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帝都への道程

 ミィルフラー大陸にはダンジョンを所有する大国が3つある。


 大陸南東部にある豊穣と魔術の国、エルフの【ルイベ帝国】。

 南部の鋼鉄と鍛治の国、ドワーフの【ディザン王国】。

 そして、北東部の大海と貿易の国、フィシュットの【トーンシー皇国】。


 ルイベ帝国は土壌が良いため農業や酪農が盛んに行われているのに加えて、魔術が得意というエルフの特性からその研究にも力を入れている。

 国内の状況としては目立った反抗勢力もなく、国外に対しても中立に近い立場とそれを可能にする軍事力を有している。

 他大国もそれに近い状況だが、エルフの長寿のおかげかルイベ帝国はその中でも特に安定している国と言えた。


 今ローグ達が向かっている帝都とはそんなルイベ帝国の中心の都である。

 村を出て数時間後、平野を貫くようにできた街道を大鳥(おおとり)が荷車を引いていた。

 その荷車の積荷に紛れるように座っていたユラシルが御者席に座るメリスに声をかける。


「帝都ってどんなところなんですか?」


「アタシはあまり行ったことないからなぁ〜。女帝がいてとにかく大きくて店と人が多いってことぐらいしか……」


 メリスはそこで言葉を区切ると車の隣を歩くローグに視線で「そっちは?」と問いかける。

 それを受け取ったローグは少し考えるとポツリとこぼすように言った。


「飯が美味い。酒も美味い」


「食い気かよ……」


「ふふっ」


 メリスからは呆れたような冷たい目、ユラシルからの小さな笑いを受けたローグは気恥ずかしさに少し赤くさせると慌てたように付け足す。


「あ、いや、そうだな。あとはルイベのギルド本部があるな。っていうか俺たちの目的地はそこだ」


「ギルドの本部。そういえば、ギルドってなんですか?」


「ん? そんなことも忘れてるのか。

 そうだなぁ。仕事の請負所みたいなところだよ」


 ギルドという名前に聞き覚えはないが、メリスの言葉の意味をユラシルは理解できた。

 それがどのような方法なのか、制度についても謎や疑問はあるが同時に浮かんだ方を優先して彼女は口にする。


「仕事の請負所なのに村にはありませんでしたよね?」


「そりゃ、あの村はそんなに大きくないからな」


「村にはギルドの支部がないことが多いから、宿や旅籠が代わりをしてるんだ」


 ローグに言われてふと旅籠屋の内装を頭に思い浮かべる。

 そこで受付の正面に張り紙が数十枚貼ってあったことを思い出して「あー」とユラシルがこぼすのを見てメリスは話を再開させた。


「内容としては単純な労働、荷運びだとか畑仕事だとかだな。ダンジョンからも近いからそれ関連もある」


「ダンジョン以外の依頼もあるんですね。ちょっと意外です」


「報酬はそんなにないけどな。忘れた道具を買い揃えたり、1日2日泊まる分の金は稼げる」


 言葉を区切ったメリスはローグを横目に見やってさらに続けた。


「まぁ、探索者にとっちゃパーティの申請やらなんやらができないのは不便だろうけど、村人からしてみればそんなに依頼することはないからなぁ。あんぐらいでちょうどいいんだ」


 ギルド関連の話が少し落ち着いたが、帝都へはまだまだ時間がかかる。

 いくつか話をしてみようかと新しい話題を考えていたローグは気配を感じ、その足を止めて視線をバッと投げた。


 それに即座に反応したのはメリスだ。顔からは笑みを消し、真剣なものにしてローグに問いかける。


「獣か?」


「いや、この感覚はヒトだな。たぶん野盗だ。数は2、いや3人か。

 隠れている可能性もあるけど、さて……」


 行動を決めたローグは腰の鞘から短剣を抜き取ると調子を確かめるように軽く振った。


 数としては不利であるのに加えて護衛対象がいる。

 ユラシルは不安げな表情を浮かべて少しあわあわとしていたが、メリスの方はそんな様子はまるでない。


「どれぐらいで終わる?」


「奇襲が刺さればすぐだな。もし失敗したら村の方に」


「ああ、わかった」


 あっさりとした会話をする2人を見てたまらずユラシルが声を上げる。


「ま、待ってください! ローグさん1人で行くつもりなんですか!?」


「まぁ、アタシたちはまともに戦えないし、そもそもこいつを殺すならそこらの野盗なら50人は連れてこなきゃな」


「メリス、何度も言ってるけど絶対はないからな?

