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お姉様、コイツは嫌いです

 「それで、最近の様子はどうなんだ?ディア?」

「ええっと…」


応接間で、まさに貴族の子息、子女らしく優雅に紅茶を飲みながら、話し合う2人。笑顔で話すディアナの隣には、病人かと疑う位に顔色を悪くしたアリスが座っていた。


「アリス、体調が悪いなら、部屋に戻って休んでいてもいいのよ?」

「いいえ!お姉様の隣に居たいので!」

「無理しないでね?」

「もちろんっ!」


 お姉様から離れたら…何仕出かすかわからないし…


アリスがチラとヴィルクを見ると、ディアナの手前か、優しい笑顔を浮かべていた。しかし、アリスと目が合った瞬間、口角は上がっていても、目だけは鋭く冷たくなった。アリスは反射的に目を逸らした。


 これじゃあ…ウザギとライオンみたいな関係じゃ…?


追い詰められたウサギのように怯え、震えるアリスを今に食べんとするライオンの如きヴィルク。

想像したアリスは頭を抱え、ソファーにめり込む程深く座り直した。それを見て、ディアナは吹き出した。


「アリス、そんなに怯えることは無いわ。ウィルは貴女を取って食べたりしないもの」

「お姉様ぁ……っ」


 違うんだよぉ…!!食べられたりはしてないけど、実際に投獄されたりしてるんだよぉ…!


「本当に仲がいい姉妹だね」


ヴィルクも笑っていた、目は笑っていなかったが。

アリスは更に縮こまったが、それを見てヴィルクは決まりが悪くなり、足を組み直した。そして、何故…と呟きながら、首を傾げた。


「…アリス嬢は…」

「!?」


突然、自分の名前を呼ばれ、アリスは心底驚いた。それと同時に勢いで姿勢を正した。


「ひゃいっ!何でちょうか!?」


 …噛んだ…(´・ω・`)


ヴィルクもディアナも一瞬、表情が固まった。


 アリス…今…噛んだ、、わね…?

 

 噛んだ…めっちゃ噛んだ…


アリスは気を取り直し、もう一度、丁寧に言い直した。


「はい、何でしょうか?」

「あ、、ああ…うん……」


場が再び凍る。どうだ、言い直したぞ、と言わんばかりのドヤ顔で座るアリスの後ろで、セイラとオリビアが必死に笑いを堪えていた。隣で座るディアナも、やっと理解が追いつき茶菓子のマカロンに手を伸ばす。


「アリス様…場が凍っておられます」

「…うん…ソダネ☆」

* * *


 「それで、何か私に用ですか…?ええっと、、」

「ヴィルクでいいよ。っていうか、ちゃんとした挨拶をしていなかったな」

「…ええ、そうでしたね……」


アリスの目は泳いでいた。トラウマになっている人から挨拶をされるのは気まずかった。そして、アリスはヴィルクのことをあまり知らなかった。

ヴィルクは、騎士のように姿勢の良い、綺麗なボウ・アンド・スクレープをした。


「改めまして、三大貴族が一つ、“剣” ことガーディナー公爵家長男、“ヴィルク・ガーディナー”と言う。以後、お見知り置きを」


アリスも、何年もやったかのような洗練されたカーテシーをした。


「こちらこそ初めまして。三大貴族 “翼” グロリアス家次女の“アリス・グロリアス”と申します。よろしくお願いいたします」


 アリスがお辞儀をしていた頭を上げると、ヴィルクはソファーに足を組み、頬杖を付き、如何いかにも偉そうに座っていた。


「それで… 君は黙ってディアと第二皇子の婚約を見ていた訳か。」


 ん…?意味がわからん……


アリスはディアナの方を向いたが、ディアナだけでなく、セイラとオリビア、ガーディナー家の使用人らさえも既にいなかった。再びヴィルクの方を見る。暴君のように座り、アリスを殺意の籠もった冷たい目で睨みつける。


「使用人とディアには席を外してもらった」

「…っ!何でっ!」

「聞かれたら都合が悪いからさ」

「都合が悪いって…っ!」


アリスは感じていた違和感―それの正体をやっと理解した。そして、ヴィルクを、“あの時のように”めつける。


「あの2人の婚約が、今後どの様になるのかを知らない訳ではないだろう?忘れた、とは言わせないぞ?

 ディアを悪役令嬢にして断罪し、国家もを狂わせた“アリス・チュラノンス”王弟妃殿?」

“ボウ・アンド・スクレープ”とは?

 目上の人に対して行う、男性の伝統的なお辞儀のこと

 ヴィルクは、同じ公爵家でもディアナに敬意を払って行いました

 “カーテシー”はその女性verです

* * *


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