ふりがなに『レッサーパンダ』を入れろ!
グリズリーアニキの「クマ祭り後夜祭」参加作品です。
身内ノリ(๑•̀ㅂ•́)و✧
「お……おれはくまじゃない、だと!?」
ふさふさの毛に身を包んだ動物が、女性に食ってかかる。そのかわいさに女性は目を細めた後、少し困ったような顔をした。
「えぇ、パンダはクマでも、レッサーパンダはクマではないでしょう? 今回のお祭りの趣旨は、クマになること。だから、小説家になろうのペンネームのふりがなに『レッサーパンダ』をいれることはできないのよ」
そう――動物は、レッサーパンダだった。女性は、小説家になろうで行われているお祭りに参加するため、ペンネームのふりがなにクマを入れたかったのだ。
そこで名乗り出たのが、レッサーパンダだったというわけだ。
「そ、そんなのりふじんだ! おれだってくまのいちいんだよ、なまえに『ぱんだ』がはいってるし!」
「何?由布院?」
「ちがうっ、それはおおいたけん! いちばんちかいれっさーぱんだのいるどうぶつえんは『きゅうしゅうしぜんどうぶつこうえん』!」
「コホン、私だって、レッサーパンダにしたい気持ちはやまやまなの。でも、だめなものはだめなのよ。グリズリーやメガネグマや他の名もなきくまになっている人たちに失礼でしょう?」
女性がそう言うと、レッサーパンダはしょんぼりした顔でうつむいた。
「お、おれが、くま、じゃないから……」
みるみるうちにそのくりくりした瞳から涙がこぼれ落ちた。
「い、いやいや、泣かせたかったわけじゃないの。いいわ、私がふりがなを『レッサーパンダ』にす」「どりゃああああああああぁぁぁ」
女性の言葉を遮って、レッサーパンダは地平線の遥か彼方へと奇声を上げながら駆けていった。
「困った子ね……」
女性はひとりごちて、スマホをいじる。
まもなく、女性のアカウント名のふりがなには「ʕ´•ᴥ•`ʔ」という顔文字がついた。
「さすがに『レッサーパンダ』だと異端者として追放されるかしら」
◇ ◇ ◇
雪が積もり、誰一人外に出ないような吹雪の中、女性の家をノックする影があった。
コンコンコン。
コンコンコン。
「なぁ〜によ、こんな日に来客?」
ドアスコープを覗いても、何も映らない。
空耳か、と女性がソファに戻ろうとしたときだった。
キュルルルルルー
扉の外から、かわいらしい鳴き声が響いた。
女性が扉を開けると、見覚えのあるレッサーパンダとクマが並んで立っていた。
「さいこうのつがいをみつけて、かえってきました。これで、こせきじょうはくまです!」
レッサーパンダはあいかわらずの舌っ足らずな喋り方で主張した。
「レッサーパンダくんは最高だわん」
隣のクマが目の奥にハートを宿してそう言った。クマなのに語尾が『わん』らしい。
「あ……」
一方の女性は脳内の処理が追いつかないようだ。さもありなん、情報が渋滞している。
「となりのかのじょか? かのじょはまれーぐま、くまのなかでもさいしょうのしゅるい! どや」
どやるときは顔で表現するものだろう……と一瞬女性は思ったが、それ以前にツッコむべきところが多すぎてやめた。
隣のクマに目を向けるとさすがクマだ。マレーグマは最小の種類であるとはいえ、レッサーパンダとの身長差がすさまじい。種族を超えた身長差カップル、これはこれでいいのではないか……と気が遠くなっていく。
「どうだ、こんどこそふりがなに『れっさーぱんだ』を……!」
必死な様子のレッサーパンダに、女性は倒れる寸前、一言だけ絞り出した。
「いや……それなら『マレーグマ』でよくない?」




