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残影の追放者 〜追われし者よ、どうか良きヒトの世で〜  作者: 諸葛ナイト
ユグドラシル暴嵐

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種明かし

 ギリギリのところで迫る刃を短剣で受け止めたローグ。


 彼は咄嗟の行動だったが、相手の一撃は最初から殺意を込めたものだった。

 そのため振り下ろされた剣の勢いを完全に止めることはできず、ローグの左肩に浅くだが刃が入る。


「う、ぁっ! ぐっ……!」


 剣を振り下ろした相手は不意打ちの失敗を悟り、刃をさらに押し込んだ。

 そしてそのまま肉を引き摺り出すように刃を引き抜き、後退する。


 激痛が走り、血が左腕を伝って床に落ちることを気にすることもなくローグは声を荒げた。


「こんなっ、どうして……ハルシュ!」


 ローグへと剣を振り下ろしたのはハルシュだった。


 彼女も自分の行動を理解できていないのか動転しており、言葉に答える余裕などなさそうだ。

 そんな様子だというのにハルシュの体は剣を中段に構えると地面を蹴り、ローグとの距離を詰める。


 横合いから迫る剣を弾くが、続けて袈裟斬りが繰り出された。

 それを受け止め押し返すと次は刺突が向かってくる。

 短剣の腹で受け止めて刃を逸らしたローグは鍔迫り合いに持ち込む。


「ハルシュ!」


 突然起こった事態から我を取り戻したライセアが2人の元に走るが、その目前に斧が振り下ろされた。

 寸前で後ろに跳んでかわしたライセアの前に立つのはシルト。


「ッ、シルト! 貴様、自分が何をしているのか理解しているのか!」


 シルトはなにか答えようと口をパクパクとさせるが言葉になることはなく、その体は盾を構えて突進する。

 剣の腹を向け止めたが、ライセアの予想より上の力に慌てて手を添えた。


(この力……魔術による身体強化!)


 それを悟ったライセアはキッとその方向を睨みつけた。

 彼女と同じくトラスロッドを見たユラシルが横笛を唇に触れさせたその瞬間、詠唱が響いた。


「フロスト・ランス」


 瞬間、ユラシルの足元が光る。

 気が付いたユラシルがその場から咄嗟に退がるのと同時に氷柱が地面から伸びた。

 その攻撃は彼女の腕に一筋の傷を付けて粉々に砕けちる。


「トラスロッドさん……!」


 杖を構えるトラスロッドに動揺を露わにするユラシル。


「どうしたんですか!? トラスロッドさん!」


 ハルシュやシルト同様に投げかけられる言葉に答えることはなく、いつでも魔術が使えるように構えている。

 追撃がなかったことに安堵したが今からでは確実にトラスロッドの方が早く唱え終わるだろう。


 そんな状況を見ていたローグは歯を噛み締めるとハルシュへと声をかける。


「ハルシュ、やめてくれ。急にどうしたんだよ。

 なんで──」


「違、う……私は」


 うめき声にも似た言葉にローグは耳を疑いながらハルシュの顔を見た。


 ようやく言葉を返した彼女の顔には恐怖と戸惑いと困惑が浮かんでいた。

 だが、その表情とは裏腹に込められている力は彼女が本気で殺そうとしていることを示している。


(これじゃ、まるで意識と身体を別々のものが操作しているような……ッ!!)


 シルトやトラスロッドがハルシュと同じ状況だとするならば、操っていると思われるのはこの状況で未だ行動を起こしていない彼女だけだ。


 ローグは睨みつけながらその名を叫ぶ。


「ニアス!!」


「くくっ! あっはっはっはっ!!」


 しかし、返って来たのは笑い声だった。

 まるで小さな虫の羽をちぎって遊んでいる子どものような楽しげな声。

 そんな声音のままで彼女は言う。


「ふふ、面白い。すっごく面白いわね。

 ゾクゾクして来ちゃった」


「お、前……」


「そう、私はこれを見たかったのよ。

 本当なら決別するときにもっと罵り合って欲しかったのに、あなたたち物分かりが良すぎるのよ。

 暇潰しにもならなかったじゃない」


 ニアスの呆れたような表情とため息混じりの言葉の意味を逸早く理解したのはユラシルだった。


「ニアスさんだったんですね。

 ハルシュさんたちを操ってローグさんを追放させたのは。そしてその後もローグさんをパーティに入れないようにしていたのも!」


「「「ッ!?」」」


「ええ、そうよ。今の私でもそれぐらいはなんてことないわ。

 でも本当に退屈だったわ。あのミノケンノスが倒されるまでの暇潰しのためにわざわざヒトになってあげたのに……あなたたちときたら」


「貴様、ッ!?」


 言葉を言い切る前にローグはハルシュによって蹴飛ばされた。

 派手に転がったが受け身を取れていた彼はすぐさま立ち上がり、声を荒げる。


「どういうことだニアス!」


「さっきから言ってるでしょう?

 暇潰し、余興よ。私の復讐を始めるまでのね」


「なに?」


 問い質そうとしたそんな時、視界に煌めくものを認めた。

 反射的に振り上げられたローグの短剣とハルシュが振り下ろした剣がぶつかり合い、甲高い音を響かせる。


 互いに弾かれた2人の武器は再びぶつかり合い、擦れ合わせる。

 そして、どちらともなく後ろに跳んだかと思うとすぐに距離を詰めて再び剣を合わせた。


 ローグとハルシュの剣戟が続く。

 刃がぶつかるたびに甲高い音が鳴り響き、その攻防はまるで演舞のようだった。


(くそ! 無力化したいのに、隙がない!)


 殺さないことを意識し続けているローグと身体だけでもただ殺すことを前提に動くハルシュ。

 2人の実力はほぼ拮抗していた。


 幾度目かの刃の交錯──だが、今度は違った。


 大きくハルシュの体がのけぞったのだ。

 対してローグは剣を弾いた側であり、小回りが効く短剣ならばすぐさま刃を構えて追撃に移れる。


 例えば、ここで短剣を突き出してその首を貫けば確実に──


(そんなの、できるわけ!)


 一瞬、躊躇い動きを止めたローグの左襟を体勢を立て直したハルシュが掴み、引き寄せると足を払って地面に押し倒した。

 衝撃で短剣が転がる中で痛みで悶絶する彼の首筋に逆手に持たれたハルシュの刃が向けられる。


「こんな……こんなの、私……っ!」


 ローグの頬にハルシュの涙が落ちる。

 彼女の歯はガチガチと鳴り、体は小刻みに震えていた。


「ハルシュ……」


 シルトの盾に剣を重ねるライセア、トラスロッドと睨み合うユラシルたちを無視してニアスは悠々と階層の中央にあった物体へと向かう。


 そこにあったのは玉座。

 色合いは灰色と黒を基調とし、一部は薄緑色で同色のレリーフもつけられている。


 ニアスはその玉座に何事もないかのように腰を下ろすとローグ、ユラシル、ライセアを見回すと首を傾げる。


「にしても……私の術が効かないなんて妙ね?

 ま、私がここにたどり着けた以上はもうどうでもいいわ。

 さて、話の続きでもしましょうか?」


 未だ理解が追いつかないローグたちを尻目にニアスはふと思い出したように口を開いた。


「と、その前に私の本当の名前を言っておくわね」


 そこで区切ったニアスは怪しい笑みを浮かべて再び開くとその名を告げる。


「私の名前はユグドラシル・ダスラ。

 このダンジョンの、いやエルフを統べる真の王(オリジナル)だ」


 開かれた瞳は深緑から金色へと色を変えて輝いていた。

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