5話
とりあえず説明書を読み込んでおいた。
それで分かった事だが、まず中の電気とかは室内にいる人達が寝ている間に魔力を吸って、起きている時に使われるみたいだ。消費の時も少ないから一人で暮らしていても気付かないくらいの魔力量でいいみたい。……ナヴィの言った通りだな。
そして二階に風呂があるらしい。
そもそもダイニングとかの電気を付ける場所が壁にあったみたいだ。確かに、そこを確認してみたら分かったけどボタンが一つ多いんだよね。つまり、ここを押してみると……。
階段を上ってすぐの通路の横に扉が出来た。
中は風呂というよりは銭湯に近いかな。たくさんの人が着替えられそうな空間と鏡の張られた壁、そして髪を乾かす空間……その奥には横開きの扉がある。中を見たけど正しく銭湯っていう感じだね。しっかりと男湯と女湯で分けられているし。まぁ、使うためには火と水の魔石が一つずつボタンの下に入れる必要があるらしいけど。
【それでは私も一緒に混浴を】
「いや、水代が勿体無いからいいわ」
【ううん……いけずです】
ま、まぁ、一人の時はシャワー室でいいか。
説明書が正しいのなら冷蔵庫の中とか、風呂場のお湯とかも生活魔法がかけられているらしくて腐ったり汚くなったりとかしないらしいし。ボタンを押して扉とかを隠すのも使わない間の魔力消費を極力、減らすためらしいからな。ここで湯を張ったら微小とはいえ無駄な魔力を使う事になる。そういう事がちょっと気になるんだよね。もしかしたら俺はA型なのかもしれない。
【いえ、マスターはO型です】
「血液型で人の性格を決めるなんて、ね」
【なるほど、それはOh! no! です】
なんだ……この愉快な相方は……。
はぁ、疲れはするが……見ていて飽きないな。本音を言えば頭では整理出来ない程の情報が一気に駆け巡って来たんだ。いいや、ここに来てようやく今いる状態を再理解したってところか。
「……ナヴィ、弱音を言ってもいいかな」
【駄目です。今はそういう雰囲気ではありません】
「はぁ……帰ってきてすぐの旦那にそれを言うか」
こっちがマトモにいたらボケる癖にさ。
ただ……多分だけどナヴィが返している素振りは、俺が今まで関わって来た人達を真似しているだけなんだろう。切り替え方からして考えてからどうこうというには間が無さすぎる。まるで俺の知り合いをトレースさせたAIを相手にしているみたいだ。
【お帰りなさい、マスター。今日は】
「ナヴィを食べたい」
【……そういうのは恥じらいを持つべきです】
なら、その相手を本気で打ち崩してみせよう。
何に対してもそうだけど、興味を持てない事に価値を見出すなんて不可能だ。仮にコンピュータが相手なら人にすればいいだけの事、自我を持たないAIは果たして人とは呼べないか……哲学的だけど面白い議題だな。
「あー……さすがに何か食べるか」
【今あるのはブラックウルフの肉、それと一階層の魔物の肉です。冷蔵庫内にも食材はありますが白滝はありませんね】
な……どうして、俺の大好物を知って……。
いやいや、俺の嫁なら知っていてもおかしくはないか。コンニャクは臭くて食べにくいが、しらたきは別だ。あんなにも安価で、低カロリーでよく出来たものは他には知らない。ただ、無いのなら……はぁ、他の物で腹を満たすしかないか。
「オススメは何」
【まずは異世界の食材の味を知るべきだと思います。その上で一階層の魔物の肉を焼いて食べるのはどうでしょうか】
なるほど……いや、確かにその通りか。
今の俺がどうこうというのは抜きにしてもカロリーを気にするのは馬鹿だ。それに育ち盛りの俺に栄養を与えないのも駄目か。……異世界となれば他の要素があってもおかしくは無い。それこそ、魔物の肉を食べる事によってステータスが上がるとかか。
【その勘の鋭さには驚かされるばかりです】
「なら……天使は階層ボスか?」
【……何故、と聞いても宜しいですか】
「何となく……まぁ、悪魔がいるような世界の中で魔王が現れる世界だ。それにここは魔王を育てるためのダンジョンなのだろう。その魔王を簡単に生かすとは到底、思えない」
魔王というだけで大層なものだろう。
それを加味すれば普通の事だ。勇者が唐突に現れる世界で対等に戦えるチートが簡単に出てくる訳もない。それが魔眼で見た今いるダンジョンの現状なのだろう。その影響もあって馬鹿みたいに敵の強さも高いのだろうけど……いいや、そこまで考えれば疑問があるな……。
「天使は悪魔に強いかな。いいや、強いよね。そうでないと馬鹿みたいに盛られた堕天使達を熾天使如きが倒せる訳もない。……ガチャって本当に最悪な代物だよ」
【どちらが強いか、となれば、天使が勝ちます。いいえ、天使が勝つのが普通なのです。つまりは悪魔が勝つ事の方がおかしな話なのです】
「……そこに人族の俺ですかい」
そういう点ではメタトロンとは正反対か。
