表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残影の追放者 〜追われし者よ、どうか良きヒトの世で〜  作者: 諸葛ナイト
再会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

120/136

対峙の理由

 決闘を終えたレミナルタが闘技場の通路を歩いてたその時、ベルフィアが駆け寄ってきた。

 未だ歓声や罵倒が広がる中で彼女の焦った声が薄暗い通路に響く。

 

「お、お姉ちゃん! バンリッドで会った奴らがいた!」


「バンリッドの?」


 レミナルタの脳裏にローグたち5人の姿が浮かび上がる。


 ヒト擬きを解体しているところを見つかり戦闘し、自分たちを追い詰めた者たち。憎むべき敵、レギオンまでもがいる集団。

 加減されていてなお、追い詰められていたことを考えれば最も警戒しなければいけない敵たちだ。


 闘技場で勝った高揚感など等に消え去り、レミナルタは表情を険しくさせる。


「……そう、ここに来ていたのね」


「うん。追ってきたわけじゃなさそうだったからバレてはないと思うけど」


 不測の事態に備えて魔術を使わない変装にこだわり、ヒトの皮から被り物を作ったがその出来は完璧だ。

 人相画が出回っているのにも関わらずこの約1ヶ月間、誰かにバレた様子はない。魔術の使用が禁止されている決闘に出場して稼ぐこともできていることから間違いない。


 そのためローグたちにもバレているわけがないという確信がベルフィアにはあった。

 しかし、レミナルタはそれを否定する。


「どうかしらね」


「え?」

 

 少し黙り込んだレミナルタは考えをまとめてベルフィアに尋ねた。


「決闘は見られてた?」


「それは……うん。闘技場の方を見てたし」


「ならバレてるわね」


 断言したレミナルタにベルフィアは息を飲み、否定しかけたが、すぐに本気で言っていることを理解した。

 しかし、そう断言する根拠がわからず首を傾げる。


「バレてるって……なんで? 顔は変えてるのに……」


「私は彼らと戦闘をしているのよ?

 もう太刀筋は覚えられてるだろうし、あの実力なら一眼見ただけで判別できてもおかしくないわ」


「そんな……」


「ごめんなさい、ベルフィア。私が無警戒だったわ」


 レミナルタたちにとってオリボシアで稼ぐことはそう難しいことではない。

 それでも決闘を選んだのは様々な理由がある。


 第1に、オリボシアから王都までの往復。

 ヒトが多い場所の方が紛れやすいことを考えれば王都のような大きな場所以外は考えられず、ここからオリボシアまで行くにはあまりにも時間がかかる。


 第2に、探索者として活動はあまりにもヒトとの接触が多すぎる。

 周りに怪しまれない程度の接触に抑えたい彼女たちにとっては探索者を偽装するのは不安要素が多い。


 第3に、王都での生活基盤をより早く整えることを考えれば一度で大きく稼げ、唐突にいなくなっても怪しまれない。

 闘技場には流行り廃りがある。今でこそ歓声が上がるが勝ち過ぎればいずれ飽きられる。そんな者が消えたところで気に留める者はおらず、そうなる頃には金も溜まっている。


「効率ばかり気にして彼らの存在を除外してしまった私の失態ね」


「そんなことないよ!

 お姉ちゃんが頑張ってくれたから今まで過ごすことができたし、お金も結構貯まったよ?」


「あら、私が頑張れたのはベルフィアが作ってくれた被り物のおかげよ。ありがとう」


「う、ううん。私にはこういうことしかできないから」


 しかし、問題はこれからのこと。


(顔を変えるのは……ダメね。

 私は短剣以外での戦い方を知らないから似たような戦い方で決闘に出てしまえば、他のやつからも怪しまれかねない)


 素性がバレている可能性があり、決闘にも出られないと考えるとこれ以上は王都に留まる選択肢はない。また、国境街なり大きな街に移動してそこで生活する方が最善の選択。

 その結論に達するのはすぐのことだったが、その行動を取ることはできない。


「でも、参ったわね。少し落ち着いたとはいえオリボシア動山の影響がまだ残ってる。

 逃げるにしても結局は顔を変えなきゃいけないわね」


「新しい被り物を今から作るのはちょっと難しいかも……。

 使えそうな素材は今使ってるもので使い切っちゃったから」


「新しくは……買えないわね。多少安定してきたとはいえまだ物流は滞っている。

 調達しようとすればそれこそ彼らに尻尾を掴ませることになる」


 今すぐにでも王都から離れなければならないが、それもできない状況にレミナルタが頭を悩ませる中でベルフィアが提案。


「ねぇ、ここでアイツらに警告できないかな?」


「警告?」


「うん。私たちをこれ以上追いかけてきたらヒトを殺すって。

 もちろん本当に約束どおりやめるわけじゃないけど、少なくともしばらくは簡単に手が出せなくなるんじゃないかな?」


 王都から簡単に動けない現状、彼らと対峙することは正体を明かすということであり、最も避けたいことだ。


 しかし、その選択肢には利点もある。


 彼らはただの探索者。

 現状、ローグたちには確信はあるだろうが顔が変わっている状況で誰かの協力を得ることはできない。

 そして、あの5人だけで人質を守りながら捕らえるような行動はできないはずだ。


(……彼らの出方によるけど少なくとも躊躇わせることはできる)


 不確定要素は多いが、それでもなにもしないよりはいい手であることには間違いない。


(おそらく彼らも私たちと接触する方法を探すはず……なら、私たちの行動は決まってるわね)


