15/19
15 宴の残り香
それから数日たって、月枝は自分の家で目を覚ました。
最初は、全部、夢だったのかと思った。
けれども居間のカレンダーはいつのまにか四月になっているし、手と足に包帯が巻かれていて、少し痛んだ。
家には母と日向子がいた。
三月いっぱいで退院したのだと教えられた。
「明奈ちゃんは?」と訊くと、「あなたたちは、北長沼の駅の周りを散歩してたおじいさんに助けて貰ったのよ」と言われた。
駅の周りを散歩……。
あの雪の日に……。
ふと、汽車の中で会った老人を思い出した。
南幌から乗り込んで双葉で降りた老人だ。
彼は一駅ごとに昇降を繰り返して、駅の周りを散策するのだと言っていた。
それで幸運にも、見つけてもらえたらしい。
「そのおじいちゃんね、機関車の話してくれたよ。面白かったなぁ」
「そう……」
母があいまいにうなずいたとき日向子が泣いたので、母は日向子のところへ行ってしまった。
その日はもう遅かったので、やわらかいおじやを食べて、明日、明奈の見舞いに行こうと思いながら床についた。