それはそれで面白そうだけど……仮に俺のような転生者が多くダンジョンに来ていたとすればどう考える。どこかで力に対して限界を感じるような仕掛けがあるとなれば……そこに天使や悪魔の関係があるとすれば納得出来てしまう。
「俺は天使に勝てるか」
【明日になれば分かるのでは?】
「……勝てるのな。いいわ、それでやっていいか」
【拒否権はありません】
要は俺という存在はジョーカーに近そうだ。
扱い方では切り札になるが、間違えれば手札の邪魔となってしまうような悪手でもある。どこで切るべきなのかは俺の経験則に沿うしか無くなってしまうが……いいや、そのための力とも呼べる存在がいるじゃないか。
「……力を貸してくれるか」
【要らないでしょう。だって、私は貴方が死ぬなんて到底、許せはしませんから。貴方が死ぬくらいなら本気で貴方の体を操ってでも】
「いいね! それが聞けたら最高だよ!」
俺の力は確実に学んできた経験でしかない。
経験に無い予測や相手を追い込んでいく手順というのは苦手な部類だ。何をどう扱うかならば考えを巡らせる事が出来るとしても、知らない事に対して頭を巡らせるなんて神の所業と変わりないだろう。
「ナヴィ、俺に力を貸せ。俺は剣の扱い方は理解しても魔法には理解が無いからな。その分を任せておきたい。他にも頼みたい事は山のようにあるが」
【構いません……代わりに深夜帯に貴方の魔力回路を自由に扱える権利を頂きたいです】
「……遠回しだなぁ。そこは俺の魔法面を鍛えると言えば伝わる事だよ。それだから……俺の最高の嫁なんだ。まぁ、過労扱いにならない程度で頑張ってくれよ」
そこら辺は……あの馬鹿を真似でもしたのかな。
いいね、アイツは本当の意味で俺の右腕……いいや、両腕でもあったんだ。ここに来てから本気で悔やんだとすればアイツがいない事くらい。それだけの活躍を体無き状態で見せろとは言わないが精神体でどこまで出来るのかは俺としても知りたい限りだ。
「俺はさ、スキルを無視して誰よりも強くなりたいって思うんだ。それでもきっと、今の俺には不可能だ」
【それを私に補助しろ、と】
「99に1を足せと言って誰が出来ないんだ」
【……なるほど、その一が誰にも達せなくて苦しんでおいでいたのですか。それが誰よりも有能な存在であっても埋められはしなかった。当然でしょう。私に勝る存在等は誰もおりません】
……はぁ、そうだよ。いいや、間違いでもある。
アイツがいて百を越えられたんだ。最初からアイツを越えられるなんて思ってもいない。だから、どこまで出来るのかを見てみたいと言っているだけに過ぎないんだ。だって、アイツと一緒だから馬鹿みたいなブラック企業を……はぁ、本当に愚かな人間は変わらないよな。
「知っている」
【本当に言葉足らず……だから、嫌われるのですよ】
「で、好きにしていいのか」
【好きにさせます、と言えばいいですね!】
なるほど……確かに思った事ではあったか。
アイツが女であればどれだけ、なんて夢物語のような考えが俺を埋め尽くしていた。有能でいて考えも合う、それでいて目指す先が同じなのだから何をしようと問題は無いんだ。でも、ここに来てようやく叶ってしまったのかもしれない。
「明日、階層ボスを倒す」
【ならば、アドラメレクに戦わせるべきでしょう】
「……お前、マジで性格悪いだろ」
【貴方様の嫁ですので!】
はぁ……あのさ、テヘペロじゃねぇんだよ!
そもそも、それ自体が古いってのに……考え方や先程の言葉からしてアドラメレクに天使を倒す術なんて無いだろう。いいや、アドラメレクが相手だからこそ、そのように扱えという指示なのだろうが通すのは俺自身が……本当に悪魔を統べる魔王となるという事でもある。
「俺は……助けてもいいよな」
【彼はそれを望んでおります。自身を超える者を望むなど先の見えぬ世界を望む、それが悪魔や天使の域を超えた者達の認める何かだとだけは伝えさせて頂きます】
どうでもいい……なんて、言える訳が無いか。
少なくとも俺は選んでアドラメレクを最初の配下として獲得している。その時点で扱えなければ無駄遣いにしかならない。神話がどうこうというのは無視したところで馬鹿げた力を持っている事は見ただけで分かる。だからこそ、素の俺を受け入れてくれる存在がいて心の底から助かるな。
「あのさ、ナヴィ」
【愛している等と言われようと私は】
「君を選んでよかった。じゃ、飯を食うか」
さてさて、肉を焼くだけなら大した時間もかからないだろう。油っぽいのは嫌だけど……この歳なら多少は食っても問題無いか。ってか、この歳なら食わないと強くも大きくもなれないからな。
【少しくらいは時間をくれても良かったのでは?】
馬鹿嫁の口煩い言葉は無視しよう。
だって……すぐに嫌という程に聞く事になる。
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