スライムは基本
駆け出しの依頼失敗やら登録しに街に来てスリにやられただのの救済措置が少額貸付だ。まさしく『互助組合』だな。ただ現金そのものだと審査は厳しくなるらしい。魔法使いの必要最低限の特殊アイテム用とか、理由が明確であるべきだそうな。登録低ランク冒険者は期限切れかけの備蓄食やら二束三文の装備も分けて貰え、そちらも少額貸付枠だそうで、じゃあいいかとオレはそっちにした。
ギルド内の談話スペースで堅くボソッとしたビミョーな甘さの焼き固め保存食をモソモソかじる。
何で制度名が少額貸付なのか理解できた。これじゃ金借りた方がマシだ。ハラは膨れるだろうがなあ。
哀しくなったので、なるべく早く稼ぎたい。
、、、
ギルドの宿泊室(フロアぶち抜きの雑魚寝部屋)で夜を明かしたあと、まずはテイムについて調べる。神から与えられたスキルな以上、何かあるはずだからだ。
貸し出ししている低級テイムモンスター図鑑で目についたのは、スライムだった。挿絵では大きさは人間の大人が一抱えするくらいのグミみたいな風体だ。『初心者〜』とあり、他の『初心者向け』と表記が違う。
「なんでスライムは記載が違うんです?」
「そこらにいてスキルなしでも誰でもテイム可能だけど、変化の幅が違います。冒険者なら硬くなるよう仕込んで簡単な武器や罠になる飼い方が多いですが、許可を得て毒持ちに育て錬金薬の材料を産ませたり、幅広い運用が出来ます」
これを聞いて直観が働く。あるいは実際神の啓示なのか。
「スライムのテイムに向いてる場所ってあります?」
、、、
スライムが湧きやすい郊外の平野でオレは個体を見繕っていた。トイレなんかの汚物処理にも使うとの事で、街の主婦やら貴族に依頼されたとかいう冒険者やらでカオスだった。はじめてのぼうけん、みたいなノリの子供集団までいる。それだけここのは危険性が低いんだろう。
と、しばらく待っているとドスン、と音がする。他のスライムのポヨンという跳ねる音より重たい。原っぱの草がすり潰された青臭い香りがする。
「ギガだ、ガキは下がれ!」
冒険者の声で細身の主婦なども下がり、オレのようないかつい奴が残った。
ギガントスライム。スライムが身を守るため合体した特殊派生個体。大きさは変わらないが、密度がかなり高い。頭に当たっても普通のスライムなら子供でも即死はないが、こいつは大人の骨を軽くへし折るパワーがある。土手っ腹にモロに貰っただけでオレでも危険だろう。
こいつを待っていた。
オレは取り囲む冒険者たちの横に並ぶ。
「テイムするチャンスをくれないか」
冒険者登録証を見せる。木で出来たギルドの焼印がある簡単な腰牌に近い。
「冒険者は自己責任、分かってるな」
死んでも大怪我でも知らん、てことね。駆け出しなのを理由に断られなくてよかった。
オレはスライムに向き直る。
「こいや。来ないならこっちから……」
低く腰を落とした構えに対し、スライムは顔面への突進を選ぶ。オレは顔面のまん前で掴み、受けた勢いのまま後ろに転がる。投げ飛ばすと包囲する冒険者に飛ぶので、回転の勢いで草地にこするバックドロップのように叩きつける。
スライムから即座に手を離し腹筋を曲げて起きあがると、スライムに向き直って煽る。
「どうしたァ!来いや!」
挑発だと分かる程度の知性はあるのだろう。脛をぶち折りに来た低空飛びをあん馬のように股開きジャンプで回避、ケツに敷いてやる。
触手状になった身体が伸びて来たので、前転で離れてから触手の打突は回避あるいは裏拳などで弾く。触手は伸ばしてるせいで密度が下がると図鑑に書いてあったので、普通の殴り合い感覚で捌ける。
業を煮やしたか触手を1本にまとめての薙ぎ払いがくる。流石に危ないので根元へ駆け寄り回避。根元なら速度も下がる。
スライムの表面がうねる。どうしたらいいか混乱したらしい。
「輪を広げてくれ!投げる!」
「! みんな、もっと後ろに!」
見物と化していたスライム採りたちを下げて貰い、畳んでいない太い触手を半ばから掴み、一本背負いをかける。
この一撃でコアが激しく揺れたのか、スライムは文字通りだらんと伸びた。
「やるじゃないか!」
冒険者の称賛の声と共に拍手が起きた。