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残影の追放者 〜追われし者よ、どうか良きヒトの世で〜  作者: 諸葛ナイト
ユグドラシル暴嵐

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女帝の思惑

 ルイベ帝国の城塞。そこにある執務室の1つに女帝フィールエはいた。


「──以上がローグ様、ユラシル様についてのご報告となります」


 頭を垂れながら伝えるアーミュ。

 彼女の報告を受けたフィールエは椅子の背もたれに体重を預けると入り口に控えていたライセアへと問いかける。


「どう思う。ライセア」


「現状は我々に不信を覚えることなく、このままであれば友好関係を結べるかと。

 報告を聞く限り、やはり彼は金や名誉で動いているとは考えにくいと感じました」


「だがそれは同時に制御ができないというわけでもある。

 ルイベと別の国が衝突した際にどちらに与するかわからぬ」


 だからこそ婚姻を持ちかけた。

 好みだったというのは嘘ではないが、利用するつもりでもあった。


 夫婦となれば他国に協力するのは難しくなり、彼の性格を考えればルイベを守るためにその力を迷いなく使うだろう。


(それにあの背中の証……)


 昼間見たローグの背中にはアディターの証である翼の痣を思い出し、フィールエは唸る。


(本来ならば1つしかないはず……。しかし、2つあった)


 彼の2つの痣で驚くべきは違和感を覚えなかったことだ。

 それどころか「まだ足りない」と思った。具体的にあと2つ痣が足りない。


(自分の痣を見てそんなことは一度も感じたことはなかった。

 なのにローグのものを見て初めてこの感覚を得た)


 間違いなくローグは特異なアディターだ。

 そもそも無くなったと思われていたラーシンド、ノーマのアディターの存在自体があまりにも大き過ぎる。


 彼を巡って大国同士の戦争が起こっても不思議ではない。


(そうなった場合、確実にこの国は落ちる)


 単純な兵力で言えばルイベは他大国と比べて引けを取らないどころか少し秀でている。


 しかし、大国同士の戦争は最終的にアディター同士の戦闘になる。

 そうなってしまえば戦闘能力が高くないフィールエ、引いてはルイベは負けることだろう。


 最悪の考えを頭を振ることで消したフィールエはアーミュへと告げる。


「では、改めて以後の監視と護衛はオリエンス家に一任する。

 なにがあっても彼らを他国へと明け渡さぬように努めよ」


「フィールエ女帝の勅命、確かにお受け取りしました」


「よし、下がれ」


 ライセアの指示を受けて改めて深々と頭を下げたアーミュは執務室から出た。

 扉が閉まるのを見てからライセアはフィールエの前で首を垂れる。


「女帝陛下。不躾ながらお願いしたいことが──」


「ダメじゃ」


「ッ!? わ、私はまだ何も……!」


「顔に出ておるわ。

 お主、ローグの護衛をやらせろと言うつもりなのだろう?」


 図星だったのかライセアはぐっと言葉を飲み込んだ。

 そんなわかりやすい彼女を見て溜息をこぼすフィールエは続ける。


「許可できん。私が関わっていることを匂わせることは良い。

 しかし、軍者を付けることはルイベ帝国が占有していると取られかねん。それを他国に示すわけにはいかん」


 ローグの付近にフィールエの影を潜ませておけばそれだけで他国への牽制となる。

 手を出せばどのような返しがされるかわからない。そう思わせるだけでいい。


 しかし、軍が関わるとなれば話は変わってくる。


 ルイベ帝国がローグを占有、戦力化しようとしていると受け取られれてしまえば、戦力バランス崩壊を恐れたディザンとトーンシーはその矛を揃って向けてくる可能性がある。


 勘違いだと説明して納得してくれる保証はなく、矛を交えてしまった後では収まりもつかない。

 それを避けるにはフィールエの影を見せつつも「彼自身の意思によって協力しているだけ」という体裁を整える必要がある。


 衝突を避けつつもローグをルイベ帝国の手元に置くにはフィールエと婚姻を結ぶことだ。

 それならば軍の護衛があったとしても「夫を守るのは当然」と取り繕うことができるのだが、それも彼が望んでいない以上は出来ない。


 無論、ライセアも苦しい立場だと理解しながらも進言する。


「しかし、彼はラーシンド家唯一の生き残りでもあります。

 アディターとしてだけでなく、ラーシンド王家の生き残りとしても利用されかねません。

 それらを防ぐにはもっと防備を──」


「ならん。お主もあの家の役割は知っておろう?

 今は彼らを信じよ」


「……承知、しました」


 渋々引き下がるライセアへとフィールエは頬杖を突きながら揶揄うように問いかけた。


「焦り、か……。

 お主、それほどまでにローグのことが気に入ったのだな」


「はい。彼はとても強い。

 それでいて驕りはなく、接しやすいですし何より共にいてとても落ち着きますゆえ。

 あの者にならば背中を預けても良いと」


 スラスラと自分の想いを話す姿にある種の満腹感を覚えたフィールエは手で漂ってくる柔らかい雰囲気を払い除ける。


「お主がローグのことを好いているのはよくわかった。

 私としてもそれを許可したいがな。やはりできん」


「……そう、ですか。申し訳ありませんフィールエ女帝陛下」


 どれほどライセアがローグのことを想っていても譲っては国が滅びる。

 それだけは避けなければならない。


 しかし、内輪揉めの中でも戦い抜き、民を守ろうと奮戦した者の願いを無下にすると言うのも女帝の名折れ。


(はてさて、どうしたものか……)


 たしかにライセアは軍に所属するエルフだ。

 波での一件を贖罪の名目にしたいが16層の先行調査で既に使った手だ。もう使えない。


 しかし、軍内で最もローグと近く信頼を得ているのは彼女。

 フィールエとしてはなんとしてもライセアとローグの関係を維持したい。


(この関係を利用し、他国にも言い逃れできる方便……)


 頭を悩ませるフィールエだったが思いの外その案はすぐに頭に浮かんだ。


「あるにはある」


「本当ですか!?」


 目を輝かせるライセアに驚きながらもそれを受け入れるように笑みを浮かべて頷く。


「しかし、少々準備に時間がかかる。それでも良いか?」


「は、はい! 私の我儘を受け入れていただきありがとうございます。フィールエ女帝陛下。

 この御恩は必ずやこの身でお返しいたします」


 フィールエは背もたれに体重を預けると肩を揉み解した。


(さて、あとはディザンとトーンシーが私の予想通りに動くか否か……)


 ライセアを下がらせたフィールエはペンを手に取った。

第一部完結しました。

ユグドラシル暴嵐を乗り越え、偽王としての力を得たローグ。ユラシルと居場所を探す旅に出ることを決意した彼らの果てとは……。

続きが気になればブックマークを、感想や評価も励みになります。第二部もどうぞよろしくお願いします。

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