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お姉様、初めまして!

 とある公爵家の屋敷。そこには正門に黒い薔薇の装飾が飾られ、“トキワ・グロリアス”公爵夫人の葬式が行われていた。透き通るような白銀髪と金色の瞳を持ち、“月の女神”と呼称されていた彼女の葬式には一族だけではなく、皇族や国中の者が来たそうな。

 そのような中、屋敷の一室に明かりもつけず、1人の少女がいた。


「…お母様…」


目に涙を浮かべた少女の名は“ディアナ・グロリアス”と言った。部屋の角に座り込み、虚な視線で虚空を見つめていた。

* * *


 それから早、3週間が経った。

少女はトキワと瓜二つの天真爛漫な美少女であった。しかし、今はすっかりその面影は無く、人形のように人と会話する事が全く無くなった。


「ディアナお嬢様、セイラでございます。旦那様がお話があるとお呼びです」


ノックの音の後、ディアナの部屋付きの侍女であり、トキワが孤児だったのを連れてきたセイラの落ち着きのある声が扉の向こうから聞こえてきた。


「…分かった…」


久しぶりに出した声は低く、枯れた声だった。

ディアナの唯一の家族であった父親は母親が死んでからは家を空けることが多くなっており、ずっと口も効いていなかった。


 突然、何の用なの?


怒りを覚えていたが、久しぶりに顔を見てみるのも悪くは無いと、3週間振りに部屋から出た。


 「ディアナ、体調はどうだ?」


久しぶりに見た父親は何故か目元にくまができ、やつれていたが威厳は相変わらず健在だった。そして、その背後には見慣れない女性とディアナより少し年下の少女が、立っていた。


「…お久しぶりです。お父様はお元気そうで。それで…突然呼び出して何の用でしょうか?」


お辞儀をし、自分なりに無表情を作った。人前に出るにしては髪もぐちゃぐちゃで目は泣き腫らして赤くなっていた。しかし、ディアナはこの呼び出しが自分にとって大きな変化が及ぶものであろうという事が9歳ながらにして理解していた。

 父親はほんの少し躊躇いを見せた後、コホンと咳払いをして言った。


「新しい母親と妹だ。仲良くしなさい」


ディアナは覚悟はしていたが、父親がそんな事をする筈が無いと信じたかった事が現実になった事に理解ができず、ただただ絶望していた。


 嘘…嘘でしょ…?お母様が死んだばっかりなのに…信じられない…


その時、絶望の末にディアナには初めて父親と“新しい母親と妹”とやらに対する殺意が湧いた。


 …この3人は邪魔…


 「お母様!この方がお姉様なの!?なんて美しいの!?キラキラと輝く白銀の髪にその瞳!何に例えられ

るかしら?アメジスト?タンザナイト?ヴァイオレットサファイア?いや、アメトリンね!とにかく綺麗な紫色!私も同じ紫色の筈なのにお姉様の方がずっと綺麗!“月の女神”みたい!」


突然、その女性の背後から現れた少女にディアナは呆気にとられた。確かにディアナは母親似である白銀髪と、母親の金色の瞳とも父親の紫色の瞳とも近い金色かかった紫色の瞳が大のお気に入りであり宝物だった。しかし、そのような風に褒められた事は一度も無かった。ディアナは褒められて嬉しくなり、ブランドの緩いウェーブがかかった髪にピンクに近い、大きな紫色の瞳を持った少女にすっかり見入ってしまった。


「こら、アリス。はしたないわよ。挨拶をしなさい」


新しい母親の声で、目を輝かせてディアナを見つめていた少女は我に帰り、不慣れなのか、ぎこちないお辞儀をした。


「は、初めまして!お姉様!私はこの度お世話になります!“アリス・グロリアス”と申します!よろしくお願いします!」


明るい、無邪気な声だった。が、その言葉を聞いて再び絶望が蘇った。“グロリアス”。この2人が母親と妹になる事を指していた。ディアナにはアリスの無邪気な笑顔が皮肉に見えてきた。


「初めまして、ディアナちゃん。“アンジェリカ・グロリアス”と申します。これからは家族になるわ。本物のお母様だとは思わなくても良いけど、困ったら頼って欲しいわ。よろしくね?」


アンジェリカは微笑んでからしゃがみ込み、ディアナの手を取って丁寧に包み込んだ。その手は実の母のように温かく、優しかったが、ディアナにとってはトキワを思い出す要素でしか無く、その手がトキワのでは無い事に更に絶望と怒りが込み上げ、ついに限界に達した。


「…いらない…」

「ん?」


ディアナがボソッと呟いた。アンジェリカが不安気に俯いたディアナの顔を覗き込むと、その目には大量の涙が溢れんばかりに溜まっていた。ディアナはアンジェリカの手を振り払って大声で言い放った。


「…ふざけないで、あなた達なんていらないっ、新しいお母様も妹も!どうせ、他人なんでしょっ?お母様を返して!お父様も大っ嫌い!3人とも屋敷から出てって!いらないっ!」


そう言って、ディアナは階段を駆け上がっていった。3人はこの事を予想こそしていたが、去っていく背中を見て悲しそうな表情を浮かべた。


 …褒められて喜んでる場合じゃ無い…ふざけないで…大っ嫌い…大っ嫌い…!


ディアナは階段を駆け上がり、自分の部屋に戻った。部屋では整理をしていたセイラが驚いた顔でいたが、構わずベッドに飛び込んで泣き出した。


「…お母様…」

* * *


 「今生でもやっぱり、お姉様は麗しいのね!…でも…1回目のときと全く同じね…?もっと頑張らなきゃ…“お姉様が悪役令嬢になるのを防ぐためにも”…」

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