4.ペントハウスでピクニック
4.ペントハウスでピクニック
4時間目の授業中に胸ポケットに入れてある携帯電話が鳴った。 メールだ。 鳴ったと言ってもマナーモードだから音はしない。 こっそり取り出し確認した。 優希からだった。
『昼休みに屋上に来い。 昼飯一緒に食おうぜ』 昼飯? そう言えば、母親が居ないから、今日は弁当がないんだ。 まさか優希が弁当を作ってきたのかな…。
終了のチャイムが鳴ると、僕は屋上へ行った。
「おーい、こっちだ」 優希の声。 声がした方を見ると、ペントハウスの屋根の上から優希が顔をのぞかせている。 ボクは脇にあるタラップを登ってペントハウスの屋根に出た。 レジャーシートを敷いて優希が座っていた。
「待ちくたびれたぞ。 早く食おうぜ」 優希が紙袋から重箱の弁当と水筒を出した。
「いつの間に? それにこのシート…」 ボクもチャイムが鳴って速攻で上がってきたというのに、シートまで敷いて待っているなんて、もしかして4時間目をさぼったのか…。
「細かいことは気にするな。 ちっちゃい男はモテないぞ」 そう言って優希は重箱を広げた。
今日は風もなく、いい天気だ。 ピクニックにはもってこいだな。 僕はそう思った。 優希の料理の腕前は昨日の夕食と今朝の朝食で実証されている。 重箱に入った弁当のおかずはどれも絶品だった。
「それじゃあ、そろそろ本題に移るか」 優希が言った。
「本題?」
「ああ、昨日の続きだ。 色々聞きたいことがあるんだろう? 昨日はすぐに寝ちまったからなあ」 そうだ! そうだった。 昨日は結局名前しか聞けなかった。
「よし、じゃあ、最初に教えてくれ! 昨夜、君は僕と一緒に寝たのかい?」
「そうさ。 居間のソファじゃ寂しいじゃないか」
「それで、その… その時、僕は君に何かしたのか?」 ボクがそう聞くと優希はクスクスと笑いだした。
「男と女が一つの布団で寝たんだ。 することは一つしかないだろう」 ボクは一瞬で血の気が引いた。
「そ、それはつまり、セ、セ、セ…」 僕がその先の言葉を言えないでいると優希が代わりに答えた。
「バカだなあ! セックスなんかするわけないだろう」
「えっ?」 僕はちょっと拍子抜けした。
「お前、案外スケベなんだな。 健全な高校生がやることといったら添い寝に決まっているだろう」 優希はそう言うと、笑いながら、僕の頭を軽くはたいた。
「添い寝?」
「なんだ、がっかりしたか? どっちにしても覚えてないんだから、もったいないことをしたって言ったんだ」 僕はしばらく呆然としていたが、すぐに気を取り戻した。 まあ、残念だったと言えば残念だったが、安心した。
「じゃあ、次の質問だ。 僕の自転車でどこへ行ったんだ?」 これは結構気になる。
「病院。 オヤジが入院してるんだ。 おふくろは二年前死んじゃったから私が世話しないといけないんだ」 優希の表情が少し暗くなったような気がした。
「そうだったのか、それは大変だなあ。 僕に出来ることがあったら、手伝うから、遠慮なく言ってくれよ」 優希のことが少しかわいそうになって思わずそう言った。 その瞬間、一瞬だけ優希の顔に悪魔のような笑みが浮かんだような気がした…。
「そうか! じゃあ、遠慮なく手伝ってもらうぞ。 放課後、ウチに来てくれ。 ってか、一緒に帰ろうぜ」 そう言うと優希はさっさとペントハウスから降りて行った
「後片づけよろしくな」