釣り場のトイレ
釣り人に人気のある釣り場は、駐車場が近くにある釣り場、釣れる釣り場、そして
トイレのある釣り場になります。
そこはそんな人気な釣り場で、友人達四人を連れ添って釣りに出かけていました。
四人はいわゆる釣り仲間で、釣り場で釣ると言うよりも酒を持ち込んで楽しく釣る
タイプです。 釣り方も投げ竿で釣り半分、話を半分と言う楽しみ方です。いつもの
ように四人は投げ竿を数本出して、下敷きの上に座り込み宴会気分でした。
「おっ、お前の竿、引いてるんじゃないの?」
「気のせい、気のせい…」
たわいも無い話で、アルコールはどんどん進んでいきました。
釣り場の周りには民家も無く迷惑ではないのですが、酒が回りだすとトイレが近く
なるもので、釣り人たちは近くの草むらで用を済ませました。
「おれも、してくる…」
一人が草むらで用を足していると、歩いて10分ほどでしょうか? 草むらのずっと
むこうに灯りが見えます。 大きな道路が走り、その向うは大型の団地。その団地の
公園なのでしょう、妙に明るい小屋は確かに公衆便所でした。
「向うに、トイレあるぞ!」
「そこらへんですればいいよっ」
「あっ、おれ丁度、大きいのがしたかったんだぁ 助かった…」
おちゃらけたその言葉に笑いが起こりましたが、本人は本気です。 ポケットチッシュ
を持ち、トイレのほうに歩き始めました。
「早く帰ってこいよ~」
「ああ、竿が引いたら上げてくれ」
男は向うに見える明かりを目印に草むらを歩いて行きます。 遠いなぁ~、焦れば焦る
程に遠く感じるのですが、もう仲間の声は小さくなってました。 しかもトイレに行くま
での道のりは意外と暗く、石でもあれば転倒しそうです。
足元を注意しながらトイレに急ぎました。
やがてトイレの灯りがハッキリ見える頃になると、仲間の声は殆んど聞こえません。
変わりにトイレの入り口に違和感を感じました。 違和感ではありません、何かそこに
人が居るように思えるのです。
「酔ったのかな?」
目をこすりながら更に近寄って行きます。 いやッ、何かが居る。 トイレの入り口まで
数メートル、確かに気配を感じます。 全身に立つ鳥肌が酔いを一気に醒まし、ただならぬ
雰囲気を本能で感じるのです。
「こ…子供だ!!」
不思議な事に見えないのに、そこには男の子を感じるのです。小学生低学年、細い痩せ型
の小学生がどうしてもそこに居るように見えるのです。
「お・じさん…見えるの…」
見えないのに気配をハッキリと感じる。 しかも、その声はハッキリと聞き取れま
した。 「おじさん、見えるの」 ハッキリとその言葉が聞き取れたのです。
「おじさん…次はおじさんが鬼だよ…ふっふふ…」
「うっ!うわぁああああ~~」
悲鳴にも似た叫び声を上げて、転げるように逃げて行きました。
目では決して見えない物を感じる。しかもハッキリと感じ声まで聞こえたのでした。
この世の物ではない! 本能でそう感じたのでした。
その後、仲間の元に帰った彼は鼻で笑われたと聞きます。
「怖い怖いと思うから、そんなものが見えるんだよ~はは…」
その後、どうしても納得できない彼は釣り場の住所より調べました。
数年前、かなしい事件がありました。 団地の子供達が数人でかくれんぼをしていて
起きた事故ですが、一人の男の子が、トイレの下水タンクのフタを開け入り込んだまま
出られなくなりました。 その後、団地の住民・警察などで捜索がされましたが男の子
が発見されたのは3日後、すでに息絶えていました。
下水タンクに誤って入り込んですぐに、ガスで眠るように死んだそうです。
きっと、まだかくれんぼをしているのでしょうか?