霧の中から
海の釣り場と言うと何処を思い浮かぶだろうか…? 港…砂浜、河口… いろいろ思い浮かべると
思いますが、今回は防波堤でも一文字の防波堤の話です。
梅雨に入る少し前のシーズン、二人の釣り人が沖合いにある一文字に渡ったそうです。一文字と言
えど長さは50メートルほどもある大型の一文字堤防で、端に釣り座を構えてジックリと浮き釣りを
始めました。
釣りを始めて3時間程過ぎたでしょうか、蒸し暑く釣れないのに嫌気がさしたので、片方の釣り人
がウキ釣りをやめて探り釣りへと変更したのです。
「カサゴでも釣るよ」
天気予報では雨は降らないと言っていたわりに小雨が降り始め、梅雨特有の通り雨がパラパラと
降る中、防波堤から探りながら釣り歩いていきました。
しばらくすると小雨と蒸し暑さで辺りに霧が立ち込め始め、あっと言う間に2メートル前まで
霧で見えなくなりました。
「参ったなぁ~ 気味悪いし…引き返そうか … 」
5分ほど釣り歩いたのですが、自分がどれほど歩いたのか検討もつきません。しかも振り返っても
相方の姿も見えず途方にくれていました。
懐中電灯で照らすと真っ白に映り、ほとんど前が見えません。
釣り場の怖い写真、恐怖の釣り場
「おっ! 人が居る」
風が吹き視界が少し開けたところで自分の前に人が居るのが
見えました。
「釣り人かなぁ 」
自分達が居るときには渡船は着ていません。まして沖の一文字
ですので、渡船で渡る以外は人が居る訳はないのです。
幽霊や霊の存在など信じていないので特に怖がることもなく釣りを続けました。
一つ嫌なのは、自分の歩くペースと前の人が歩くペースが同じなのです。 同じような釣りをしている
と思ったのですが、取り合えず向うの突き当りまで行き、そこで下の広い方に降りて引き返そうと
思ったのでそのまま付いて歩く事に…
やがて風がやむとまた霧が立ち込め始めました。
「気をつけないと危ないなぁ~」
自分の足元まで見えなくなりそうな濃い霧に、足元を確かめながら歩いていると、また前に歩いてい
た釣り人の脚が薄っすらと見えました。
同じように一歩ずつ前を歩いているのですが、ギクリッとしたのはその足先です。
こちらを向いているのです。 この向きだとバックで歩いている事になります。
「うわッ」
小声ですが驚嘆の声を上げてしまいました。 その足は素足で靴も履いていないのです。何よりも
驚いたのは血の気の失せた真っ白の足でした。
ビクリッとこわばり、気がつくと自分は防波堤の端に立っていたのです。
不思議と急に霧がはれはじめ、慌てて引き返し、先ほどの体験を話すと、霧など出なかったと言って
笑ったそうです。
その体験をしてからこの人は霊とかの存在はあると信じるようになったと聞きます。
あまりの寂しさに誘い込もうとしたのでしょうか…。