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1.転校生の彼女

1.転校生の彼女



自然に目が覚めた。 目ざまし時計が鳴る前に。 こんなことは初めてだ。 なんだか今日は気分がいい。 改めて時間を確認する。 1時45分…。

「い、1時? やばい! 止まってる」

 目ざまし時計が止まっている。 携帯を手に取り時間を確認する。 8時10分。 僕は布団を蹴飛ばし、慌てて制服を着る。 部屋を出て階段を駆け下りた。

「なんで、起こしてくれないんだよ…」 母親に文句を言ったが反応がない。 そうだった。 母親は町会の婦人部の旅行で昨日から居ないんだった。 そんな時に、頼りの目ざましが止まってしまうなんて…。


 学校までは普通に歩いて20分ほど。 本当は自転車通学は認められていないけど、背に腹は代えられない。 今からすっ飛ばしていけば何とか間に合うかもしれない。

 カバンを前のかごに放り込んでペダルをこぐ。 うまい具合に信号にも引っかからなかった。 この分ならどうやら間に合いそうだ。

 もう少しで学校に着くというところで、必死で走っている女子生徒を見つけた。

「あれっ、あの子は…」 たしか、最近、隣のクラスに転校してきた子だ。 結構、可愛いとボクのクラスでも評判になっている子だ。

「かわいそうに。 転校早々遅刻かよ」 もう少し時間に余裕があれば後ろに乗せてあげてもいいと思ったけど、ここでスピードを落としたらボクもやばくなる。 ここはスルーだ。 後ろ髪をひかれる思いで彼女の横を通り過ぎた…。

 その瞬間、何かが自転車を引っ張るように急にペダルが重くなった。 僕はバランスを崩して片足をついた。 後ろからかごの中にもう一つカバンが放り込まれた。 振り向くと、彼女が荷台に腰掛けている。 その両手が僕の腰に回されると彼女が叫んだ。

「早くしろ! 遅刻するぞ」

 何が何だか分からないまま、僕は必死でペダルをこいだ。 学校の正門が見えてきた。 今にも門が締められようとしているところだった。 僕は気合を入れてペダルをふんで加速し、正門をすり抜けた。 間一髪セーフ! 彼女は自転車を飛び降りると、一目散に校舎へ駆け込んだ。

「おい、宮本! 自転車通学は禁止だぞ。 しかも二人乗りなんてもってのほかだ。 ちょっと職員室まで来てもらおうか」

 そして、僕は生活指導の杉田に首根っこを掴まれて職員室へ連れて行かれた。

「あ、あのう…。 遅刻ではないですよね?」 僕は杉田に恐る恐る聞いてみた。

「アウト!」杉田は右手を高々と突き上げて叫んだ。

「そ、そんなー…」


 あの転校生のおかげで、今日は散々な1日だった。 元をたどれば目ざまし時計が止まっていたのがそもそもの原因なんだけど。

 下校時間になったので、職員室に自転車の鍵を取りに行った。 乗らずに押して帰ることを条件に自転車を返してもらった。 自転車を押して校門を出ると、女子生徒が一人、僕を待っていた。 彼女だ。

「朝はありがとうな。 おかげで遅刻せずにすんだよ」 改めて彼女の顔を見ると、評判通り可愛い顔をしている。 だけど、男みたいなこの言葉使いはマイナスだな。 そんなことを考えていると、彼女がカバンを僕の自転車のかごに放り込んだ。

「早く乗れよ。 ちょっと寄って帰りたいところがあるんだ。 そこまで乗せて行ってくれ」 彼女はそう言うと、早くも荷台にまたがろうとしている。

「ちょ、ちょっと待てよ。 君のせいで僕がどんな目に遭ったか…」 僕が文句を言い始めると、彼女は乗るのをやめて僕の前に立ちふさがった。 そして、いきなり僕にキスをした。 僕が呆気にとられていると、彼女は僕から自転車を奪い取り、行ってしまった。

 僕は自転車で立ち去る彼女を茫然と見送った。

「あっ! 僕のカバン!」 僕のカバンは自転車のかごに入ったままだ。 僕は慌てて、彼女のあとを追った。


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