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残影の追放者 〜追われし者よ、どうか良きヒトの世で〜  作者: 諸葛ナイト
ルイベ帝国

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事の結末

 波乱の勲章授与式を終えたローグたちを乗せた馬車はオリエンス家へと向けて走り出した。

 そこでようやく緊張の糸を切ったローグとユラシルはぐったりと背もたれに寄りかかる。


「「はぁ……」」


 馬車の車輪と蹄の音ともに訪れる揺れに身を任せる2人の口から溢れる深いため息。

 その正面に座るライセアは和やかな顔で労う。


「2人ともご苦労だったな。

 これで彼らもしばらくは大人しくなるだろう」


「そうであってほしいよ。

 自分で考えたこととはいえあんなのは二度とごめんだ」


「私もです……」


 今回の一件。

 全て事が上手く運んだが、その全てが薄氷の上を渡るような危ういものばかりだった。


(ユグドラシルに1人で入ってた時よりきつかったな……)


 ダンジョンとはまた違う神経と頭の使い方をしたローグの疲労は色濃い。

 その隣、ユラシルはつい数時間前のことを思い出しながら切り出した。


「にしても色々な意味ですごかったですよね。フィールエ女帝陛下」


 優雅に登場し、貫禄のある表情と佇まいで女帝らしい威圧感を放っていたフィールエの姿をローグも思い浮かべた。


「ああ、とてもだけど俺はあんなことできない」


 あの姿を見れば国の維持という事がどれほどの偉業なのかがわかる。

 ラーシンドの再興。

 一瞬考えたもののすぐに「無理だ」と結論付けた自分の判断が正しかったことを再認識して呟く。


「貴族なんて俺にはとても向いてないな」


 その言葉にライセアが即座に、そして嬉しそうに語る。


「それで良い。

 王として振る舞うローグというのも見てみたいが、私は今の君が好きだ」


「えっ!?」


 聞いた瞬間、先程まで伸びきっていたユルシルが背もたれから弾かれるようにガバッと上半身を起こした。

 その目は丸々と見開かれ、確認を取るようなものがある。


 ユラシルの反応を見て初めて自分の言った言葉の意味を理解したライセアは両手を横に振った。


「違う! 今のは違うのだ!

 いや、違わなくはないが、そういう意味ではなく……!

 あれだ! そう、友人や戦友としての好きということだ」


 少し慌てた様子であり明らかな照れ隠しだったが、ローグは彼女の言葉に対して特に深読みや疑うこともなく心底から嬉しそうに頷いた。


「ライセアほどのヒトにそう言ってもらえると素直に嬉しいよ。ありがとう」


「う、うむ。意味がきちんと伝わっているのならばこちらとしてはむしろありがたい。

 少々、歯痒いと思ってしまうところもあるが……」 


 微笑むローグの顔を見る事ができなくなり、顔を背けるライセア。

 2人の雰囲気は悪くない。それどころかユラシルが少し疎外感を覚える程度には良い雰囲気だった。


(ローグさんは、モテやすいのかな?)


 よくよく思い返してみればローグの周りには妙に女性が集まっている。


 彼自身がそうなることを望んで行動したわけではなく、偶然そこに女性がいるということは共にいたユラシルも理解していた。

 

 だが、ふと思ったことで心に妙なしこりがあることに気がついた。


(私は……私はどうなんだろう。

 助けられて、たくさんのことを学んで……目的を同じにしているヒト。

 本当にそれだけ?)