 結論付けたレミナルタはベルフィアの提案を受け入れて頷いた。


◇◇◇


 ローグたちがレミナルタたちと思しき人物を闘技場で見つけた翌日。

 そろそろ夕食の時間という時にローグは情報収集を切り上げてユラシルたちとギルドで合流していた。


 ギルドでは依頼を終えて疲れを癒す探索者や人々で溢れており、活気に溢れている。

 度々上がる笑い声や怒声とは対照的にローグたちのテーブルは静かな緊張感があった。


「改めて情報をまとめよう。

 レミーというあの女性エルフは1ヶ月前から決闘に出場するようになった。今のところ8回行い、全勝しており注目の的である……」


 ライセアのまとめた内容に間違いがないことを示すように頷いたローグ。

 その隣でミートパイを飲み込んだユラシルが呟く。


「オリボシア動山でかなり混乱してたと思うんですけど、その中でも決闘は行われてたんですね」


「俺もそれが引っかかって聞いてみたけど、むしろこういう時だからやるって言ってたな。

 下手に自粛するより大々的にやって日常を示すためって言ってたな」


 シミッサとユラシルが「なるほど」と表情で告げる中でゾーシェがこぼす。


「でも不思議だよな。出場が決まったら話題に出るぐらいなのに、決闘で勝ってる以外の情報がまともにないなんてな」


 最初こそはただの流れ者か腕自慢程度で注目されることはなかったが、今では出場が決まればそれだけで話題に上がるほどの存在になったレミー。

 話を聞いたヒトのほとんどが興奮気味に戦いを語る様ばかりがローグの印象に強く残っていたが、誰1人としてそのほかの情報を知っている者はいなかった。


(あの感じ、たぶん興味がないんだろうな)


 ゾーシェ同様にローグもその情報の欠落に違和感を覚えたが、決闘に関係しない情報は詮索しないような雰囲気もあった。

 そう考えれば情報がないことは特別に異常な点ではない。

  

 しかし、それは彼らにとっては少し頭を抱えることである。

 それをユラシルが口にした。


「寝泊まりしているところすらわからず、ですからね……」


「泊まっている場所がわかればそこで待ち伏せとかできたのにね」


 シミッサの言葉に酒を飲んで一息ついたライセアが頷く。


「まぁ、店もよっぽどの事情がなければ客の情報など流さんだろう。

 特に決闘で人気な者の情報など流れてしまえば他の客の迷惑にもなりかねん」


 それに頷いたローグはユラシルたちに視線を向けた。


「宿自体はもう少し時間をかければ調べられるとは思うけど……そっちはどうだ。何か情報あったか?」


 ローグがレミナルタの情報を集めている間、ユラシルたちは王都内で起こっている、もしくは起こった事件について調べまわっていた。


 特にオリボシア動山以降は軍の巡回もより強化されているため、もし変死体を見つければ噂になっているのが普通だ。

 しかしゾーシェは首を左右に振る。 


「いや、なにもなかった。変死体の話もなかったから少なくとも王都でヒトを殺してないとは思う」


「王城の方でもか?」


「うん。色んなヒトに聞いたけど王城でもそういう話はなかったよ。

 いくらオリボシア動山で混乱してたと言ってもあんな殺され方の事件が抜け落ちるなんてことはないと思う」


 シミッサの答えにローグは礼を言ったが、その時にはシミッサは思考をレミナルタたちへと向けていた。

 

 レミナルタたちは警戒をしているからヒト殺しをしていないだけだということはわかっている。

 だが、このままもし殺しをやめるというのなら共に生きることもできるかもしれない。


(でも、レミナルタたちはそれを望まない……)


 彼女たちが自身で考えを変えるとは思えない。

 ヒトに対して復讐心を持つオイケインと復讐から起こした罪を許せないヒト。


 だから両者の間にはもう戦う以外の道がない。

 それ以外の道を模索するが、浮かぶことはない。


 しかし、自分のような存在にも手を差し伸べる者がいた。

 共にあると言ってくれる者たちがいる。


(私は……なりたい。レミナルタたちにとって共にあってもいいと言う存在に)


 自分にあったものが彼女たちにあってもいいはずだ。

 ローグたちに救われた時の温もりは、今も彼女の心に鮮明に残っている。


 ヒトに恨まれるだけの存在だとしても、許されない罪を背負ったとしても、差し伸べられる手があっていいはずだ。

 異なる血を持つ者同士でも理解し合えるということをシミッサは身をもって知っている。


 だから簡単に諦めることはできない。したくない。


(でも、そのために私はどうすれば……)


 シミッサは視線を落として自分の手を見つめ、その手をギュッと握りしめた。

 ちょうどその時、ローグの言葉が意識に届く。


「レミナルタたちは今闘技場で注目されている存在だ。出場すると分かればすぐに話が広がるはず……」


「それを待って私が決闘に登録すれば良いのだな?」


 ライセアの確認に頷くローグへゾーシェが手を挙げた。

 

「あ、闘技場の登録ってどうするんだ?」


「少し聞いたけどそんなに難しい話じゃなかった。

 誰かが決闘を開いて相手を募集、それに乗る奴が出て初めて決闘が成立して日程が組まれる」


「なるほど……」


 納得したゾーシェと入れ替わるようにライセアがローグに尋ねる。


「もし複数名名乗りを挙げた場合はどうなる?」


「そこは様々っぽいな。話し合いで解決したり、そこでまた決闘をしたり」


「つまり、誰も名乗り出ないほうがいいってことですね」


「まぁ、私としては勝てばいいだけの話だから楽なものだ」


 すでに出場する気満々のライセアに少しの心配と安心感を抱いたその3日後、レミナルタが出場する決闘の日がわかった。

 

 決闘の日はさらに2日後、西の闘技場。

 幸運にもライセア以外に対戦相手として名乗り出る者はおらず、両者の決闘はすんなりと決まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