表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残影の追放者 〜追われし者よ、どうか良きヒトの世で〜  作者: 諸葛ナイト
青血のヒト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/133

ブルーブラッド

 ユラシルが放った虫たちの多くが同じ方向へと集まっていく。

 彼女はその不規則な動きを目で追いながら、虫たちとの繋がりを通して感じる異変に集中していた。


 緊張と確信が混じり合った顔で叫ぶ。


「っ、あの路地です!」


 走りながらユラシルが指差した先をシミッサは見つめる。

 バンリッドにいくつもある路地の1つ。

 昼夜関係なく建物の影になっているその場所で起こっていることなど普通は見えない。


 しかし、それは魔術を使えば解決できる。


「ヘインジェン!」


 立ち止まったシミッサが発動させたのは透視の魔術。

 はっきりと見えるわけではないがその輪郭やちょっとした状況を見るぐらいならば十分だ。


「……ッ! いる!

 3人、でも1人倒れてる。1人はその近くで腰を下ろしてて、最後の1人が立ってる」


「ローグ、たぶん倒れてないやつらが」


 ゾーシェの言葉にローグは頷いた。


 もしギルドで依頼を受けた者ならば呼子笛で発見したことを告げる符号が響くはずだが、ないということは犯人か偶然居合わせた住人。

 しかし、住人であればなにかしら声が上がるはずだ。


 それらがないということは導き出せる答えは1つ。


「恐らく犯人だ」


「あまりにも急な事態ではあるがそれは相手も同じ……どうするローグ」


 ライセアの質問に手早く思考をまとめたローグが指示を出す。


「俺とライセアが屋根から奇襲を仕掛ける。

 ユラシル、ゾーシェ、シミッサは表通りへの道を塞いでくれ」


「わかった。絶対にここでとっ捕まえてやる」


「はい。これ以上誰も殺させません」


「……うん。みんなで止めよう!」


 ゾーシェ、ユラシル、シミッサの意気込んだ様子を見て彼らは通りを進む。


 目的地の裏路地に近付くとローグとライセアは一息に近くの家の屋根に飛び移って静かに路地を覗き込んだ。

 そこにいたのは2人の女性エルフと首が切り落とされた倒れた男性ノーマ。


「本当に2人だけのようだな」


「ああ、屋根に見張りの1人ぐらいはいると思ってたんだけど」


 ローグは改めて犯人であろう2人のエルフを見てそれが間違いないことを確認して告げる。


「あっちの首を切り落とした方。あいつ肉屋の店主だ」


「なに!? では、もう1人のほうが妹か……。

 何か話しているようだが……暗くて口が読めんな」


 目を細めて唇の動きを見ようとしているライセアから少し離れたローグは通りにいるユラシルたちへ手招きをするように合図を送る。


 それを見たゾーシェはまだ残っているわずかな虫を操り、犯人と思わしき者たちへと迫らせていたユラシルに問いかける。


「どんな感じだ?」


「攪乱中です。いけます」


 ユラシルの答えを聞いたシミッサは頷くとローグに向かって両手で大きく丸を作った。

 それに腕を大きく挙げて答えたローグはライセアに目配せする。


「ライセア、仕掛けるぞ」


「わかった」


 短く言葉を交わして2人はそれぞれの得物を手に、屋根から躊躇うことなく飛び降りた。


 狙いは大雑把に体。

 一撃で仕留めるのではなく、動きを止める一撃。


 それを長髪のエルフは大きく後ろに跳ぶことでかわした。


(なに!? これを──)


(──かわせた?

 俺もライセアも当てるつもりだったぞ)


 奇襲は失敗に終わった。

 予想外のことに驚きはすれど戸惑うこともなく、横目で視線を交わせたローグとライセア。

 それだけで十分と言うように2人は合図がないにもかかわらず、ほぼ同時に地面を蹴る。


 先に放たれたのはライセアの一閃。

 長髪エルフの肉切り包丁で受け止められた。


 金属同士が擦れ合う耳障りな音が響く中、懐に入り込むように滑り込んでいたローグが腰に溜めたレーヴァテインを突き出す。


「ッ!」

 

 長髪エルフは腰に下ろしていた刃物のうち、刃が比較的長い筋引で弾く。

 衝撃でローグが後ろに転がると、そのタイミングを見計らったライセアが一息に長髪エルフを蹴り飛ばした。


 体勢を少し崩した長髪エルフへとローグが右側から駆け寄っては飛び掛かりながらレーヴァテインを振るう。

 それもするりとかわされ、中空にあったローグは襟を掴まれてライセアへと投げ飛ばされた。


 追撃を中断したライセアに受け止められたローグが呟くように言う。


「強いぞ。彼女」


「ああ、加減しているとはいえ、私たちの攻撃をああも簡単にいなされるとはな」


 ライセアの声には、わずかな興奮が混じっている。


 体勢を立て直したローグとライセアが剣を構え直し再び距離を詰めようとしたところで、長髪エルフの背後にいた短髪エルフが声を上げた。


「お姉ちゃん! これ以上騒ぎが続いたら、ッ!?」


 声を上げた短髪エルフは空気を穿つ音を聞き逃さなかった。

 目が見るよりも早く指が"それ"を操り、彼女の足を射抜こうとしていた矢を絡め取ってバラバラに切り裂く。


 放った矢が輪切りにされてシミッサは眉をひそめた。


(魔術? でもそれにしてはなんか静か過ぎるような……)


 その思考を中断させるように短髪エルフが叫び声を上げる。。


「くっ、邪魔を!」


「──するに決まってるだろ!」


 短髪エルフが何をしようとしていたのかゾーシェは気づけなかったが、それでも本能が反応した。

 地面を蹴り飛ばし、一直線に詰め寄っては迷いなく槍を突き出す。


 一撃で仕留めるという気概、そしてそれを可能とする技術を持って繰り出された正確無比な一撃。


「なに!?」


 体を穿つはずだったその一撃は、シミッサが放った矢と同様に短髪エルフの目前でピタリと止まった。


(ッ!? 槍が急に動かなくなった!?)


