2話 いきなり王様と謁見?
自分の記憶を必死に確認していたら、扉からノック音がしてニーナが入ってきて、キャスターワゴンで軽食と飲み物を運んできてくれた。
「お加減はいかかですか?」
「特に問題ないと思うけど頭のコブが痛いの」
「あら。これは大きなコブですね。しばらく痛いと思いますよ」
ニーナは無表情で私のコブを確認して、ちょんちょんと薬を塗ってから、そのまま髪を綺麗にまとめてくれた。
食事をしていたら部屋の外が騒がしくなって、扉がバーンと荒々しく開かれた。
おいこら! 着替えてたらどうしてくれるんだよ!
「貴様!! 悠長に飯を食っている場合か!? お前は一体王宮で何をしでかしたのだ!? 陛下から呼び出しがきたぞ! すぐ準備しろ」
父親らしき小太りのおっさんは、入ってきた時よりさらに荒々しい勢いで出ていった。
王様? 王宮って? そもそも家と学園の往復以外、外にほとんど出かけたことがないと記憶しているのだけど?
それに王様に会うための衣装なんて持ってない。
そんな私が、王宮で何かしでかすなんてことは無理でしょ。
着替えろと言われても、手持ちのお下がり衣装は義姉のものでフリフリのケバケバの派手めだから、地味めにリメイクしてはいるけれど、それでも王城に着ていくなんて無理そう。あれ? 義姉は派手派手衣装でパーティに出かけているらしいからアリなの?
せめて実母の衣装ならばとは思うけど、お直しやサイズ調整はすぐにはできない。
学園の制服一択だな。致し方なし。制服は冠婚葬祭に使える...日本では。
制服を着て玄関に向かうと、父に無茶苦茶に嫌な顔されたけど、そもそも他所行きの衣装を与えてないのが悪いと思うの。
馬車には頭は寒そうなのに腹回りは肉布団巻いて暑苦しそうな父と二人で乗った。超嫌だ。なんか香水が酷く臭うし。
義母義姉はお留守番か。目立ちたがりで出たがりなのにね。
王城につくと謁見の間じゃなくて少し狭めらしい広間に案内された。
何事かわからないから父の顔はこわばっていて目をキョロキョロさせてる。小物感がすごい。
侍従の人にお茶を出してもらって待っているとやっと王様が来て下さったみたい。
「イダルンダ・オレイユ男爵、リーシャ嬢よく来てくれたね。早速だがリーシャ嬢に是非引き受けてほしい事があってね。来てもらったのだ」
扉が開いてスタスタと入ってきた綺麗なおじさんが何やら手に持った物を見せながら、ぐいぐいにじり寄ってくる。
「この魔道具を直してくれたの君だよね?」
手元に差し渡されたモノは、学園の授業の空き時間に魔道具教室を見学していて、教室の隅っこに置いてあったモノをつい手に取ったら故障していたのがわかったので、少しいじったら直ってしまったモノ。
それからも授業時間外にこっそり参加していて、父には許されていない勉強ができるのが密かな楽しみだったのだけど、たった今親にバレた......あとで怒られちゃうだろ。やめてよ、おじさんー。
「こういった古いものを大事にしてくれる君には、ぜひ辺境伯の奥さんになってほしいと思うんだよ」
おじさんはニコニコ笑いながら父に言う。
なんだかよくわからない理由だけど、あの家で息苦しく日陰にいる生活よりは未来がありそうだと興味を持った。
ところで辺境伯ってなんだろう? 地位のことだっけ? 「オレイユ男爵はこのリーシャ嬢に大した愛情もなく、婚約者も決めてないと聞きおよんでいる。ならば結婚が可能な年齢なのだからすぐにでも嫁に出して問題ないのではないか? リーシャ嬢には可及的速やかに辺境に向かってほしい。馬車や護衛も王家が用意する」
私にっていうか、リーシャに対して愛情がないって知ってるし、私にとっては父は初めて会ったばっかりの見知らぬ他人でしかないからどうでもいいんだけど、外部から親の愛情がないって言われると、なんとなくダメージでかいな。リーシャが可哀想だし。
おじさまの提案はこんな家族と離れられる至チャンスだけど、なんか心に...リーシャの存在意義ってやつかな? そこに大ダメージを受けている感じだよ。しかもいきなり結婚話だし。
それに、学園はあと少しで卒業だったから、ちょっとしょんぼり。リーシャ、頑張って通っていたのにね。
「あー...いえ、その...この娘は体の成長が遅くて女としての役割に不安があります。結婚など無理があるのではと縁談はお断りしていた次第です、ええ!」
父がしどろもどろとお断りの文句を吐く。
クソ親父、失礼だな! もっともっぽいこと言ってるけど多分縁談なんて探してないし、リーシャの将来に興味なんかなかっただろうし、もしも良さげな縁談来てたら義姉が奪っていたと思う。
そもそもあまり外に出してもらえなくて、お茶会に行けても姉のお下がり衣装でダサくて、髪や身体のお手入れもそう出来てないのに出会いなんぞあるか? ないよ!
