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残影の追放者 〜追われし者よ、どうか良きヒトの世で〜  作者: 諸葛ナイト
ユグドラシル暴嵐

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招かれた場所

 宿を引き払ったローグとユラシルはライセアの案内の下、その家に辿り着いていた。


 女帝フィールエが勧めた場所は帝都の高級住宅街にある邸宅。

 貴族など位を持つ者の家にしては随分とこじんまりとしているが、丁寧に整えられた広大な庭園や門構えからは家柄の良さがよくわかる。


「ここがその家か……すごいな」


 ローグ同様に建物を視界に捉えたユラシルはふと浮かんだ疑問を口にした。


「陛下の別邸を初めて見たときにも思いましたけど、貴族の皆さんはこのような家に好んで住むのですか?」


「貴族というのは身分だ。

 示すべきもの、いや示さなければならないものがある」


「それが土地とか、家ってことか」


 ローグの答えに頷いたライセアは続ける。


「無論そういったものに好んで住む者もいるが、ここの当主は示すべき証として持っているに過ぎない」


 小さく「予想だがな」と付け足してライセアは邸宅の門に近づく。


 ローグはそれに続き歩いていたがすぐさまその足を止めた。

 ユラシルがその理由を問おうとした瞬間、声が飛ぶ。


「リゼット様、ローグ様、ユラシル様。お待ちしておりました」


「えっ!?」


 気が付いた時には門前に1人のメイドが仰々しく頭を下げていた。


 後ろで団子のようにまとめ上げられた群青色の髪、前髪を揺らしながら顔を上げた彼女をローグは驚愕半分、警戒半分の顔色で見つめていた。


「とんでもないな。

 昼間だったのに一瞬見えなかったぞ」


 ローグはその声が聞こえるよりも先に、門前に立つメイドを視界に捉えていた。

 だが、それも寸前のところだ。

 

 時刻は昼過ぎ。

 まだ頭上には太陽が浮かび、それが煌々と帝都の街並みを照らしている。

 そのはずなのに門前に近づくまでそこにいたはずのエルフの糸目メイドに気が付かなかった。


「な、なんで……いつから?」


 目を見開くユラシルを見てメイドはどこか嬉しそうに糸目をさらに細めると門扉に手をかける。


「さぁ、どうぞ。こちらへ」


「ああ、頼む」


 慣れたように歩みを進めるライセアに続いてローグたちも勧められるまま邸宅の庭園へと足を踏み入れた。


 どこか高貴な門扉から邸宅の建物までは少し距離がある。

 その間にある庭園の生垣や木は丁寧に整備されており、質素ながらもどこか高級感のある噴水があった。

 花壇に咲く花々も色鮮やかに咲いており、手間暇のかかっていることは一目で理解できる。


「すごいな。どれもこれも丁寧に整備されている……」


 ローグの素直な感想に先頭を歩くメイドは笑みを零して返す。


「ありがとうございます。

 この別邸の主人は体が弱く、あまり外に出られないのです。

 そのため、せめて庭園の景色だけでも楽しめるようにと力を入れているのです」


「なるほど」


 ユラシルは相槌を打ちながらローグ同様に辺りを見回して歩くこと5分、彼女たちはようやく玄関にたどり着いた。


 メイドは扉を開けてローグたちを中へと招くと続けて応接室へと案内を行う。


 エントランスからそこまでは掃除が行き届いているのは分かったが、思いの外殺風景だった。

 フィールエの別邸には何かしらの絵画や調度品が点々とあったのだが、ここにはそれらもない。

 

 小さな違和感を覚えていたローグとユラシルに気がついたメイドは申し訳なさそうに口を開いた。


「この別邸はお客様を招く場所ではございませんので、あまりそういったものはないのです」


「ああ、いえ、私としてもこちらの方が落ち着くので……」


 ローグの言葉にメイドは「それは良かった」と微笑み案内を続ける。

 

 そうしてたどり着いたのは応接室だ。

 その扉を開き、彼らを椅子に座らせたメイドは軽く頭を下げる。


「すぐに代理の者を呼びますのでしばしお待ちください」


 そうしてメイドが出て行ったのを見てローグは一息つくとライセアへと問いかけた。


「なぁ、ライセア。この家はなんだ?」


「なんだ、とは?」


「惚けるな。あのメイドもこの家もただものじゃない」


「どういうことですか?

