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残影の追放者 〜追われし者よ、どうか良きヒトの世で〜  作者: 諸葛ナイト
再会

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114/133

再会は偶然に

 新たな武器を受け取ったローグたちはヘファズたちに別れを告げて王都に戻っていた。


 オリボシア動山から約3週間。

 石畳の道には依然としてヒトの往来は絶えず、賑やかな声と金属を打ち付ける甲高い音が断続的に響いている。


 王都には未だ難民は多いもののそれによって起こる問題はあらかた解決しているのか、荒れ果てた様子や混乱は見られない。

 むしろ復興に向けた活気さえ感じられた。


「ほら、あの村。この間復興が終わったってよ」


「早いなぁ。んじゃ次の村か?」


「なに言ってんだよ。次は難民をそこに移さなきゃいけねぇ」


「だなぁ。今は王都から近いけど離れていけばそれだけ時間もかかるし……」


「そう簡単にゃ終わらねぇな」


「ま、地道にやっていけばいつかは終わるだろ」


「……そうだな!」


 笑い合うドワーフやノーマの声を背にローグたちが見つめるのはギルドの掲示板。


 並ぶ依頼は村の復興関係のものがほとんどで、その中に紛れるようにオリボシア関係の仕事がある程度。その上、報酬が少なく拘束時間が長いものだけだ。

 武器の慣らしを行うことを考えれば特に気にするほどではないが、正直なところもったいない。


 ローグは眉間にしわを作りながら唸る。


「う~ん……どうするかな」


 彼と同じような渋い顔のライセアが腕を組みながら見落としている依頼がないか改めて探す。

 しかしやはり見つけられずに表情に薄く影を落とした。


「当然といえば当然だが、オリボシアでできそうな仕事はあまりないな……」


「武器の慣らしたかったけど、どうするの?

 復興の手伝いでも私はいいけど」


「まぁシミッサの言うとおりだけど俺も武器の慣らしをしたいし、そもそもダンジョンにも慣れたいんだよな」


「それは私もです。でもどうします?

 調査でもオリボシアには入りますから目的は果たせそうですけど」


「おや、これは驚いた。もしかしてローグ?」


 頭を悩ませていたころ、ギルドの入口のほうから響いてきたその声が耳に届いた。

 しなやかでどこか甘い響きの独特な声。


 振り向いた先にいたのは獣、狐に似た耳と尻尾を持つヒト、ビーストだった。

 黒に近い紫の髪が肩まで流れ、その先端はやや明るい色。中世的な顔立ちや服装だったが、しなやかで柔らかな体つきは女性であることを表している。


 横髪をひと撫で、冷たい印象を持たれやすい細い目を柔らかくさせて歩み寄って来る彼女を見て、ローグは心底から嫌そうな顔をした。


「げ、ウェルリット……」


「げ、とはなによ。それにその嫌そうな顔、君になにをしたって言うんだよ」


「やられたくないこと大体全部だよ」


「……それはたしかに! ま、でもいいじゃない?」


 ウェルリットはそう言うと「あっはっはっ」と気持ちよさそうに笑い出した。


 そんな彼女にユラシルがおずおずと両手を胸の前で軽く重ねながら声をかける。


「あ、あの、あなたは?」


「ん? そういえばハルシュ達じゃないね?」


 ウェルリットはローグの近くにいたユラシルたちを1人1人見回し、一瞬だけ鋭い光を宿らせた眼を細めたかと思うとうなずいた。


「私はウェルリット。しがない吟遊詩人さ」


「吟遊、詩人」


「そ、あとはそうだね……ローグの初恋の相手だよ」


「……え?」


 ユラシルから反射的に漏れた声。

 彼女の小さな驚きはすぐに伝播し、まるで連鎖反応のように大きな声となってギルドを揺らす。


「「「ええぇぇぇぇええ!?」」」


◇◇◇


 騒ぎが一段落した後、ギルド一階の食堂スペースにローグたちは席を移していた。

 窓から差し込む午後の陽光がテーブルに並べられた料理の上で揺らめいている。


「大国を中心に活動している吟遊詩人でローグが幼少のころに知り合った。

 彼が探索者として活動するようになっても何かと縁があってたびたび話す……そういう関係でいいな」


「そうとも! いや~、さすがは軍者。情報整理はお手の物だね」


 悪びれる様子もなくにこやかに笑うウェルリットにライセアは疑いの目を向けていた。


 吟遊詩人という存在はそう珍しい存在ではない。そのためそこを疑うことはない。

 しかし、かと言って噓を言っていないだけで本当のことも話しているようには見えない。


 ライセアが訝しんでいるその隣でシミッサが銀色の髪を揺らしながら手を挙げた。


「ねぇ大国をぐるぐる回ってるって言ってたけど、どれぐらいそうしてるの?」


「ん~、詩いながら回るようになってからは10年ぐらいかな?

