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6話

「ほう、それで我を呼んだのですか」

「ああ、ここから先は何が出てくるかは分からない空間だからな。それこそ、君のような配下を扱うのは当然の事だろう」

「ふむふむ……とても理にはかなっております。なにせ、敵は天使ともなれば恐れるのは魔を統べる者として当然の事でしょう。ですが、この私に天使を倒させるだけとは笑えぬ冗談ですねぇ」


 なるほどなるほど……これは確かに傲慢か。

 悪魔が人の欲を越えられるだけの力を持っていないとは言わない。それでも自信に違わないだけの力を永遠と見せられるかは分かりはしないな。特に今いる空間内で雑多な事を言っていられる根性は先に叩き潰しておくべきだ。


「我はアドラメレクという堕天使とも呼べる力を持つ存在の強さを見たいんだよ。すまないな、本来の力を発揮出来ないままで命令をするとは王失格だ」

「……そのような事は些事たる事。我は主のため足り得るならば何とでも致しましょう。それが憎き天使を滅ぼす事となればこそ」

「分かってはいるが……油断はするなよ」

「ええ、我に油断は有り得ません」


 ここまで言わせれば後はどうでもいい話だ。

 天使がどうこうという情報は与えた。これでも倒せないようなら相性の差をより理解出来るだけ。少なくとも今の俺ならどうにか……と、考えるのも甘えているのかもしれない。だが、他に出来そうな事といえばスキルの活用くらいだ。


 ただ、それは個人的には後回しにしたい。

 防具に関しては何も無いが得物はかなりのもの、ましてや、アドラメレクという最高峰の悪魔が配下にいて易々と負けられるとは思えない。それにナヴィから勝てるという見込みを与えられた以上は足踏みこそ、資源の浪費にしかならないだろう。


「して、私は貴方様を何とお呼びすれば良いのでしょうか」

「俺の事はジョーカー、普段はジョーとでも呼んでくれればいい。長い名前なんて呼びにくいだけだからな」

「では、私の事はアドラとお呼びください。普段なら兎も角として戦闘時にアドラメレク等と呼ばれては時間の無駄、配下如き略して問題等は無いでしょう」


 アドラの言葉に首肯で返しておく。

 文面だけなら分かってはいたが……本当に俺の命令には忠実に従うらしい。有能な存在が命令に背かないなんて十分過ぎる。部下を持って一番に困る事は無能が出しゃばり、有能が離れていく環境だからな。


 ボス部屋の扉を無理やり押し込んでいく。

 重いが……押し切れない程ではないか。ただ、中に入ってすぐに悪寒がした。何も無い、だだっ広い空間だというのに、視界に入った瞬間に心の底から嫌な予感がしてしまう。それはアドラも同じようで少しだけ表情を歪めている。


「我が名はエンジェル。神の死者なり」

「へぇ……異様な見た目だ」


 見た目は大きな裸体の美しい女性でしかない。

 だが、その目は縫われており、一つの羽衣のみで浮いている。ましてや、その体躯は軽く見積って二メートルは容易に超えていた。一体だけだというのに周囲に漂う威圧は魔物とは比べ物にはならない。


「醜悪、醜態……故にエンジェルなのでしょう」

「……我が神を侮辱したか」

「侮辱、と捉えるならばそれで良し。だが、この程度で侮辱とは随分と神とやらは器が小さいらしい」


 その言葉に反応しての事だろう。

 アドラが反対側の扉へと叩き付けられる。一瞬での詰め、その速度だけなら俺でも対応出来た辺りからして、ワザとなのだろう。もっと言えばアドラはアドラで既に攻撃の準備を整えていたみたいだ。


炎獄アグニ

「悪魔が神の焔を……不届き者が!」


 エンジェルを囲うように無数の炎が向かう。

 それらを発光で抑えたかと思うと再度、その距離を一気に詰めた。俺の事なんて気にかけていないような動きからして……アドラはアドラで注意を引くように戦っているのだろう。だって、俺から離れた瞬間に次の一手を即座に切り出している。