 たしかにあの方はすごそうでしたけどこの家自体は普通じゃ?」


 ユラシルの疑問を受けてローグは視線をその部屋に巡らせると壁に飾られた絵画を見つめる。


「あの絵はフェイクだ。風の流れがあるから後ろには空間がある。

 廊下も所々薄かったし感触的に空間がある。

 入ることだけなら出来るだけど出るのは難しい。返しがついた刃物みたいな家だ」


 ローグの指摘にユラシルは慌ててその絵画の方を見るが、その向こうに空間があるようにはとても感じられない。


「……驚いたな。まさか気がつけるとは」


「伊達にユグドラシルに1人で入ったりしてない。んで、答えは?」


 ライセアは答えるか否か少し迷ったようだが、隠そうとして怪しまれては堪らないと観念したようで説明を始める。


「この家はルイベ帝国の国内外に向ける密偵や暗殺を任されている家柄でな。

 現当主の腕はさることながら従者たちも一級品だ」


「なるほどな。俺たちの護衛でもあり監視か」


 ローグは冷静に言ったがユラシルは違う。

 護衛はともかく監視されるようなことはしてないし、するつもりもない。

 

「そ、そんな! 私たちは!」


「ああ、わかっている。私も女帝陛下もな。

 しかし、周りはそうではない。首輪がなければ不安がる者たちもいるのだ」


 不服そうなライセアにローグは同情の笑みを浮かべる。

 そんな2人を見てユラシルは「仕方がない」と納得するしかなかった。

 

 彼らの会話が落ち着いたところでドアがノックされて開かれる。


 ここまで案内をしてきたメイドと共に入ってきたのは燕尾服を着た初老の男性エルフだった。

 少々皺が目立つ顔だが、オールバックでまとめられた銀髪や青い目にはまだ若々しさが見える。


「お待たせして申し訳ありません。

 私はこの別邸主人の代理を務めておりますバートラ・エンシェと申します」


「いえ、こちらこそよろしくお願いします。

 私はローグ、こちらがユラシルです」


 即座に返されたローグの言葉とお辞儀をしたユラシルにバートラは満足気に頷いた。


「ええ、お噂はかねがね」


 バートラは微笑むとメイドへと目配せをした。

 それに軽く頭を下げることで答えた彼女は慣れた動作で茶を用意し、それぞれの前に出した。


 部屋に紅茶の香りが広がる中でライセアが切り出す。


「今回は突然の話を承諾していただき感謝する」


「かのフィールエ女帝陛下の頼みともあれば、御当主含め我ら従者一同、この力を使うことに躊躇いなどありませぬ」


 ライセアに笑顔で答えたバートラはその視線をローグたちへと向けて続ける。


「お話は書面で伝え聞いております。

 ローグ様がお隠しになっている本当の身分、ユラシル様の正体も。

 まだ我々を信頼するに至らぬでしょうが、どうかお任せしていただきたく存じます」


「それは無論。

 この家ははもちろん。あなたも相当にお強いようで」


「ほう、驚きましたな。まさか一目で仕掛けを見抜くとは……。

 お噂よりも相当な実力をお持ちなようで」


 ローグとバートラは互いに笑みを浮かべてはいるがその間には火花が散っているように見えた。

 いつ得物を向け合うかもわからないそんなタイミングでライセアが咳払いを2人の間に差し込む。


「双方、それぞれ話については理解しているのならばよし。

 では、バートラ。後のことは頼む」


「承知いたしました。女帝陛下へも改めてその旨をお伝えください」


 ライセアが頷いたのと同時に扉がノックされてメイドが現れた。

 彼女は一礼するとライセアへと告げる。


「出口までご案内いたします」


「ああ」


 メイドの案内を受けて部屋から出ようと体を半分部屋の外に出した辺りでライセアはふと気がついたような足を止めて振り向いた。


「ああ、そう、勲章の件だがな。用意までしばらく時間はかかる。

 その間ゆっくりとしているといい。時が来ればまた呼ぶ」


 そう言い残して彼女は応接室から出て行った。

 扉が閉まり、足音が遠ざかっていくのを耳で聞いたバートラはローグたちの方へと意識を戻す。


「では、エーリャ、アーミュ、お2人をお部屋へ」


 エーリャと呼ばれたメイドはここまでローグたちを案内した糸目のメイド。

 

 アーミュの方はオレンジ色の長髪を3つ編みにしたはっきりとした目鼻たちのメイドだ。

 背丈や服はエーリャと同じものなのだがぱっちりと開かれた茶色の瞳からは快活そうな性格が滲み出ている。


「今後は彼女たちがお2人の様々なお世話を担当いたします。

 なにかご不明な点も彼女らに聞いていただければ」


 バートラはそういうと改めて頭を下げた。

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