 ゾーシェに伝わる感触としては不思議なものだった。

 空中に固定されている槍だが不思議と浮遊感はある。

 このまま手を離してもそのまま空中に浮いていると感じられる感覚。


 魔術だと知識が言ったが、それを直感が即座に否定する。

 その感覚と自分の中で生まれた2つの感想に戸惑いを覚えるやいなや今度は本能が警告を上げた。


 それに従って槍から手を離して横合いへと飛び込んだ瞬間、先ほどまでゾーシェがいた場所の石畳に無数の切り傷が入った。

 同時に何かしらの力を失った槍が落ちる。


「……詠唱もなしにこんな魔術が使えるなんてな。どんな仕掛けだ?」


「触媒、かな。たぶんいっぱい持ってるだろうし」


「その可能性は高いですね。でも……」


 苦々しいシミッサの言葉にユラシルは同意しながら対峙するエルフを見つめる。


(そもそも魔術を新たに使ったような雰囲気はなかった。かといってゾーシェさんやシミッサさんのような特殊な力でもない……)


 魔族のような埒外の存在ではなく、アディターやオリジナルのようなそもそも立ち位置が違う存在でもない力。

 そう考えれば自ずと現象を起こしたのは魔術に限定される。

 

 だとしたら必ずどこかにそれを可能とする触媒なり仕掛けなりがあるはずだ。


(だとしてもそれは一体……あっ!)


 矢や槍の動きを思い出したユラシルはエルフの周りに目を凝らす。

 今夜は月が出ており、弱くはあるが風もある。

 この状況なら運が良ければ“それ”が見えるはずだ。


「ッ!!」

 

 ほんの一瞬、風が強く吹いてエルフの周りに張り巡らされている“それ”が月光を弾いてきらりと光った。

 それを見るや否やユラシルは声を上げる。


「ゾーシェさん、糸です!」


「はぁ!? 糸!?」


「なっ!?」

 

 ゾーシェにとっては突拍子のないこと、対峙する短髪エルフにとってはあまりにも予想外の看破からほぼ同時に驚愕を浮かべた。

 2人の反応に構うことなくユラシルは捲し立てる。


「魔術で糸を硬質化して操っているんです!」


 ユラシルは言いながら月明りを反射した糸を見つめて続ける。


「それを自分の周りに張り巡らせて……だから傍目には魔術の詠唱をしていないのに槍も矢も止められて、攻撃もできているんですよ!」


「原理としては蟲使いとかが使う魔力糸と同じってことね!

 ……それなら!」


 シミッサは矢尻で手の甲を切ってその矢を番る。

 弦がギリギリと引かれるのに合わせて矢尻についていた血が広がっていき、矢尻全体を覆っていった。


「みんな、ちゃんと避けてね!」


 忠告をしてシミッサは真っ直ぐに矢を放った。

 瞬間、ゾーシェは大きく後ろに跳び、長髪エルフと戦闘を続けていたライセアがローグの前に飛び出して唱えながら剣を振り下ろす。


「ウィンド・バースト!」


 ライセアの魔術が爆裂、風を起こすのに合わせてシミッサが放った矢の矢尻が弾け飛び、辺りに小さな刃を撒き散らす。


「まさか、その力は!?」


「お姉ちゃん!!」


 ゾーシェは範囲外に脱出、ユラシルと共にシミッサの後ろに隠れ、ライセアは自身が起こした暴風によってローグもろともに防いだ。

 小さな血の刃に飲まれたのは対処に遅れた2人のエルフだけ。


 刃物を扱うエルフに糸を操るエルフが覆い被さり、そんな2人へと刃が降り注いだ。

 壁や地面に血の刃が突き刺さって土煙が路地に広がっているため正確なことはわからない。

 だが、透視をするまでもなく致命傷を与えるに至っていないことをその場にいた全員が察していた。


「……ライセア」


「ああ、わかっている。

 だがダメージはあるはずだ。このま、ま……」


 魔族の力を使って放たれた小さくも鋭い刃の群れは糸を操るエルフの決死の防御によって致命傷自体は避けられた。

 だが、完全に回避することはできず、至る所に切り傷を作っている。


 だから、わかった。


「……まさか」


「そんな」


「実在、していたのか……」


 ライセアたちがどうにか言葉を紡いだ先にいた2人のエルフが流す血は。


 見たことがないほどに、どこか危うさのようなもの、本能的な拒否感を覚えるほどに青かった。


 ブルーブラッド──青い血を持つ種族。

 それは噂話ではなく、彼らの目の前に実在していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