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真夏のシンデレラ

作者: 小春ぴより



彼の手の上で小さく光るコサージュ。

そうまさに、

これは現代版のシンデレラだ。

そんなことを冷静に思ったあたしがいた。






真夏のシンデレラ






梅雨が明けて、

夏がまさにこれから本番ですと言わんばかりに暑くなり始める7月半ば。



学校の授業も終わってあと一日で修了式と言う日があたしの誕生日だ。

夏休みに入った後じゃなくて本当に良かったと誕生日がくる度に思う。


朝学校に登校すると、友達が可愛くラッピングしたプレゼントを

「おめでとう!」

と言いながら渡してくれる。

は~・・・やっぱりもつべきものは友達だな・・・。



なんて思いつつ・・・


廊下をそっと眺めると、

今日も隣のクラスの男子が廊下の窓辺によりかかって何やら朝からハイテンションで喋っている。



その中の一人。

ポロシャツにソフトマッチョな体型で、

笑うとゴールデンレトリバーに似ている・・・とあたしは思ってるんだけど、

そんな笑顔がたまらなく好きな緑川君が居る。

正直言って彼はかなりモテる。

あたしと同じことを思ってる子が一体この学校には何人いるのだろうかと本気で聞きたくなるほど彼はモテる。



全開にしてある窓から入ってくる風が緑川君・・・と、その他の男子の髪を揺らす。

彼のファンの女の子から聞いた話だと、

緑川君のお父さんのおじいちゃんがイギリス人で、その遺伝で緑川君の髪の毛は地毛で本当に綺麗な栗色なのだそうだ。

確かに彼の髪は本当に綺麗な栗色だ。

そこがまたとってもあの笑顔に似合うんだけど。



「はぁ~・・・今日も緑川君最高・・・素敵。

 ・・・・とか思ってるんでしょ? カナ?」


冷やかしの声があたしを現実に引き戻す。

パッと緑川君から目線を外せば前の席で、あたしの親友のハルがニヤニヤしながら見ている。


「そぉーですよー。もうすべてが最高。

 ずっと見てたいけど違うクラスだから休み時間の今しか見れないだもん。

 好きに眺めさせてよ。」



あたしは開き直って正直な気持ちをハルに言う。

もしも同じクラスなら授業中にだってずっと眺めていたい。


「まぁ、クラス違うもんね。

 そうそう、カナにプレゼント! はい、これ。」


ポンと小さな可愛い紙袋があたしの机の上に置かれる。

あたしは空けてもいい?

と聞くよりも早くプレゼントを開けにかかる。

そして小さな可愛い紙袋から出てきた物を見て思わず感嘆の声を上げた。



「わぁ!! 凄い可愛い!!」


「でっしょー。これ、サンダルに付けられるコサージュ。

 この前カナ新しいちょっとヒールの高めのサンダル買ったでしょ?

