103話 アーレン・ポッドさんは優しいお兄さんです。
「さて、カイダール・オレイユの功績についてはまた貴族議会にて話をしよう。今はリーシャ・グレーデン辺境伯夫人について申し渡したいことがある」
父カイダールが、国民栄誉賞とか何とか褒章みたいなの貰えたり?
なんて思ったら私⁉目立つ事はしなくて良いんですけど!
「彼女が両親から受け継ぐものの中にナタリア夫人の魔法学、カイダール・オレイユの薬学、セラーナ・マーベルハント夫人の錬金術、それらの研究内容が記された物がある。もちろん彼女が自身で研究を引き継いでもマーベルハント家に託しても国に任せてくれても良いが、彼女自身が有能な錬金術師であり国家の最重要保護対象である。グレーデン辺境伯家へ王命を出し彼女を託したのがその理由だ」
どんどん会場内の貴族たちが利害を計算してるような微妙な視線を私に向けてきている気がする。
怖いなって思ってたらジュリアスさまがそっと肩を支えてくれる。
「幸いにも二人は仲睦まじく、彼女はグレーデンの地を気に入ってくれた」
ザワっとした!何でそんなに辺境領に対してイメージが妙に悪いのよ?
「グレーデン辺境伯家一同には無理を通したが結果は悪くないと思う。今後もリーシャを我が娘と同然と思い大事にして欲しい」
にゃ?我が娘っていうのはお義父さまたちのって事じゃないよね?今の流れでいうと王様の娘って事?なんで⁉
当然ザワザワが大きくなったよ。
困惑してジュリアスさまと近くにいるお義父さまたちを見ると苦笑している。
「そう難しく考えるな。重要な研究や才能を保護したいという意思表示だ」
わからん!わかんないけど守らないとダメなくらい両親と祖母が凄いって事で良いよね?
「さて、あとはアーネスト・・・」
その後は他に領地の復興や農業を発展させた人を呼び出して褒めたり褒賞を与えたり。
やっぱり私を遠巻きに見てくる人はいて居心地が悪かったけど、お義父さまとジュリアスさまがちょっと威圧していて、お義母さまとルルゥが怖い笑顔で私をガードしてくれている。
場がお開きになったら、王様が私たちとマーベルハント家の伯父と祖父を呼び出した。
「すまぬな。大元を隠すなら同じくらいの秘密を晒しておかないとな」
入室してすぐに王様は私に謝ってくれたけど《大元》ってなんだろ?
アレンさんも呼ばれていて。
「リーシャさん、改めて申し訳ない。俺の母は父さ・・・カイダールさんの荷物で妻帯者だということは知っていた。ただ記憶を失くしたカイダールさんに接するうちに離れたくなくなった事、カイダールさんが長距離の移動に耐えられない状態だったことも重なって、荷物を隠していたんだ。そうしているうちに村で感染病が発生して・・・急に薬草を探しに出かけたり患者を訪ねたり。後から思えば記憶がない中でも本能のような染み付いていた行動が出てしまったんだろうね。数年は思わしい結果が出なくてね。カイダールさんは・・」
「父さんでいいですよ?」
何か言いにくそうだし辛そうだし。私は父に会ったことないけれどアーレンさんは一緒に暮らしてたんだしね。
アーレンさんは困った顔で頷いた。
「患者に了承を得て未完成の薬を使って一進一退を繰り返していくうちに、父さんが寂しそうな、遠くを眺めるような日が続くようになって、母が泣きながら私に白状したんだよ。その後荷物を父さんに見せたんだけど、思い出している訳じゃなかったみたいで母に心配かけたねって言って・・・」
お母さまと同じような感じだね。遠くを見てここに居ないような・・・
「それからやっと完治はできないけれど症状が改善される薬ができて、その一年後には寛解するまでに持ってこれました。その頃には父さんは赤斑病に掛かっていたようで・・・赤斑病は体の表面に出た場合は早期治療ができますが内側、臓器・・・の場合は医者が確認できた時には手遅れになります」
