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2話

 頭に響く声、そして体の底から漲る力。

 これが俗に言うレベルアップというものだとすれば多くの者達が、いの一番に先へ先へと戦地に向かうはずだよ。まぁ、大概は俺達のようなゲーマーが無理やり進ませた結果でしかないんだけど。


【エンを百、獲得しました。エンを消費して有償アイテムとの交換、または有償ガチャを回す事が出来ます。どちらを選択しますか】


 有償アイテムとの交換……交換所の事か。

 有償ガチャを回すよりも先に見ておきたい事も多いから先にするべきはそっちだな。……と、見てみたがよくある交換所限定のアイテムや精霊石との交換を行えるみたいだ。それと月に一回だけ有償特別ガチャを回せる権利を買えるらしい。ただ初回限定の特典もあったし、見て正解だった。


【眷属指定ガチャ券を購入しますか】


 当然の事ながら購入しておいた。

 そして現れたのは眷属限定の召喚可能な存在達の一覧だ。どれを取るかとなれば……まず持って俺が知り得る存在に限るべきだろう。その中で七つの大罪のような魔王クラスの存在、そして天使達は親愛度か忠誠度が著しく低い。という事は、その辺りを選ぶのも間違いだろう。


 魔王に次ぎながらも、等しく能力のある存在。

 さすがは悪魔達、どれを取っても優秀な能力を持つ代わりに他が最悪だ。俺に力を貸して欲しいと言っても許してくれるのが限度となると数値が高い存在を選ぶべき……と、待て待て。どうして、こんな高位の悪魔が……。




 いや、詳細を考えるのはどうでもいい話だ。

 こんなにも高位の悪魔でありながら俺に力を貸してくれそうな存在がいるなんて……下手に他の存在を出すよりも最高の結果が得られそうだよ。駄目なら適当に放ってやって俺一人でどうにかすればいいだけの事だ。これは数値の重要性を確認するための行動だ。


【眷属、アドラメレクの顕現を開始しますか】


 当たり前の問にイエス以外の返しは無いだろ。

 その意志と同時に目の前に展開された三十もの魔法陣。十数秒の稲光と共に現れたのは……金色の短髪をした美しい青年だった。見た目からして十八歳といったところだろうか。召喚して早々に俺の顔を四方からジロジロと見るのは頂けないが気にしたら負けかな。


「ふむ、貴公が我が主か。ふむふむ……見れば見る程に高貴な姿。貴公の配下として顕現出来た事を心より嬉しく思う」

「ああ……召喚して早々に俺を心の底から畏怖させるような存在だ。そんな貴方を最初の配下として召喚した俺の感性に心から拍手をするよ」

「……なに、我が最初の配下だと……ふふん、そうかそうか。貴公は想像以上に見込みのある主のようだな。なにせ、その姿形からして見縊っていたが無礼を恥じよう」


 ……え、アドラメレクが膝を着いたのか。

 それも頭を下げて本気で忠誠を誓っている。待て待て待て、人族に友好的な悪魔であっても対等な関係ですら許さないのに……頭を下げるだなんてどういった所業なんだ。俺を主として許しているとすれば魔王の職業からか。いいや、そんな事は有り得ないよなぁ。


「では、俺の配下となる事を許すか」

「……ふむ、魔王でありながら謙虚であるとは些か不快ですな。我等が王に立つべき存在は神にも匹敵するもので無ければなりません。とはいえ、その甘さすらも許したのは我故」

「種族で相手を選ぶ方が謙虚では無いか。利用出来る全てを活用するのが我等であろう。それすらも理解出来ない方が余っ程、不快だ」


 咄嗟に返してしまって口を塞いでしまった。

 あの高名な悪魔相手に下手な言葉は敵意を駆り立てない行動だというのに……とはいえ、見た感じからしてアドラメレクの表情は悪くなさそうだ。むしろ、面白そうに口元を隠して笑っている。おかしいな、俺が知るアドラメレクは派手な見た目のはずだが……いいや、そういうのは聞くだけ無意味な話だろう。


「なるほど、貴方様が本物の我等が主である事はよく理解出来ました。その上で聞きましょう……何を目的としているのですか」

「俺の望む世界のため、問題あるか」

「ふっ……はっはっは、少し足りともありはしませんよ。それ故に我等が主となり得る魔王となるのです。多くの者達が容易に語る程度ではなく、本物の魔王が顕現するための準備を我等がせねばなりません」