 ──好意を抱いている。


 その自覚はあるがそれが恋愛感情かと聞かれると素直に頷けなかった。

 理由は単純、ユラシルは恋というものを知らない。


 スカム・マナのように知らなければ常にそこにあってもわからないように、今の彼女はその感情の判断がつけられずにいた。


(一緒にいれば……色んな場所を見て、たくさんのヒトに会えば分かったりするのかな)


 車から見える窓の景色を見つめるユラシル。

 そんな彼女の隣、ローグはライセアに質問を投げた。


「なぁ、ライセア。女帝陛下はなにを考えているんだ?」


「……アルヴィウス家への処罰の話か?」


「ああ、たしかに波が村を襲うっていう最悪は防げた。俺たちも自衛ができたから死ぬことはなかった。

 でも、彼が行動を起こしたのは事実だ」


「そうだな。

 探索者はもちろん、軍にも相応の被害が出てる」


「だから俺はもっと重い処罰が出されるって考えてた。それはライセアもだろ?」


 アルヴィウス家への処罰は重いものになる。

 それはあの場にいた者たち全員の数少ない共通認識だった。

 

 どう見積もっても家名と爵位の剥奪は免れない、と。


 しかし、実際は爵位降格と領土の6割を没収される程度で終わった。

 ローグからしてみればそれでも十分に重いとは思ったが、想定していた家名と爵位の剥奪という全てを失う罰と比べればとてもではないが軽い。


 ライセアは少しの沈黙を挟んでその推測を話し始めた。


「女帝陛下は気付いていたのだろう」


「気付く? 何に?」


「アルヴィウス男爵を誑かした者の目的に、だ」


「ッ!?」


 ツーリライは芽生えた焦燥感と嫉妬心からライセアに目をつけて貶めようとし、ローグたちを殺そうとした。

 しかし、彼を支援していた者たちからしてみればそれらは最初からどうでもいい話。


「彼らの目的はアルヴィウス家の領土だ」


 訝しみながら聞いていたローグは黙り込み、頭の情報を整理し始めた。

 そしてライセアの言葉の真意に辿り着いて「あっ」と溢して確認を取るようにそれを口にする。


「……目的がアルヴィウス家の領土なら元々予定していた波の介入が成功すればその報酬。

 失敗したとしても没収された領土は誰かが管理する必要がある。そこで掠め取るつもりだったのか!」


「そう、彼らは元々アルヴィウス家の領土を狙っていた。

 開墾が進まないとはいえ、それでも狭い土地ではない」


「そんな時にアルヴィウス男爵の焦りを悟り、誑かした。

 どちらに転んでも、自分たちに不利益がない状態だったから動いたのか」


 彼らの目的はあくまでもアルヴィウス家の領土であり、その家主であるツーリライ自身の目的はどうでもいい話だった。


 重要なのは“ツーリライが自身の意思で協力を申し出る”ということ。

 

 ユグドラシルの攻略が起因のライセアの勲章は偶然だっただろう。

 だが、そもそもの焦りの発端であった彼の周りの貴族の爵位が上がったのは最初から全て仕込まれていた可能性がある。


 結果として協力者たちの力を焦燥感と嫉妬心に支配されたツーリライは黒幕たちの甘言に乗った。


「──でも、女帝陛下が介入して全てが変わった」


 協力者たちもローグたちを仕留め損ねることは想定していた。


 しかし、彼らがツーリライを謁見の間にまで引っ張ってくるとは予測していなかった可能性が高い。

 ましてやそこからフィールエが介入することは考えてもいなかっただろう。


 ローグたちからしてみればツーリライに言い逃れをさせないようにするための策だったが、それは協力者たちの邪魔をする結果となったのだ。


(ということは、あの時食い下がろうとした貴族が今回裏にいた貴族か?)


 結論付けようとしたローグの脳裏に1人の貴族の顔が浮かんだ。

 最後にアルヴィウス家の領土の管理を申し出たあの貴族。

 

(ホランズ・グレイ・バンリッド……)