赤斑病って地球でいったら天然痘かな?内臓からくるパターンってあったっけ?詳しくないからわかんないけど、怖い病気・・・
「父さんは事故の影響で丈夫ではない身体でしたから発病してすぐに歩くことができなくなって、その頃に荷物のことを聞かれたんです。記憶が戻ってたんでしょう。でも母にも私にも何も言わないままで・・・感染が発覚して2ヶ月も経たないうちに亡くなりました。当時は村でまだ患者も多く居ましたから私と母で必死に看病をしていましたが母が心労と過労で半年後に亡くなって・・・」
う。赤斑病を知らないけど、長く蔓延している村で患者に寄り添っていたならアーレンさんは身体的にも心情的にもかなり大変だったはず。
アルマさんは夫を愛してたとはいっても一緒に病気と戦ったんだもん。すごく慈愛の人だよ。
「何とか村が落ち着いて現実に帰かえってみれば、父さんの荷物には身元も連絡先も記された身分証があって。日記も・・・ごめんね。遅くなって。この国に来て君がどんな暮らしをして来たかを知ったんだ。父さんを帰してあげられなくて本当に申し訳ない」
静かに泣いて頭を下げるこの人をリーシャ自身もきっと責めたりしない。
「お兄さん、ひとりぼっちで大変だったお父さまはアルマさんとお兄さんが居なかったら生き延びていなかったと思います。さっきの映像でお父さまは幸せだったって言いました。だからお兄さんはその思い出を大事にしてください。私は今とても幸せだから心配しないでください」
お兄さんはボロボロ泣いちゃって。何故かお義父さまとルルゥも号泣しててカオスです。
お祖父様たちもギリギリ堪えてるみたい。父と母を知ってるはずだから色々複雑だと思う。
王様も若干目が赤くなってる。感動屋さんだな。
「アーレン・ポッド氏を通じでアルモンド国と共同で特効薬を世界中に広めたいと思っている。リーシャ嬢はそれで良いだろうか?」
「はい。なるべく価格を抑えて誰でも治療が受けられるようにしていただければと思います」
感染病は初期に抑えこまないとあっという間に広がっちゃうから薬を国が常備してできるくらいにしないとね。
「富は要らぬか?」
って王様が意地の悪い質問をする。
「儲けが出るなら父を支えたポッド家のものです」
研究の継続については必要ならマーベルハント家や本職にお任せした方がいい。
「ハーボットやオレイユに聞かせたいものだな」
「お兄さんがお父さまの意思を継いでくれた方が良いです」
言い方は悪いけど、世界に広めるなんて大変なことは人に丸投げしたい。国が関わってくれるなら勝手に広めてくれるはず。私ってば、ダメ過ぎ?
「ハーボットとオレイユについては尋問をした結果を後日知らせる。カイダールはハーボットの指示に逆らい〈儲け話〉を拒絶したこととイダルンダの逆恨みが重なった結果だとみているが、融通の効かないカイダールを引き離してナタリアの能力を利用しようとしていたのだと思う」
うーん?父の性格はわからないけど、あのお母さまを利用する方が難しそう。
どちらも能力を活かせば領地の数年分の予算を軽く稼げそうだし生かさず殺さずにした方が税金として搾り取れただろうに欲を掻きすぎたんだ。
アーレンさんはしばらくこの国に滞在して特効薬の製薬法やお父さまの記録を教えてくれるらしい。
あれ?この状況で私はのんきに新婚旅行に行っても良いの?
「マーベルハント伯爵、其方らにはカイダール・オレイユの研究をもとに特効薬の解析と病状の記録をまとめて欲しい」
「畏まりました」
ううう。
たこ焼きさんが手を振ってるよ。またの機会に・・・って。
「さて今日はここまでにしようか。ジュリアス、旅行前にもう一度顔を出してくれ」
「は!」
旅行、行ってもいいの?たこ焼きさんが帰ってきた!