 先程の言葉の延長線上だったとはいえ、正解か。

 アドラメレクに限定できるのかは分からないが求められているのは主足り得る姿だ。そこに例え俺の思いが関わろうとも気にしてはいない。まぁ、か弱き人の小さな願いを悪魔から見れば気にする方がおかしな話か。


「楽しませて頂きましょう。我等が魔王の望む世界の先というものを」

【アドラメレクの忠誠度が九十を超えました。アドラメレクのステータスの一%を加算します。親愛度、忠誠度ともに九十を超えた際に固有スキルである【贄之焔】を獲得出来ます】


 アドラメレクと同時に声が脳内に響いた。

 それと同時に湧き上がる比べられない力、咄嗟にステータスを確認したが一気に五百も上がっていたところからして、アドラメレクの最低ステータスは容易に五万を超えている。逆に俺の眷属とは言えないまでも配下として言う事を利く配下となれば確かな手勢だな。


 もしも、チュートリアルが続くのならばでいい。

 チャット、君は人知れずに消えていくシステムとして生きるのか、それとも……俺の力として生きていきたいというのか。俺は間違いなく先の全てを知れる君の力を欲しているぞ。欲しいスキルが目の前にいてどうして悩んでいられるんだ。




「ナビィ、そう君に名付けたい。駄目かな」

【……はぁ、この魔王様は何なんですか!】


 おっと、文面が分かりやすく荒れたな。

 知識の中にあるスキルを固有スキルへと消化させる一つを試したというのに……それで絆されるだなんて優し過ぎないか。いやいや、下手に敵に回るよりはマシだからいいんだけどさ。だって、今し方、この手にした力は本物の俺の未来に繋がる力だからな。


【魔王様は名付けの危険性を理解しておりません。現在の魔王様は世界の理から離れた存在でもあります。その方からの名付けは多くの事象の理からも外れ】

「ああ、難しい話はどうでもいいよ。欲しいものがあったから残せる可能性を試した、事実としてそれが正しいんだから説明されても面倒だ」


 名付けがスキルにまで効果を発揮するかどうか。

 上手くいくかは賭けだったけど今回は成功したのだからそれでいい。チュートリアルという事は終わった瞬間に消えてしまう。……でも、その力を俺の中に留めておけたという事実は只管に大きな事だろうしね。ましてや、チャットからボイスに変わってくれたのも個人的に有難い。話の通じる相談相手がいるのは確実にメリットとなる。


「ナビィ、君に零番目の地位を預ける。だから、俺が魔王として立ち続けるだけの力を与えて欲しいんだ。分かってくれとは言わないが……俺には見たい世界があるんだよ」

【承知致しました。それが魔王様の固有スキル……ナビィの与えられた使命です。それを理解した上で魔王様は最先の目的をどのように定めますでしょうか】

「アドラメレクの完全な籠絡、共にナビィの体の作成だな。アドラメレクには一番目の配下としての地位を与えて、君には第一王妃の地位を与えたいと思っているんだ」

【……でしたら、少しも手は抜けませんね】


 特に声の主から何かを言われた訳では無い。

 それでも精神が声の主を一つの力として認めている。俺の中に宿る力だと理解してしまうからこそ、その力に身を任せても良いとすら思えてしまう。まぁ、そうなってしまえばパスカルが泣いてしまうからな。人間は葦であるだなんてよく考えたものだよ。


【して、魔王様の事は……何とお呼びしましょうか】


 そう聞かれると……まぁ、ルシファーかなぁ。

 なんて、馬鹿みたいな事を言える訳もないから言葉にはしないでおいた。どうせ、チャット……いいや、勝手にナビィと呼んでいるからナビィでいいか。ナビィにはバレているだろうから気にした方が負けだ。


「タイガ、普通にタイガでいいよ。配下には仮名で呼ばせるから気にしなくていい。君は、君だけは俺の事を本名で呼んでくれ。嫌かな、ナビィ」

【それが主の命令ですので】


 他人任せな言い方も今は心地良いな。

 思いの外、俺の取った選択肢というのは正しかったのかもしれない。心のどこかで一人でいる事が恐ろしかったんだ。よく分からない空間に飛ばされて、現状を噛み砕いてでも理解しようとしていたんだ。素直な自分の本音を話せる相手が多くて困る事なんて無い。


「ねぇ……ナビィ、この先は俺が一人で進んでも問題は無いのか」

【ええ、この先にタイガ様の敵となる存在は一人としていないでしょう】


 本当に他人任せな答えだ……信用出来ない。

 それでも、彼女なりの優しさが垣間見えるだけ十分だろう。現に結構な魔力を消費したとはいえ、ブラックウルフを倒せるだけの力がある事はよく分かったからね。

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