第4話「ひとつめの陥落」
宮川大翔は、燃えた。
“インフルエンサー”という虚像が、
たった一晩で灰と化したのだ。
彼のSNSは凍結され、彼の名前は“検索してはいけない人物”として
晒され続けている。
だが、それでも――彼は“逃げ切れる”と思っていた。
なぜなら、彼はあの女と繋がっていたからだ。
原口椿。
俺を裏切った同僚。
「佐久間蓮が横領した」と内部通報を偽造し、
宮川と一緒に俺を“社会的に殺した”女。
彼女は頭が切れる。
危機察知能力も高い。
そして何より――“冷たい”。
そんな彼女が、まだ宮川に協力していることも想定済みだった。
俺は次の仕掛けを用意していた。
まず、“復讐者Veil”名義で、
原口が勤務していた社内サーバーのアクセス記録を一部匿名公開。
そして、そこに巧妙に混ぜ込む形で――
原口が自ら“偽証工作に関わっていた”ように見せかけたファイル構成を作り上げた。
これは事実ではない。
だが、“限りなく真実に見えるように構成された”嘘だった。
火元にしたのは、社内の匿名掲示板。
普段は社員たちの愚痴が飛び交うその場所に、突然現れる投稿。
【証拠あり】原口椿の情報操作ログ、内部から流出
嘘と真実が混ざった情報は、最も人間を混乱させる。
そして、それが“本当に見える”状況を作るのが、俺の十八番だ。
夕方、社内では緊急会議が行われた。
「原口さん、ちょっとこちらへ……」
原口が“社内調査チーム”に連行される瞬間の動画が、
なぜかタイミングよく撮影・拡散される。
その動画は、例の掲示板とX(旧Twitter)に同時投稿された。
誰が撮ったのか? もちろん俺じゃない。
だが、俺が“撮るように仕向けた”だけ。
投稿者は新入社員の一人。
数日前、彼のXアカウントに“復讐者Veil”がDMしていた。
「この人が会社を裏で操ってる。証拠が出たら、動画を撮って。」
たったそれだけ。
若さは、好奇心と正義感の塊だ。
翌日。
「原口椿、情報漏洩疑惑により社内調査対象。出社停止処分」
決まった。
完璧だ。
彼女の“頭の良さ”が仇となった。
本物の犯罪者に見せかけるには、“それらしく行動してもらう”だけでいい。
彼女は潔白かもしれない。
だが、**“潔白に見えない立ち振る舞い”**をする癖がある。
これも、学生時代からずっと観察していた。
「人間ってのはな、結局“見た目の証拠”に弱いんだよ」
俺にそう言って笑ってたのは――
宮川だったな。
さて、そろそろ本命にとどめを刺す時間だ。
宮川に、最後のメッセージを送る。
【件名:お前の最後の“味方”も、消えたぞ】
【添付:原口、連行映像.mp4】
そして、もう一つ。
【本文】
「君はいつも人の秘密を売ってきたな。
今度は君自身の秘密が、君を売る番だ。」
送信。
俺が復讐を決意したあの日――
宮川はこう言った。
「正義とか関係ねぇよ、蓮。
使えるもん使って、自分が生き残る。それが現実だ。」
なら、現実ってやつに、喰われろ。
夜。
宮川が、駅のホームでフラついている姿が撮影された。
よほど追い詰められていたのだろう。
しかし、飛び込むことはしなかった。
――なぜなら、最後の最後で警官に保護されたからだ。
翌日、週刊誌に載る。
【“落ちたインフルエンサー”宮川氏、保護され精神病院へ】
いいんだ。死なせはしない。
俺は“殺し屋”じゃない。
あくまで、**真実と因果で、世界をひっくり返す“復讐者”**だ。
――ひとり、終わった。
だが、まだ14人。
全員、地獄の底まで連れていく。
そして俺は気づき始めていた。
この“横領事件”、
明らかに“俺に恨みを持つ者”の仕業じゃない。
これは――
「俺を知りすぎている誰か」が書いた、復讐のシナリオだ。
――次回、第5話「嘘の積み重ね」
新たな標的・由梨に向けて、心のトラップが動き出す。