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02 訃報


 しつこく鳴り響く電話の音で、月枝は心地よいリズムに包まれた夢から目覚めた。


 また同じ夢を見た。

 月枝は、子供のころから同じ夢を見る。


 あの汽車は、どこへ行くんだったっけ?


 いつも決まって、終着駅へはたどり着けない汽車の旅。

 ふたりの少女。

 どこかで見た映画のワンシーンのように、雪の白と少女たちが身にまとった赤が鮮明な夢だった。


 夢はとても楽しくて、ワクワクするような高揚感を伴っているのだが、目覚めたあとはなぜかいつももの哀しい。

 あの汽車が着くところがどこなのか突き止めたいような、それを知ってはいけないような、そんな複雑な気持ちになるのだった。


 寝ぼけた頭でむくりと起きあがり、月枝は部屋の冷気にゾクリと肩を抱いた。

 反射的に枕元の目覚まし時計に視線を走らせる。

 午前三時。

 三月の北海道はまだまだ寒い。

 ストーブのタイマーをセットしたのは五時半だ。


 こんな時間に電話が鳴るなんて……。


 独身時代ならともかく、ふつうの社会人のふつうの一般家庭のふつうの生活時間をはずれた時刻に鳴る電話は、悪戯か間違いでなければ、訃報に決まっている。


 嫌な胸騒ぎを感じながら受話器をとった。

 出ると、動転した母の声が耳に突き刺さってきた。

 父が心筋梗塞で倒れたという報せだった。


 東京の妹の日向子に電話が繋がらないどうしよう、と呪文のように繰り返す母をなだめ、まず札幌市内に住む叔父のところへ連絡をしろと言って電話を切った。

 すぐに飛んでいってあげたいが、私が住んでいるところから実家まで、車で四時間はかかる。


 震えているのは室内の寒さのせいなのか、突然の報せのせいなのか。

 いつのまにか、傍らに夫の鉄郎がたたずんでいた。


「どうした?」

「お父さんが倒れたって。駄目そうって、母さん動転してた」


「おまえは大丈夫か?」

「うん。多分。日向子に連絡しなきゃ」


 日向子の番号を探し出し、二回間違えて途中で切り、三度目に全部の桁を押すことができた。


 母の報せの通りの事実を告げると、電話の向こうの妹はわっと声を上げて泣き出した。

 彼女を電話口でなだめるのに三十分。


 妹の日向子はとてもわかりやすい性格だ。

 喜怒哀楽の激しいぶん気持ちの整理も早いのか、これで案外、頼りになる。

 日向子に明日一番の飛行機で戻ってくるよう言い含めて電話を切った。


 以前、あの夢を見たときも、誰かのお葬式に行っただろうか?

 受話器を置きながら、ふと、そんなことを思いだして首をひねった。

 そのまま少し思い出そうとしてみたが、今はそれどころではない。


 手始めにストーブをつけ、実家に戻る準備にとりかかった。



こちら、電話番号を押し間違えるという表現がありますが、時代設定は平成16年頃です。

家電がまだどこの家庭にもあった時代と捉えていただければ幸いです。


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