お姉様、ピンチです!
「あ〜ん、もう行っちゃうのお?」
「他にアクセサリーとかいらないのお?」
採寸も終わり、一行が帰ろうとすると、カリーナとミーシャは名残惜しそうに言った。それを見たセイラはため息をついた。
「服が完成したら連絡してください。取りに行きますから」
「でもお…」
「取りに行きますから。また、後日に」
「「はあ〜い」」
そんなやり取りを聞いていたアリスはディアナの方を向いて無邪気に笑った。その笑顔に返すように、ディアナも笑った。
平和だなあ…お姉様と一緒にお出かけができたし!後は、あの事件さえ…
「アイツさえ…」
「?」
アリスがボソッと呟いた。
肝心のディアナは気に留めることもなく、馬車はグロリアス邸へと出発した。
* * *
「アリス!どんなドレスになるか楽しみね」
「…」
屋敷に近づくたびに、アリスの気が重くなっていった。
「アリス!」
「…!」
「どうしたの?体調でも悪い?」
「ううん!大丈夫!絶好調なくらい!」
「なら良いんだけど、無理しないでね?」
「ありがとう!お姉様」
屋敷に着くと、門の前に皇族紋がついた豪華な馬車が止まっていた。アリスは怒りと殺意を顕にし、顔を歪ませた。ディアナは恐怖を覚えていた。
何か、良くないことが起こるような…
屋敷の中に入るなり、ディアナはレグルスに呼び出され、応接間に行った。厳しい顔で座る父、第二皇子“アレクセイ・テュラノンス”― ディアナは絶句した。奈落の底に落ちたかのような絶望と、走馬灯のように脳裏を駆け巡る先程までの楽しい記憶…
「ディアナ、座りなさい」
レグルスも理由のわからないような表情をしていた。ディアナは無言で、レグルスの隣に座った。
「本人も揃ったからな、もう一度言う。父からの命だ。グロリアス家の長女、ディアナ・グロリアスを婚約者としたい」
正面から見ると更に威圧を増す美貌。皇族らしい、自身に満ち溢れた金色の瞳。ディアナの全身から、汗が吹き出した。
“したい”と言っているが、実質は、皇族からの命令。婚約しろ、と命令しているのだ。流石のレグルスも認めるしかなかったのだ。
「今、剣と門には私と近い年齢の女性はいない。翼にしかいないのだ」
「承知しました」
レグルスは、グロリアス家当主としての威厳を放ち、まっすぐと皇子の顔を見て言った。
「ディアナ嬢はどう思う?」
ディアナは緊張していたが、姿勢を正し、隠すように笑顔を作って言った。
「私には、貴方様にものを言えるような権利はありませんから」
「そうか」
「はい」
* * *
“アレクセイ・テュラノンス”が帰り際、馬車に乗り込む直前に言った。
「後日、また使者をよこす。正式な婚約者となる手続きをする」
「承知しました。それでは」
「うむ」
皇子が帰ってもなお、ディアナの震えは止まらなかった。皇族と婚約、ということは皇国中の女性が憧れることだったが、ディアナは違かった。
「お姉様、大丈夫?」
アリスが声をかけると、ディアナは今にも泣きそうな顔でアリスに抱きついた。その様子を見て、アリスは1回目と2回目の今日を思い出した。
あの事件、起こっちゃったよお!
1回目は、婚約の話が来たとき、お姉様は大喜びで承諾した。多分、王命でも必要とされたのが相当嬉しかったから。2回目は、仕方が無いからと黙って承諾したけれど、結局はアイツのことが好きだった。今回は、震えてた… っていうか、なんで必ず来るんだよ…
「…ウィル…」
「?」
アリスは何か、見落としていることが無いかと思った。2回目は、1回目とあからさまに違う行動を起こしても大きな変化は訪れず、結果的に同じになってしまっていたのに対し、今回は上手く行き過ぎていることに気がついたのだ。
「お姉様、“ウィル”ってだあれ?」
「…ん…」
「大丈夫!誰にも言わないから」
「…本当?」
ディアナがほんのり顔を赤らめた。そして、どこかを見つめながら静かに言った。
「私の…好きな人っ」
アリスは目を見開き、ディアナを凝視した。恋する乙女のように両手を頬に当て、喜ぶ姉の姿に驚愕した。
嘘…っ!お姉様の好きな人!? 1回目も2回目もそんな人いなかったような… “ウィル”って、聞いたことのない名前… もしかして、もしかしてだけど、、私が行動するよりも前から、この世界に変化が起こっていたというの!?もし、そうだったら… 誰か、私と同じように繰り返している人がいる…?
“剣” “門” “翼” は、三大貴族と呼ばれる家の別称
“剣” ガーディナー家 (代々近衛騎士の家柄)
“門” オルディナルド家 (商売上手 貿易で成功)
“翼” グロリアス家 (大魔法使いの一族) です
* * *
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