 それに合うかな~と思って。」


「ありがとう。よく覚えてたね。」


「まぁ~ね。だてにカナの親友じゃありませんから。」


ニヒッと笑うハル。

ちょっとそばかすの浮いたチャーミングな顔で笑うハルの笑顔が、

あたしは凄く好きだ。









夏休みに入って半ば。

部活に入ってないあたしは、ダラダラとバイトと家を往復する毎日。

その合間合間に何処か出かけた先で偶然緑川君に会えたらいいな~・・・なんて。

乙女チックなことを想像したり。


大体乙女チックなことって言うけど、

乙女なんだもん。別にいいじゃないとあたしは思う。

乙女街道上等ってもん。


そんな中あたしは大分変わった趣味だねと言われる趣味がある。

それがどんな趣味かと言うと、

特に予定もないけど空港に行って飛行機やそこに居る人達を眺めるというもの。



そして今日も実は一人夜の空港に来ていた。

空港内に流れるアナウンス、

カートを引いて時計と睨めっこしながら急ぎ足で歩いていく人達。

それがイケメンの外人だと凄く絵になる。


この沢山の人が行き交う空港。

色んな予定や目的、思いが沢山交錯して動いていく空港は、

小さな世界を見ているようであたしは大好き。


お気に入りのスポットで、何枚か飛行機の写真や周りの人達の写真を撮り終えた後、

終電少し前の電車に間に合う様にあたしは駅に向かって歩き始めた。

でもその日はたまたま道に迷っている外人に話しかけられて、

色々と道を案内しているうちに完全終電ギリギリになってしまった。



明日も朝からバイトが入っている。

なんとしてでも終電にだけは乗り逃せない・・・・・

この前買ったばかりのヒールの高いサンダルで、あたしは懸命に駅への道を駆け抜ける。



エスカレーター前にいる人ごみを掻き分ける。

あと一つこのエスカレーターを下れば駅だ・・・・

そう思った時サンダルが掻き分けた人ごみの中のカートに引っかかった。


「ひやっ・・・」


一瞬ドキリとしながらもなんとか体勢を整えてまた走り出す。

本当に申し訳ないと思いながらも走りながら謝る。

「ちょっと君!!!」

そんな風に呼ばれた気もしたけど立ち止まる余裕もなくあたしは走り抜けた。









2学期。

あたしは登校するなり親友のハルに深々と頭を下げて謝っていた。


「ほんっっとうにごめん!!!」


「だから別にいいってば、そんなに謝らなくても。

 むしろこんなに謝ってくれるほど大事にしててくれたことが嬉しいし。」


「ごめん・・・・気づいたら片方取れてて・・・・。」


夏休みに空港へ行ったあの日。

あたしは慌てるあまり何処かでサンダルにつけるコサージュを無くしてしまっていた。

気づいた時には後の祭りで、泣く泣くハルに謝っていると言う展開。


「まぁ気にしないで! その代わり今度アイスでも奢ってよ!」


屈託なく笑うハル。

サバサバとした性格の彼女はやっぱり素敵だ。





2学期を始める始業式。

校長先生の意味もなく長い話に耐えて、

まだまだ蒸し暑さが残る9月1日。

夕方からバイトがあるから早く帰ろうと思っているあたしに、

急に後ろからまさかと思う人が声を掛けてきた。


「小椿カナさん?」


驚いて振り向けば、

そこには間違いなく緑川君が立っていた。

少し日に焼けた顔が夏休みに入る前とまた印象を少し変えていて胸が大きく鳴る。


「・・は、い。」


緊張のあまりあたしは声が思わず掠れた。

憧れの、廊下にいるのを見ることしか出来ない緑川君が、あたしに話しかけてる。


「あのさ、もし違ったら本当に申し訳ないんだけどさ、これ・・・・

もしかして小椿さんのかなと思って・・・・。」


パッと差し出された手の中。

そこには、


「これ・・・・。どうして?」



彼の大きな手の平の上には、

空港で失くしたと思っていたサンダルにつけるコサージュが乗っていた。



「やっぱり小椿さんのだったんだ。

 良かった、人違いだったらどうしようと思ってたんだけど、

 実はあの時エレベーター前でぶつかったの俺なんだよね。

 イギリスのおじいちゃんの家から帰ってきた所でさ、

 俺のカートにぶつかって慌てて走っていく姿が小椿さんにそっくりだったから。

 すぐに俺も追いかけたんだけど、見失っちゃって。

 あの時怪我とかしなかった??」


出かけた先で偶然に緑川君に会えたらどうしよう・・・

そんな乙女街道まっしぐらなことを考えていて、実際本当に会っていたのだ。

そしてただ憧れて眺めているだけの緑川君に名前を知っててもらえた・・・・

そう知った途端思考回路は完全にパニックに陥って、

あたしはもごもごと口の中で適当な返事をする。


「あ、うん・・・・。ありがとう、わざわざ届けてくれて。」



「いえいえ。なんだか凄く大切にしてた物みたいだから。

 本人に返せて良かったよ。」



何でそれを・・・

そう思ったのが伝わったのか、緑川君は少し悪戯っぽい笑みを浮かべて、


「だって今日の朝廊下で水島さんに泣きそうになりながら謝ってたじゃん?

 それ見てやっぱり小椿さんのだって確信したんだよね。

 はい、じゃあ次は失くさないようにね。」

 

差し出されたコサージュ。

必死に手が震えないようにしながら、あたしはそっと手を差し出した。

ふわりと手の上に乗るコサージュ。

コサージュの裏についてる金具がやけに冷たく感じる。



「・・・ありがとう。」



今度はしかりと、彼の目を見てお礼を言う。

「どういたしまして。」

穏やかに響く優しい声で返す緑川君。

はっきりと近くで彼の目を見つめると、目の色も日本人より少し薄い茶色をしていた。



「じゃあ、俺部活行くから。また明日ね。」



「あ、うん。また明日・・・・」




また明日・・・・

それって、明日もあったら挨拶とか、してもいいってことなのかな?



手の平の上で光るコサージュ。

湿気をまだまだ多く含んだ風が開いた昇降口から吹き込んでくる。

真夏のシンデレラになったみたいだ。


そんな風に思ったって、いいじゃないか。

にまける顔を隠すため、俯きながらあたしは小さく思った。








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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章構成、というのでしょうか。会話ばかりでもなく、ときおり絶妙なタイミングで文章があったのがよかッたです☆
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