第12話「正義の死体」
倫理監察局副長官・相原律人。
かつて俺が大学で最も影響を受けた男。
「君たちは将来、力を持つ。
だが正義は、力を使わない“覚悟”から始まるんだよ」
そう語ったあの教壇の姿が、今では真っ黒に腐り果てて見える。
USBの映像には、
俺を“切り捨て対象”にする会議の音声がしっかり残っていた。
しかも、“佐久間蓮”の名前と顔が堂々と映されている。
相原は言った。
「正義とは“管理”だ。
暴走する個を前に、組織が選ぶのは“切除”だ」
そして笑った。
「彼は優秀だった。だが“危険”だ。
自分で正義を定義しようとする人間は、我々にとって脅威だ」
そのとき俺は、初めて“怒り”ではなく、“冷たい怒り”を感じた。
これは復讐じゃない。
これは、“正義の名を騙る者”への粛清だ。
相原は正義を説きながら、
内部の不祥事を握りつぶし、
“選ばれた敵”だけを処分することでバランスを取ってきた。
腐敗そのもの。
まるで正義の皮を被った死体だ。
俺は動き出す。
まずは相原の周辺――
彼の部下、私設秘書、かつての同門たちを調べる。
その中に、見覚えのある顔を見つけた。
原口椿。元・同期。
情報処理班の天才で、俺が信用していたただ一人の男。
だがその椿が、今は相原の秘書をしていた。
裏切りか? それとも“潜入”か?
深夜0時。
六本木の高層ビルの裏口で、原口に直接接触する。
帽子を深くかぶり、声を潜めて言った。
「お前、あの人間の下についてて……正気か?」
原口は、少しだけ寂しそうに笑った。
「……まだ、正気だよ。
でもな、蓮。“正義”は見えないんだ。
どこまでが腐ってて、どこまでが利用価値あるかなんて、誰にもわからない」
「だからって、腐った中心に居座るのかよ」
「違う。俺は……“心臓”を撃つために中にいる。
だが、俺一人じゃ足りない。
もう一度、手を組まないか?」
俺は少しだけ迷った。
でも――迷ってる場合じゃない。
「……撃ち抜こうぜ、“正義の死体”を」
そして俺たちは、相原の“最も致命的な弱み”を探すことになる。
その情報は、思わぬ場所にあった。
相原律人の娘――
**“相原 彩音”**が、
現在精神病院に入院していることを突き止めた。
「家族を隠すのは、秘密がある証拠だ。
彩音が鍵を握ってるかもしれない」原口が言った。
次のターゲットは、相原の“私的な顔”。
彼が守りたがる“最も弱い部分”を炙り出すことだ。
「今度こそ、“正義”を死体のままにさせない。
その名を、地に引きずり下ろす」
――次回、第13話「精神病棟の蝶」
相原律人の娘・彩音との邂逅。
そして、蓮の中の「復讐」と「守るべきもの」が揺れ始める。