよ。 早く起きなさい」

 なんだかすごい筋肉痛と妙な気だるさを感じながらも布団を蹴飛ばしベッドから出た。 制服を着て居間へ降りると、いつもの日常が戻ったような朝食のメニューが並んでいた。

「そうか、おふくろ帰ってきたんだな…」そう思いながら、トーストを1枚くわえてテレビの画面を何気なく眺めた。 『おススメの一店』のコーナーだった。 なんとなく見覚えのある風景。 それは駅前の商店街だった。 リポーターが入って行ったのは優希の父親がはじめた店だった。 そう! 昨日僕と宮部が優希に連れられて手伝わされたあのレストランだった。

 リポーターが優希の父親の経歴を紹介しながら看板メニューのロールキャベツを紹介していた。 ランチタイムを取材したようで、店内はOLやサラリーマンで溢れていた。 僕は思わず、くわえていたトーストを口から落としてむせかえった。

「何してるの? 早く食べちゃいなさい」おふくろの声が耳をかすめるけど、右から左に抜けて行った。 僕はそのままカバンとトーストを2枚掴むと、そのまま家を出た。


 学校に行く途中で宮部に会った。 ボクが口を開く前に宮部が先に切り出した。

「なあ、け、今朝のテレビ、み、見たか?」宮部は興奮して少しどもっている。

「ああ! 驚いたな」

「あいつのオヤジさんってすごいんだな」

「優希はあんまり口にしなかったけど…。 道理で昨日は忙しかったはずだ。 やっぱり知ってるヤツは知ってるんだな」 そう言いながら、僕は昨日の夜のことを思い出していた。


 店が開店すると同時に店内はいっきい満員になった。 既に、行列も出来ている。 僕は優希に連れられて注文を取りに店内を廻った。

「ヒメ、新人のバイトかい?」 常連客らしい中年男性が優希に声をかけた。

「まあ、そんなようなものね」 優希は軽く笑って見せると、次のテーブルへ移動した。

「なあ?ヒメって…」僕が聞いても、優には何も答えずに次々にテーブルを廻る。

「私語は慎め!」 そう言って僕を睨みつけた優希の目を見たとき、僕は優希のことを正真正銘のプロだと感じた。

 注文を取り終わる頃には、」最初の料理が出来上がって来た。 僕はオーダーとテーブルナンバーを確認しながら次から次と料理を運んだ。 汗だくになりながら龍利を運ぶ僕の横をヒトミさんは余裕で倍の料理を持ってスイスイ歩いて行く。

 ヒトミさんというのは、開店間際にTシャツとジーンズ姿でやって来た女性従業員。 彼女はオープン前から研修を受けてこの店にやって来ている、いわばプロのウエイトレスだった。

 こんな調子で、結局閉店まで休める時間はほとんどなかった。 厨房にいた宮部は僕よりずっとキツイ仕事をさせられていた。 第一陣が食事を終えて食器が戻ってくると、ひたすら食器洗い。 手が開いたら、倉庫や冷蔵庫からひたすら食材を運ぶ。

 店が終わった時には二人共ヘトヘトだった。 僕は料理を運ぶのにふだん使い慣れない格好を続けていたため、腕が上がらないほどだった。 腕力には自信のある宮部ですら値を上げるほどだった。

「コックがこんなに体力のいる仕事だったなんて知らなかったなあ」 そう言って宮部が床にへたり込んだ。

「お前らだらしないなあ。 でもまあ、しょうがないか。 だけど本番は明日からだから覚悟しておいてくれよな」 優希はそう言ってニヤリと笑った。


 そう言うことだったのか! 優希は今朝のテレビで店が紹介されることが分かっていたんだ。 なんてこった! 体が持たないぞ…。






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