見えた遺体
霊感のある人、無い人…いろいろあるようですが、少しでも霊感のある人は、お盆には見え
やすいそうです。
今回は、少しだけ霊感のある釣り人の体験談を紹介しましょう。
その釣り場は穴場的な釣り場で、山間の寂しい漁村にある港でした。山を抜けていく道しか
なく滅多に他の釣り人に会うこともありません。
その日もいつもどおり他に釣り人の姿はなく、友人と連れ添って釣り場へと出かけました。
「いつもながら、空いてる釣り場だなぁ~」
二人は話しながら仕掛けを投入。 すぐにお目当ての魚の当たりがあるのに気分が良くなり
朝まで釣る事にしました。
「今日もいい釣りができるな」
しばらく調子よく釣れていたのですが、やがて潮の流れも緩くなり、深夜の一時を過ぎた頃
には魚の当たりも遠のき始めました。
「少し移動しよう」
港の反対に移動しようとしたときに、友人が急に立ち止まりました。
「どうしたの?」
急にパタッと立ち止まったので違和感を覚え、友人の顔をみると…真っ青な顔で言いました。
「おれ…、お盆には見えるときがあるんだよ」
「何がだよ?」
異様な雰囲気に息を呑んだ二人は立ち尽くしました。 ベットリと汗を掻き出した友人は震
える声で続けました。
「す・透けて見えるんだけど…向・うの街燈に…首…を吊った死体が透けて見える」
普段なら冗談だと思うのですが、友人の表情と異様な汗の量が全てが真実であると理解するに
十分でした。
「見える…見えるか? お前…あの、灯りの下…」
指を挿す灯りを見ても何も見えません。
「ご、ごみ…じゃないの…」
「い、いや、ボロボロだけど…に人間の女だ…」
異様な雰囲気に声も震えますが、自分には全く見えないのです。
「身体を…身体を、ゆ…ゆさぶりだした…」
ガクガク震える友人が、カチカチ歯を鳴らせながら声を出しました。
「冗談、よせよ」
ギシィィ…ギシッ…
ゴクリ… 見えない自分にも音だけはハッキリと聞こえてきました。
見えないのですが、確かに風も無いのに一本の灯りの柱だけが揺れているのです。
軋むような鈍い音は徐々に大きくなりました。
ギシッ‥ギシッギシッ ドサッ…
「ギャアァアアア」
二人は一目散に逃げました。 大の大人が腰を抜かすように転げながら逃げたそう
です。
後日になり釣り仲間などに話したところ、笑われたそうですが数年前に確かに首吊り
事件があったそうです。
恋愛のもつれを苦に自殺した女性らしいのですが、自分の首にロープをかけ向うに投
げてロープを掛けて、何と自分の手の力で自分の身体を持ち上げて首を吊ったらしいです。
当初は殺人だとも騒がれたらしのですが、女性の爪がはがれるようなロープの跡や、
呪いめいた遺書…全ての証拠が自殺だと語っていたそうです。
人間が自分で自分の首を絞めて死ねるでしょうか…? 最後に首を吊りながら自分の
身体をも持ち上げた力は、怨念や執念そのものでしょう。
無論、息が止まり女性の身体は落下した状態で遺体は発見されました。