雨、入道雲、炭酸水。
蒸し暑い日だった。
いつものように朝食を済ませ、いつもより早めに家を出る。
また、あの商店へ向かう。
昨日の女性は居るだろうか。心の何処かで居ないんだろうなと考えながら足を動かす。
熱気はだんだんと体を包んでいく。
汗ばんだTシャツがどうも気持ち悪い。
そして数分歩くと、店に着いた。女性はいない。
とりあえず、買い物をすることにした。
炭酸水とガムを買った。
炭酸水を一口飲む。
喉に通ったそれは、どんな飲み物よりも美味しく、体全体を生き返らせるように包みこんだ。
店を出ると、ベンチに彼女がいた。
「今日も来たんだ」
「来てと言ったのは貴方でしょう」
そういいながらベンチに腰を下ろす。
僕はこの女性と話す時、どこかに安心感を覚える。
それは懐かしさに近いのかもしれない。
今日は僕から話しかけてみよう。
「夏休みで村に来たんですか」
若干の間が空いたあと、彼女は少し笑いながら答える。
「うん。」
「いつ頃に帰るんですか?」
「う〜ん。まだ分からないけど、まだあと2、3週間は居る予定だよ。」
まあ夏休みもそれくらいに終わる。
彼女が帰ることは何ら不自然なことじゃない。
空を見上げた。
大きすぎる入道雲。
あれがもしも、僕たち人間に敵対していたらどうなっただろう。雲を見るとそんな恐怖を感じる。
だがそれ以上に、近づいてみたいと思う。
人間は空を飛べない。
そんな共通認識が心底嫌いだ。
まあ、飛べないことなんて僕にもわかってるけど。
沈黙が続く。
僕は店の中で流れているラジオを意識する。
知らない曲が流れていた。
まあ当たり前か。
こんな田舎に住んでいる、スマホもない中学生が知るはずもない。
「今度お出かけしてみない?」
彼女が急に口を開き、僕に問いかける。
電車は数本しかなく、バスはないこの村から、いったいどこへ行くというのだろう。
「私、海行きたいな」
海か。
山の向こうに水平線が見える。
遠くからでもわかるほど青く、美しい。
この青は、空の色とは違い、雨の色とも違い、ソーダ味のアイスとも違う。
海の色こそが夏色なんだろうと僕は思う。
「いいですね。今度行きましょう。」
この女性は、出会ったばかりの私を、なぜ海に行くのに誘うのだろう。
ラジオでは天気予報が流れていた。
どうやら、この周辺の地域で雨が降るらしい。
「雨、降るみたいですよ。」
「そうみたいだね。降る前に帰ろうか。」
僕達はベンチから立ち上がる。
僕は家へ帰る道を歩き始めた。後ろを振り向くと、手を降っている彼女がいた。
僕も振り返えす。
そして、少し行った歩いたあと、また振り返った。
もう流石に彼女はいなかった。
でもそこに、夏の気配を感じた。
通り過ぎる風は、やけに冷たかった。
夕方になると、予報の通り雨が振り始めた。
その雨は翌日まで続き、その影響で気温がだいぶ落ちた。
そして僕は夏風邪を引いた。
窓の外に映る暗い景色を眺める。
今日は水平線も見えそうにない。
僕は部屋で一人、咳をする。




