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お姉様、安心してください!

 「…どうして…?」


ディアナは桜の部屋の中で泣き崩れた。

* * *


 真夜中に目を覚ましたディアナは寝ぼけた状態で桜の部屋に行った。彼女は、きっと桜の部屋がアンジェリカの部屋になっているだろうという事を理解しつつも、それを認められない、信じられない自分がいた。そうして、アクアブルーの首元にホワイトのファーがついたローブを身に纏い片手にキャンドルを入れたランプを持ってそっと部屋を出た。初春の屋敷内は冷え、静まり返っていた。


「誰1人も起きていないのよね…?」


ディアナは足早に2階まで降りて行った。

 桜の部屋の前に着いたディアナは中に入るのを躊躇ためらっていた。扉は閉まり、中からは人の気配はしなかったが、もしも部屋の中が片付けられていたら、アンジェリカの部屋になっていたら、と考えると恐怖で仕方がなかったのだった。それでもディアナは必死にトキワの面影を探すように部屋に入った。


 「…嘘でしょ…?どうして…?」


ディアナは部屋の中で泣き崩れた。


 彼女は部屋に入ってすぐさま、部屋中をランプで照らした。トキワの私物は一切、移動させられたり片付けられたりしておらず、ついこの前までこの部屋で過ごしていたかのようにそのまま残っていた。

 部屋に残る微かなカモミールの香水の香り、机の上にある開きっぱなしの本と薔薇が生けてあるガラスの花瓶…

それら全てがディアナのトキワとの記憶を呼び覚ました。


「あ、ああ…あっう、うああああ…っ!」

 「お姉様!?」

「ディアナちゃん!?」

「ディアナ!」


アリス、アンジェリカ、レグルスが必死の形相で桜の部屋に入ってきた。

そして泣き崩れたディアナの元に駆け寄った。


「ディアナ!大丈夫か?どうした!こんな真夜中に!」

「ディアナちゃん!ディアナちゃん!何があったの?」


3人に囲まれながらも、ディアナは声を上げて泣き続けた。

* * *


 「昨夜は何故…あの部屋にいた?」


朝食を食べ終わり、紅茶を楽しんでいたときだった。

ディアナは泣きじゃくったことで目が赤くなり、涙の跡が残っていたが、レグルス、アリス、アンジェリカも目を赤くし、目元には隈まで出来ていた。


「…ごめんな、さい…」


ディアナは目を伏せた。


「いや、そういう事ではなくてな、その…何と言って良いか…」


レグルスがそんなディアナの反応を見て困っていたところ、アンジェリカが微笑みながら言った。


「レグルスはディアナちゃんの事が心配で仕方がないのよ」

「えっ?」


ディアナは意外な言葉に心の底から驚いた。


 アンジェリカ様とアリスを連れてきたお父様が私の事を心配で仕方がない、の…?


ディアナがレグルスの方を見るとレグルスは気まずそうに顔を伏せた。正面を向くとアリスとアンジェリカはニコニコと笑い、セイラの方も見ると、さあ?自分で確かめてください、と言わんような顔をしていた。


「…お、お父様…」


ディアナが怯えながらもレグルスに聞くと更にレグルスは顔を逸らした。すると、


「旦那様?」


あからさまにレグルスに向けられた尋常じゃない量の殺意に彼はゆっくりと顔を上げた。彼の目に写ったセイラは死神や魔神、魔王とは比べ物にならない程に恐ろしい笑みを浮かべていた。


「セイラ…目が笑っていないぞ…」


レグルスが顔を上げ、ディアナと目があったとき、ディアナは父親の考えを知ろうと、覚悟を決めた。


「お父様!私は、ディアナは知りたいです!本心を教えてくださいっ!」


彼は娘の意思がはっきりした言葉に面を食らったような顔をした。それから少し考えたようにして話を始めた―


 「トキワが体調を崩してから3ヵ月が過ぎた頃、余りにも良くなる兆しが無かった。医者に診てもらいに行ったらあと1年持つかどうかといったところだった。それを聞いてからというもの、俺とトキワは話をした。これからの生活と―ディアナ、お前の事だ。

 トキワはお前の事を一番に考えた結果、精霊子であるアリスの事を承知の上で、もし、彼女が死んだら第二夫人であったアンジェリカを屋敷を招くという事になった。少しでも寂しさが無くなるように、いつまでも自分の事を引きずらないようにといった思いからだ…それからは手配を進めていったのだが、いつ話せば良いのかが分からないまま、8ヵ月後、トキワは死んでしまった…ディアナ、本当に悪い事をしたな…すまない…」

 

 ディアナは話を聞いて、また、泣きそうになった。全てお父様のせいだ、大っ嫌いと思っていた自分の為にこれほどしてくれていたのだった。周りからの目や言葉もあっただろう。それでも尚、ディアナの事、トキワの思いを考えて行動してくれていたのだ。更に、何故アンジェリカに連れ子がいるのかと思っていたが、精霊子だったとは。

ディアナの気持ちや考えが洪水のように溢れ出し、涙が流れた。


「お父様、ごめんなさい、ごめんなさい…っ」


レグルスも頭を下げ、言った。


「俺こそ、何も言わずに…」


そして、静かに立ち上がり、泣いているディアナを後ろから抱きしめた。


「…辛い思いをさせた…本当に、すまない…っ」

* * *


 「どうしてお姉様は桜の部屋で泣いていたのかな?」


アリスは自室に戻り、本を読みながら呟いた。


 2回目のとき、お姉様は桜の部屋がそのまま残っていた事で私が勝手にやった事だと、怒りのあまりお母様と私の部屋を魔法で燃やしちゃった。その後は心境に変化があったのか、“あの事件”は起こらなかったけど… 大きな変化があったって事は、もしかしたら…


「よし!もっと頑張るぞ〜っ!」


アリスは本を机の上に置き、立ち上がって大きく伸びをした。


「?」


その部屋の前を偶然通りかかったオリビアは主人アリスの大声と変な行動を、見なかった事にして立ち去ったのであった─

“桜の部屋”や“柘榴の部屋”はトキワがこの屋敷に来た際につけた計9室ある洋室の名前です トキワの好きなものの名前をつけており、レグルスの自室は“鈴蘭” ディアナの部屋は“雪月花” アリスの部屋は“水晶” アンジェリカの部屋は“柘榴”です ちなみに部屋付きの使用人や執事長などにも部屋が与えられており、セイラの部屋は“夜鴉よがらす” オリビアは“夕暮” レグルス付きの執事であり執事長の“アルバ”の部屋は“金狼” アンジェリカ付きの侍女(トキワ付きでもあった)であり侍女頭の“イザベラ”の部屋は“真珠”です もう1つの部屋“桜”はトキワが生前使っていたときと全く同じ状態で残っています

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