おじさまはクソ親父のお断り文句に悪い笑みを浮かべて答える。
「強い魔力を持つ子供の中に、栄養を魔力が吸ってしまい体に栄養が回せなくなる子がいる。その子は通常の半分も食事が出ていなかったと報告されている。成長が遅いというならば、それは其方のせいである。リーシャ嬢の食事は使用人以下の残飯に等しかったと報告があったぞ」
我が家の中におじさまのスパイがいたの!? なにそれ~。ドラマみたい。
私の残飯だったのか。ガリガリボディでペチャパイになったのはこのクソハゲ親父のせいか!
ハゲ親父はダラダラと冷や汗をかきながら俯いてる。
「あまり使いたくはないが今回のことは王命とでも思ってくれ。その子には辺境で気軽に暮らしてほしい。辺境伯家はちょっと大雑把な連中だが心根は良い者たちだ。心配ない」
綺麗なおじさま、もとい王様が優しい笑顔で私の頭を撫でてくれる。
「この後、馬車を貸すから持って行く荷物、連れて行ける人などの手配をしなさい。男爵、この結婚ではオレイユ家になにも利益はでない。其方が冷遇した前妻の親族や友人たちが激しく怒っていることは伝えておく」
いばり気味の父は風船が縮んだように大人しくなった。
母、冷遇されてたのか。その寂しくなった頭皮がさらにハラハラっと散るように祈っとこう。
帰宅後、ほぼ自分の持ち物がないので最低限の着替えと下着、教科書、本を詰めてふと思い出したので父に質問をしに行く。父は自室のソファで青い顔をして項垂れていた。
「お母様の本やお洋服を持っていってもいいですか? ニーナも連れて行っていいですか?」
両方ともあっさり許可を得たので母のものは肖像画と本、思い出のある衣装を数点、そして母の部屋にある隠し部屋の中身は全てアイテムボックスに収納。
私はアイテムボックスという魔法が使えて、他にも母からの才能を引き継いていて、結構な魔術が使えるっぽい。
隠し部屋は魔力で作られている異空間で、母から「ここのことはあの人たちには知られないように」と言われていたので今回もう二度と使えないように消去。
父が知らないモノだからいいよね?
ニーナと一緒に、荷物を馬車に移動させていたら、義姉のキミーが人の悪い笑みを浮かべて近いてきた。
「なにやったら辺境送りになるの? あんな危険な場所にさぁ? しかも辺境の人って体がデカくて怖いんでしょ?あんたなんて小さい子、相手にされないんじゃない?」
義姉は18歳で大人のお遊びにはたくさん誘われているみたいだけれど、結婚相手は見つかってないらしい。それなりの美人なのにね。衣装が下品でダサいって誰か教えてあげればいいのに。
しかも遊びまくりってバレてるっぽいから良い縁談なんて来ないと思う。
私を揶揄ってる場合なのかしら?
義姉を振り切って馬車に乗り込んだ。
記憶が戻って? 二日でお嫁に行くことになった。
辺境ってどんなところなんだろう。




