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4話

「なるほど……カプセル式なのか」


 見た感じはカプセルの上にボタンがあるだけ。

 仮設拠点というだけあって大きさは微妙なのかもしれない。だが、ゴツゴツとした岩肌の上で寝るのも嫌だから使わせてもらうが……さすがに入口付近なら魔物に襲われるとかは無いよな。リポップは無いにしても地図に映らない魔物がいないとも限らないし。


 それに……少しだけ怖い事がある。

 システム上ではアドラメレクのような配下が裏切る事は無いが範囲外に出た時にどうなるか。ナビィのような名付け行為がシステムに影響を与えてしまうように、俺が行ってしまった何かが無意識的にシステムを破壊していてもおかしくは無いんだ。その上で俺は配下を従えなければいけない。


「は、はは……まだ馬鹿共の扱いの方が楽だったな」


 下手をすれば俺以外にも影響を与えかねない存在とか面倒でしかないだろ。召喚しておいて何だけど大きなメリットがある反面、背負い切れるか分からないデメリットがある。まぁ、逃げられる状況でもないから気にした方が負けだろうけど。


 仮設拠点のボタンを押して地面に投げる。その瞬間、残っている隙間を覆い尽くすようにテントが広がった。入口付近にいた俺が外に追い出されるくらいミッチリと全体を埋めている。それでも見えている範囲で確かに最高ランクの魔道具である事を思い知らされてしまう。


「これ、アドラメレクでも壊せるか?」

【不可能です。これらには不壊と呼ばれる全ての理を無視した絶対的な防御スキルを付与されております。天使も悪魔も介入が】

「それって俺でも出来ないのか」


 天使……は、知らないけど悪魔は知っている。

 仮に堕天使が悪魔と同列に扱われるのなら属さない人族はどうだろうかってさ。含みを持たせるあたり例外とかもあるんだろ。それに知識として分かるのは人族である事の強みが何も無いって事くらいかな。


【鋭過ぎて気持ちが悪いです】

「じゃあ、そんな俺は嫌いかな」

【……嫌いならナヴィにはなりません】


 なるほどなるほど……って、今何を……?

 ナヴィにはならない……なら、何かがあってなったって事だよな。少なくともナビゲーションのような無機質な機械では無くて人としての感情を持ち合わせていた、そう考える方が楽でいい。だとしたら……って、考えが筒抜けな君の前では無意味かな。


【構いませんよ。事実ですから】

「じゃあ、君を嫁にしたいのも」

【それは物好きなマスターの性癖……いえ、これは正しい使い方ではありませんでしたね。正しく伝えるのならば変態が好むような女だったから選ばれただけでしょう】

「なるほど、つまり、君は女の子なんだね」


 それだけで好きになる理由には十分だ。

 さてさて、ここはナヴィとの愛の住処……って言うには悪魔が一人いるか。だけど、どうにもアドラメレクに関しては嫌いになれそうにないんだよな。そこら辺が忠誠度や親愛度が影響を与えているのかもしれないけど気にしても無駄か。


「じゃあ、俺達の愛の住処に入ろうか」

【何故でしょうか、少しばかりむず痒いです】


 ナヴィの言葉は無視してテントに入る。

 その時点で声を失ってしまった。だって、玄関だけで靴が何個、置けるんだって広さだし、何よりも通路の先に見える部屋が……いや、それは中に入ってからでいいか。しっかり確認してからの方がより楽しめそうだ。


 靴を脱いでスリッパに履き替える。

 よくよく考えてみたらこの行動って異世界でもそうなのかな。家の中で靴を脱ぐのってアメリカとかなら普通じゃないんじゃなかったっけ。まぁ、詳しい知識は無いからどうなのかは知らないけどさ。それにスリッパも上靴も三十程度、常備されているのもいいな。


「ナヴィ用に取っておくのもアリかな」

【むしろ、無しでマスターに抱き運んで頂く方が良いかもしれません】

「うん、君の方が余っ程、変態だね」


 ナヴィの言葉を適当に流して奥へ向かう。

 ただ、中に入ったら異世界らしさが減った。フカフカのカーペットや中心に置かれた大きなテーブルとかは、数回しか入った事の無い社長室にも無かったくらい高品質だ。それにたくさんの部屋が四方にあるから……見た目と中の広さが比例していなさ過ぎる。


 人が三十人はいても困らない広さの居間。

 その周囲にある十個程の扉、後は収納庫っぽい一メートルはある四角い扉が真ん中にある。あそこら辺もちょっとだけ気になるな。……本当に出した俺ですらビックリするような魔道具だよ。


【ここはリビングとなっております。魔力を使用する事によってテレビやビデオ、また他の機能も行使する事が可能です】

「……いや、説明書の機能もあったんだね」

【そりゃあ、ナビゲーションですから】


 頭を強く掻いて近くの扉を開けた。

 言わずもがな、中は他と同じく豪勢だ。高いホテルの一室と言われても疑わない。一応、すぐ横に部屋が付いていてトイレと風呂の二つが合わさった場所がある。ただ、ビジネスホテルとかとは違って臭いとかはボタン一つで消す事ができるから合わさっても問題は無い。それに蛇口を捻ったら水が出たから問題無く使えそうだな。