 ただただ、敵を焼き尽くすだけの炎を容易に、それでいて無数に周囲へ放った。そのような捉え方をしてしまうのは魔法に対しての知見を少しも持ち合わせてはいないからなのだろう。何故なら俺はアドラが使った魔法も、エンジェルが防いだ力も知識として理解していない。


【今のは天使の声と呼ばれる最下級の技です。種族が悪魔である相手からの攻撃を一度のみ、防ぐというものではありますが】


 なるほど、普通であれば連発は出来ない、と。

 単体攻撃を止める技でアグニと呼ばれる技自体を消し去ってしまった。アドラの攻撃が幾重にも重ねた攻撃でもあった点からして、本来なら防ぐのも不可能なのだろう。となれば、ナヴィが間違っていると考えるのが妥当だが……まぁ、仮にそうだとすればアドラの表情が美しいままな訳が無い。


「さすがは天使、この程度ならば防ぎますか」


 アドラへの返答は機械音に近しい何かだった。

 同時に行われたのは無数の光による攻撃、それらがアドラに当たるの同時に燃え尽きていく。何も対策をしていない、というのも、大悪魔からして出来はしない選択らしい。いいや、ただのメッセンジャーでしかないはずの天使がアドラと戦えているだけでおかしな話か。


 名前の通り、エンジェルなのであれば与えられている役目はメッセンジャーでしかない。その強さすらも最下級だろうに……天使でこれなら大天使を超える相手をどうやって対処しろというのだろうか。いいや、見ているだけで速度も魔法の練度もアドラを優に超えている。


【天使族は悪魔を相手にする場合、全ステータスを三倍まで補正します。身に纏っている天の羽衣もステータスに補正をかけている点から、現状で一万二千程度と予想されます】


 つまりは、安く見積もっても四千程度。

 仮にアドラが為す術なく負けたとして、俺が入るとなれば勝てるのだろうか。アドラとエンジェルのステータス差は千ちょっとの時点で……本来なら大きな壁があるという事だろう。相性があるとしても今の俺の二倍程度のステータス差がある敵というのは恐ろしさすら感じる。


 一緒に戦う……は、恐ろしさが勝るか。

 ナヴィの言葉を信じるのなら俺相手ならば効果は発動しないという事だ。種族まではステータスに出てはいないにしても……鏡に映った俺は間違いなく一人の少年だった。仮に俺が人族だとすればアドラと共に戦った時に相手のステータスの挙動はどうなってしまう。


 俺の時は下がって、アドラの時は上がるのか。

 それなら共に戦うのは悪くない手だろう。でも、アドラの全体攻撃は今の俺には凌ぐ手段は無いし、挙動がアドラの強化を展開するだけとなれば俺は足手まとい以上の邪魔者にしかならない。


【天使の特性による強化状態が引き継がれる、が正解です。例え、百人いたとしても一人でも悪魔が含まれているのであれば強化が反映されます】


 なら、さっさと回収してやらないとな。

 一応、戦えてはいるが……今も徐々に徐々に追い詰められている。ハッキリ言って、天使の声とかいうチート技やステータス負けが起こっている時点で勝ち目を期待してやれる程の優しさは残っていない。俺の配下の時点で容易に殺させる気だって無いからね。


「さて、選手交代だ」


 本当に耳障りな機械音だな、気色悪い。

 ただ、アドラを回収しただけだというのに逃げられたのがそんなに腹の立つ事なのか。まぁ、これ以上は面倒な声を聞くだけだから、さっさと目の前の敵を倒す事に専念しないといけないな。問題はアドラの様子だけでは勝ち目なんて見い出せなかった事くらいか。


【黒魔法による強化と白魔法による常時回復効果を付与しております。くれぐれも死なないように戦って頂けますと幸いです】


 へーへー、行ってらっしゃいは言わないか。

 まぁ、死地に向かうのに縁起が悪いもんな。それに危なくなれば嫁から助けて貰えると思えば、かなり気持ちも楽になってきた。恐怖がどうこうの前に超えなければいけない敵だ。どうせ、一度は死んだ身、とはいえ、二度目は御免被りたいものだからね。


「じゃあ、殺し合おうか」

「不徳! 滅ぶが良い! 不遜なる者よ!」


 その声と共に無数の光の矢が作り出された。

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