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お姉様、お部屋決めです!

遅くなってすみません

 夜、星は1つも見えず不穏な天気の中、屋敷の一室に明かりが灯っていた。


「セイラ、ディアナの様子は?」


グロリアス公爵“レグルス・グロリアス”が執務室でセイラにディアナの様子を聞いていた。セイラは表情を暗くして首を振った。


「今は眠っておられます。しかし…精神のダメージは大きかったそうで、ずっと泣いておられました。」

「そうか…」


レグルスは俯いて、組んでいた手により力を込めた。その姿には威厳は無く、ただ単に娘を愛し、心配する父親があった。セイラはそんなレグルスに多少ながら怒りを覚えた。


「ディアナお嬢様の事を考えての行動でしたら、些か無神経だったかと。相談も何も無しに…まして、子がいる第二夫人を連れて来るなど…」


レグルスの肩がピクッと反応した。そして、彼は片眉を上げ、冷徹な表情で溢れんばかりの殺意が籠もった視線を向けるセイラを睨みつけた。

 この国、ユンラウス皇国では一夫多妻制(その逆、“一妻多夫(いっさいたふ)制”も然り)が認められている。多くの貴族は第一夫人とは生涯のパートナーであるため、家庭をつくり、共に過ごす。しかし、第二夫人以降とは政略的な、形式上だけでの夫婦であり、実際は単なるビジネスパートナーという事が多い。アンジェリカとアリスの場合、アリスはレグルスとアンジェリカの間に精霊が授けた“精霊子”であるため、“子を成した”と言われるのは間違いであったが、異母姉妹であることに違いは無かった。


「父親であるのならば、ディアナお嬢様に真意を伝えるべきです。」

「…いずれ話す。」

「そうですか…それでは、失礼します。」


そう言ってセイラはお辞儀をした後、レグルスにありったけの殺意を向け、足音1つ立てずに部屋を出た。


「…分かっている…」


 「…」


ディアナは泣きつかれて寝た後、2時間程経ったときに目が覚めた。そして気分転換にと屋敷内を散歩していた際にセイラが執務室に入るのを見かけ、ずっと部屋の外から2人の会話を聞いていたのだった。


「…やっぱり…」

* * *


 次の日、ディアナは久しぶりにセイラに髪を整えてもらっていた。


「本日は旦那様が家族全員で朝食を摂ると仰っておりましたので。無理はなさらないでくださいね」


セイラは妹に対するような、優しい口調で言った。ディアナはそんなセイラの優しさに少しながら心が救われていた。


「ねえ、セイラ…」

「どうなさいましたか?」


セイラは手を止めずに鏡越しにディアナを見た。


「もし…私がこの家から出たいと言ったら、貴女は着いてきてくれる…?」


ディアナも鏡越しにセイラを真っ直ぐと見つめた。しかし、そのすぐ後に「ごめん、嘘、嘘!」と下手な笑顔を作った。


「着いていきますよ」


セイラは真剣な表情でディアナを見つめた。ディアナは想定外の言葉に驚き、振り返った。


「昨夜、話を聞いていたのですね」


ディアナはバレていなかったと思っていたが、セイラは執務室内でレグルスと話していた間も、ディアナが部屋の外で聞き耳を立てていたのを勘づいていたのだ。


「どうして…?」

「仮にもディアナ様付きの侍女ですよ?何でも知っています」


セイラは意地悪っぽい笑みを浮かべ、動かないでください、とディアナの頭を正面に向かせた。ディアナはムスッとした表情になり、椅子にズルッと深く座り込んだ。


「ドレスが乱れますよ?」

「はいっ!」


 「ありがとう、オリビア!綺麗な花飾りね!」


アリスは連れてきた侍女のオリビアに髪を整えてもらい、心が躍っていた。


 今日は私とお母様のお部屋決めの日ね…確か、1回目はお母様がトキワ様の部屋を使う事になって、トキワ様の物が物置に移動させられてしまったから、3日間も部屋に籠っちゃったんだもんね…それでお姉様が闇魔法に目覚めて、悪役令嬢ルートが始まってしまうんだものね…2回目と同じようにするか…