 辺境伯という爵位にすでに至っている者がわざわざ少し距離があると認める場所の領土を求めるだろうか。


 ローグがその疑問を口にする直前でいつの間にか窓の外からライセアに視線を移していたユラシルがおずおずと切り出した。


「あの、少しいいですか?」


「む、すまない。疲れているところでこのような話は不粋だったな」


「ああ、いえ、私も知っておかなきゃいけない話だと思いますから……。

 それよりあの貴族、バンリッド……えっと、辺境伯はどのような方なんですか?」


 ユラシルの問いにこれ幸いとローグも重ねて問いかける。


「俺もそれを聞きたかったんだ。

 あの時、没収された領土の管理を名乗り出たけどあれはなにが狙いだ?」


 彼の言葉は言外に「彼が本当の黒幕か?」問うものだった。

 それを見抜いたライセアは迷うことなく首を横に振った。


「今回の件でバンリッド辺境伯は無関係だ。

 強いて言うならば女帝陛下側、事を鎮めようとする側だ」


「女帝陛下側、ということは……!」


「黒幕であるアルヴィウス男爵の協力者への妨害が目的。

 まさか、気が付いたのか。あの場で」


 ユラシルとローグの確認にライセアは首肯した。


「バンリッド辺境伯はルイベ帝国南部、ディザン王国との国境監視を任されている。

 あの方の監視の下であればアルヴィウス男爵はもちろん、黒幕であった者たちもそう容易くは動けまい」


 黒幕含め、貴族たちはしばらくその権力闘争を大人しくさせる。

 アルヴィウス家にも監視がつき、その土地の管理は比較的信頼できるバンリッド家が受け持つことになる。

 

「……えっと、それなら今回の事件は解決、でいいんでしょうか?」


 恐る恐る出されたユラシルの確認。

 ライセアは顎に手を当てて忘れていることはないか2回ほど状況を確認して微笑みながら答えた。


「ああ、そう考えていい」


 彼女の答えにユラシルは嬉しそうに、ローグは安心したように肩の力を抜いてまた一層椅子に深く座り込む。


「よかった。

 ライセアもこれでゆっくりできるんだろ?」


「ああ、そうだな」


 即答したライセアに対し少し悪びれながらローグが申し出る。


「そんなライセアに頼むのは少し悪いんだが、女帝陛下と一度話をしたい。

 ……できるか?」


「それはお聞きしなければなんとも。理由を聞いてもいいか?」


「同じ偽王(アディター)として知っておいてほしいことがある。

 それと今回の謝罪もしっかりしておきたいんだ」


 後者はわかるが前者、同じ偽王として知っておいてほしいことについてはライセアには予想ができなかった。


 詳しくどういう話をしたいのか聞いておけばフィールエに話を通しやすくなるため聞こうとしたがそこで止まる。


(いや、彼らならば問題は少ないか)


「わかった。お聞きしておこう。

 返事は……そうだな。2、3日ぐらいで出せると思う。もし遅くなりそうだったら知らせを出そう」


「わかった。ありがとうライセア」


「いや、礼を言うのはこちらだ。

 今回は、いや今回も君たちに頼りきりだったからな……」


 ライセアが改めて感謝を口にしたところで馬車が止まる。


 窓の外を見れば半ば見慣れたオリエンス家の別邸が見えていた。

 それと同時に御者の男性がローグたちに伝える。


「到着致しました」


「ああ、ありがとう。

 それでは、またな。2人とも」


「ああ、また」


「はい。ライセアさんもお気を付けて」


 ローグとユラシルはそれぞれに言葉を置いて車から降りるといつの間にか門の前にはエーリャとアーミュがいた。


「おかえりなさいませ」


「お疲れでしょう。湯を張っておりますが、お入りなりますか?」


 たしかにルイベ城塞から先に出たのは彼女たちだったが、それにしてもあまりの準備の良さにローグとユラシルは顔を見合わせる。

 そしてどちらが言うでもなく笑い合うと頷いた。


「入りたいです!

 緊張で汗かいちゃって……」


「俺もだ。

 服がベタついて仕方がない」


「承知しました。ではそのように」


「ユラシル様、お背中を流しますので城塞での話をお聞かせください。

 私もエーリャも謁見の間には入れませんでしたので」


 エーリャが仰々しく頭を下げてアーミュは朗らかに声をかけた。


 そうして彼らはいつもの日常に戻るように和気藹々と別邸の門を潜った。

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