 俺だって失敗する時はする」


 適当に流すように「はいはい」と肩をすくめるメリスを見て嬉しさと不安を含んだ複雑な少しため息をローグは吐いた。

 しかし、すぐにユラシルへと自信の色を浮かべながら柔らかい声音と笑みを向ける。


「大丈夫。言ったろ? ユラシルが居場所を見つけるまでは俺が側にいる。約束だ」


「安心していい、ユラシル。こいつは約束だけは破らない」


 メリスのからかい半分、信頼半分の言葉にゆっくりとどこか照れながらもはっきり頷いたローグは野盗の方へ向き直る。


 ちょうど2人に背を向けることになり、顔が見えなくなったが、それでも先ほどまでの柔らかく優しげな雰囲気が消え去ったことをユラシルの肌は感じ取っていた。


「ユラシル、増援が来た時は魔術で可能な限り時間を稼いでくれ。

 じゃ、行ってくる」


 研ぎ澄まされた鋭い剣のような雰囲気を纏うローグの言葉に返事をするよりも早く彼の姿は消えた。


「よく見ておけよ。ユラシル──」


 メリスに言葉をかけられたことでようやく意識を現実に戻したユラシルはハッとしてローグを探す。

 見つけたときには少し離れた場所にあった3つの人影の1つへと横合いから迫っていた。


「──あいつの……力を」


 その言葉と目には恨めしげなものがたしかに込められている。

 それが誰に向けられてのものか察したユラシルはローグへと視線を移した。


◇◇◇


 3人の野盗はそれぞれ馴染んだ武器を手に大原を駆けていた。


 村から帝都への街道ということもあり、この辺りは軍の監視が当然ながらある。

 関所周辺はゴーレムやドールといった魔術人形が置かれているが、大部分はヒトが行なっている。

 そしてヒトが監視をしている以上、どうしても隙間というのはできてしまう。


 3ヶ月前にある理由からパーティ資格を剥奪されて野盗に身を落とした彼らは軍の監視をかいくぐりながら略奪を続けていた。

 そんな彼らの今回のターゲットは荷車を引く大鳥。それが引く荷台に乗っていた少女を見つけた野盗の1人が口を釣り上げる。


「いたぞ。旅籠屋で見た娘だ」


「へぇ、良い娘じゃないか。

 男も殺すなよ。女ほどじゃないが金になる」


「わかってるって、下手な抵抗しなきゃやってやるよ」


 数としても御者席に座る女エルフを含めて3人。

 しかも実質動けるのは側を歩いている男ノーマ1人だけだ。

 であればその1人を早々に囲んで潰し、残りは蹂躙した後にゆっくり物色、あわよくば荷車と大鳥を奪って今後の足として使う。


 しかし、すでに勝った気でいた先頭を走っていた1人の野盗が気が付く。


「おい、1人どこに行った?」


 残りの2人が疑問符を浮かべながら車の方を見た。

 たしかに側を歩いていたはずのノーマの男がいない。

 もう距離も近いため迎撃のため向かってきていると予測はできたが、それにしてはこの見通しの良い平原で自分たちの視界に映らないというのはおかしな話だ。


 先頭を歩く野盗が反射的に足を止めようと走る速度を落とそうとしたところで右側から聞き慣れない声がした。


「悪いな」


「は?」


 脈絡もなく耳に届いた声に背筋が凍り、冷や汗が吹き出る。

 それを自覚した瞬間、その野盗の意思は途絶えた。


「なっ!?」


「あ、あいつ、今、どこから」


 目の前で首を切られて死んだ仲間を見て2人は表情を強張らせる。

 そんな彼らの前で短剣に付いた血を払ったローグはその切っ先を向けて言う。


「先に武器を取っていたのはお前たちだ。容赦しない」


 ローグの目は握っている短剣の刃と同じく鋭いものだった。

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