 ディアナは緩く編まれた三つ編みにミッドナイトブルーのドレスを着てダイニングルームに入ってきた。

楽しそうにアンジェリカと話していたアリスはディアナに気づくと食事の手を止め、蕾が綻ぶように笑った。


「お姉様、おはよう!今日は髪を編んでいるのね!ピンク色の花の髪飾りも綺麗!」


アリスは淡いピンクのドレスに身を包み、髪はハーフアップに紫と黄色の蝶のバレッタがついていた。


「…ええ…」


ディアナはそんなアリスを不快に思い、目を逸らして自分の席に座り、食事を始めた。

 そこからは全員が食べ終えるまでディアナとレグルスは一言も言わずに無言で、アリスとアンジェリカは楽しく会話をしながらと温度差が目立つ、気まずい時間が流れた。

 全員が食事を食べ終わり、紅茶を味わっていた時だった。


「アリス、アンジェ、客間は不便ではなかったか?」


とレグルスが尋ねた。


「ええ、不便はありませんでしたわ」


アンジェリカが紅茶のお代わりを貰いながら答えた。アリスは何とも言えない、何かを考えているような顔で


「大丈夫だったよ」


とだけ答えた。


「それでは、正式な部屋を決めたいのだが、“4つ”部屋は空いている」


ディアナの方を確かめるように見ながら言った。

4つの部屋、即ちトキワの部屋だった もの も含んでいる。ディアナはそれに気づき、俯いた。


「お父様、気分が悪いので先に部屋に戻ります。」


そしてすぐにそう言ってディアナはセイラと共に部屋に戻った。

アリスがディアナがダイニングルームを出たのを悲しそうに見つめた後、レグルスに耳元で何かを囁いた。


「…お父様!私―」


アンジェリカが察し、アリスに微笑んだ。


「アリスはどこの部屋が良いの?」

「私、お姉様の隣の部屋がいい!」


レグルスも優しく笑い、そうだな、と言った。


「アンジェは?」

わたくしは―」

* * *


 ディアナはベッドに座り込み、涙を流していた。その様子を見たセイラはあえて部屋に入らず、静かに扉を閉めた後、再び階段を降りていった。


「旦那様は何のつもりなのでしょうか…」


セイラが一階に戻ると、既にレグルスらはトキワの部屋に移動していた。アンジェリカとアリスが話をし、レグルスは使用人らに指示を出していた。


「旦那様…!」

「どうした?」


レグルスが無表情で振り返った。


「トキワ様の部屋をアンジェリカ様の部屋にするおつもりですか!」


レグルスがセイラを突き放すように言った。


「お前はトキワが連れてきたとは言えどただの使用人。口答えとは立派になったものだな。」


セイラは侍女にするにしては勿体無いほどに美しい顔を怒りで歪ませた。それから深くお辞儀をした。


「畏まりました。失礼致します。」


それから何事も無かったかのように他の使用人らと一緒にアリスの荷物を各々の部屋に運び込み始めた。


 旦那様の考えている事が何とも分からない…寵愛なさっていたトキワ様の部屋をアンジェリカ様の部屋にするとは考えられない…


 アンジェリカの荷物も運び込もうとした時、レグルスが再び指示を出した。


「アンジェの荷物は“桜の部屋”ではなく、“柘榴の部屋”に運べ。」


使用人らは驚いたものの、顔を見合わせ、一気に胸を撫で下ろした。


「良かった〜ディアナ様をこれ以上悲しませたくないものね」

「アンジェリカ様に感謝だな」

「トキワ様の物は残しておきたいしな」


手際良く荷物を運びながらも使用人全員が少しばかり笑顔になった。セイラもほんの少しだけだったが、表情が柔らかくなった。

未だに“ファンタジー”にするか“恋愛”にするのか(ジャンル)を悩む次第

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