 そのまま他の部屋の扉も開いてみる。

 他も同じように寝室みたいだ。となると、四方の部屋は全て休むためだけの部屋ってことだろうね。でもさ、キッチンとかは見当たらないんだよなぁ。ここまで豪勢なのに食事は外で作れとかはさすがにないと思うんだけど……それは追々でいいか。


【二階に続くボタンがありますよ。教えませんが】

「……はいはい、なら、いいです」

【左の壁にありますよ、ダーリン】


 なんだ、コイツ……いや、いいけどさ。

 とりあえず、説明にあった壁に付いている八つのボタンか。聞くのも癪だし適当に押してみて確認してみよう。まずは右上から順に押していって……ああ、右側四つは居間の電気に繋がっているみたいだ。それなら左側を上から押してみてっと。


 おお、左上を押したら階段が降りてきた。

 広い居間の真ん中だけ空いていたのもこれが理由かな。もしかしてだけど上に行ってみたら俺の求めているものがあるのかもしれない。階段を上ってみて奥の場所を見る。……上がってみたけど明かりがついていないからよく分からない。壁に手を当てて見たけどボタンは無さそうだったし他の三つが上の電気に繋がっていたのかもしれないな。


【ええ、そんな事にも気が付けないとは】

「……はいはい」


 すぐに下がってボタンを押してみる。

 当たりか、少し暗めの明かりがついたから上がってみる。ちょっとだけ長い通路があってそのまま進むと部屋がある。うんうん、これはものすごく良い魔道具だな。どこぞの嫌味しか言ってこない嫁さんとは大違いだ。


 して、ここは食卓みたいな場所だろうか。

 一つ目に広めの部屋、と言っても居間とは違ってテーブルと椅子があるだけだけどね。そして中に入ったら分かるけど横には大きなキッチンがある。


【これは嫁として猛威を】

「振るうのは腕だ。ってか、その腕すらねぇだろ」

【きゃっ……暴言なんて、婚約して初日に家庭内暴力だなんて可哀想な私……それでも健気に尽くすなんて出来た嫁ですね】


 おっと、ただのキッチンでは無さそうだ。

 まずもって異世界らしさのあるキッチンではないな。どちらかと言うと日本にあるような普通のキッチンだ。IHみたいなコンロや水道が付いていて普通に料理が出来そう。コンロとかの下にある場所には鍋とかも有ったから洗えば今すぐに使えそうだね。


【あの……無視は酷くないですか?】

「これはこれは……美味しい食事が作れそうだ」


 それにこれだけで済まないのがすごい。

 その後ろにある幾つもの家具。冷蔵庫とかレンジとか食器棚とか……話し出したらキリがない程に色々なものがある。ってか、これ一つで生きていくことは可能なんじゃないだろうか。ここがあれば普通に家は要らないよな。だって、日本の便利な道具が使える空間と一々、魔石とかを砕いて扱う魔道具……どちらを使いたいかってなれば一目瞭然だろうし。


【おーい、おーい……謝りますから】

「うーん、色々と出来すぎているような気が……」


 もしかして何かしらの制約があるのか。

 生活魔法は……中からでも普通に使える。冷蔵庫とかが使えない……は全然ない。ってか、中に色々な食材が入っているし見ただけで分かるくらいに新鮮そのものだ。野菜室には専用の米を入れる場所もあるくらいだし……関係無さそうだね。


 後は中にいる間は俺の魔力が減るとかか。

 いやいや、それも全然ないな。ステータスを見たけど反対に大幅に回復していたし。そもそものランクが高い時点で桁違いな能力を持っていてもおかしくは無いか。そこら辺は追々、確認していけば分かるから気にしなくても良さそうだ。


【……むしろ、この中では消費する魔力よりも回復する魔力の方が大きいですよ】


 となると、本当にデメリット無しで使えるって事か。って事は、まず間違いなくテントのレアリティは金だろうね。本気で恐れ戦いてしまう道具だな。……同じレアリティだった無名の剣がかなりのものだったのだから確かにチートアイテムになるよね。よくよく考えてみればそれだけの物なのか。


【説明書を掲示します。ですので……無視は……】

「これが本当の家庭内暴力だよ。調子に乗っているナヴィは好きだけど、ちょっとだけウザく感じたんだ。もう少しだけ人との関わり方を学んだ方がいいよ」

【はい、マスターで学びます】


 それって……いや、相手が俺な分だけマシか。

 まぁ、こういった手合いの関わり方は学んできたつもりだし、相方がナヴィだと思えば大体は可愛い程度で済む。本当に面倒臭い相手は言っても、無視しても続けるものだ。しっかりと謝ってくれる分だけ可愛げがある。


「そういうのは俺だけにしろよ」

【はい、マスターの嫁ですから】

「……意味が違うけど、それでいいわ」

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