 もともとビーストはあまり定住しないからね。少なくとも苦ではないよ」


 ウェルリットはにこやかに笑って不思議な優雅さをまといながら狐耳を揺らした。

 かと思えば横目でローグを見てニヤリと怪しい笑みを浮かべる。


「こうして、知り合いと巡り合うこともあるし、ね?」


 さながら獣が獲物を見つけたような表情と視線。

 それらを無視しながら運ばれた食事を放り込むローグの隣でゾーシェが好奇心のみで尋ねる。


「なぁ、小さい頃のローグってどんなやつだったんだ?」


「お、いい質問だ。彼が森で色々練習してたのは知ってるね?」


「は? あ、おいやめろバカ!」


「ローグったら木を蹴り付けた時に木に足が刺さってしまってね。

 しかも! 飛び蹴りだったもんでそのまま宙ぶらりんで号泣したんだよ」


 ゾーシェとシミッサは信じられないというような顔をしていたが、ライセアとユラシルは少し違う。

 彼女たちの表情には驚きと共に微かな笑みが浮かんでいた。


「あのローグが……」


「あのローグさんが……」


 2人よりも長い間ローグという人物を見ていたが、そのイメージが少し変わるのにウィルリットの話は十分だった。 

 どちらの視線にも生暖かさと同時にどこか揶揄うような色が宿っていた。加えて、瞳の奥には楽しそうな光。


 その目にローグは少し頬を赤くさせ、まるで熱い湯気が体から抜くように大きなため息を吐く。


「だから嫌いなんだ。その話どれだけハルシュに弄られたと思ってるんだ?」


「いや〜、ハルシュの反応がまた面白くてね……。悪いとは思ってるよ」


 そこまで言って水を飲んだウィルリットは一息ついてローグを見てにこやかに頷いた。

 そこでローグを一瞥、すぐに口を開く。


「んで、次の話なんだけどこれは川で──」


「やめろ!!」


「……じゃあ、初めての依頼で緊張してガチガチになってた話とかは?」


「それもやめ……待て、なんで知ってる?」


「詩人は詩にできそうなものならなんでも知ってるものさ」


「ぐっ、ハルシュか……!」


 歯噛みするローグの反応を見て楽しんだのか、ウィルリットの表情には満足感が浮かんでいる。

 その様子を見ていたゾーシェがはたと気がついた。


「そういえばウィルリットはなにか詩いにでも来たのか?」


「ん? そうだよ。ほら、難民地区あるでしょ? そこで少しね。

 子どもたちは暇してそうだったし、こういう時じゃない? 何かに没頭した方が気がまぎれるものだからね」


「へ~、ローグにとってはあれかもしれないけど、あなたいいヒトなのね」


「そうだろう、そうだろう」


 胸を張るように頷いて狐耳を揺らしていたウィルリットだったが、そこで少し下卑た笑みを浮かべる。


「ま、多少の気持ちは貰うけどね」


「タダじゃないんですね……」


 苦笑いのユラシルにウィルリットは笑みを浮かべながらも、しかし真剣な声音で答える。


「そうしなきゃ私も生活できないからね。

 でも無理にもらってはないよ? くれる分しか貰わない。

 だからある程度そこで詠ったら次の村なり町に行くのさ」


「次の村……どこに行くんだ?

 王都で区切りがついたってことは目星はある程度つけてるんだろ?」


 ローグの質問にどこか「待ってました」とでも言わんばかりに身を乗り出してウィルリットは答える。


「もちろんだとも。

 王都の南西、3時間ぐらい歩いたところに温泉が湧いてる村があってね。そこに行こうと思ってる」


「温泉……?」


 首をかしげたローグは頭の中にある記憶を引っ張り出し、ウィルリットに確認を取る。


「あれか? お湯が湧くんだっけ?」


「そうそう。それがまた気持ちいいのさ。

 温泉に入った後はリラックスできるから、そこそこ気持ちがもらえそうだしね」


「なるほど、温泉……」


 ライセアは顎をさすりながら期待と好奇心が浮かべてローグを見る。


「どんな場所なんでしょう」


 ユラシルは疑問を口にしながらも視線を向けるのはウィルリットではなくローグ。澄んだ瞳には純粋な関心が宿っていた。


「お湯が……湧く?」


「いまいちよくわからないよね」


 ゾーシェとシミッサはうまくイメージできない様子でローグへと小首をかしげる。

 お湯風呂こそ知っているがそれが湧き出る温泉という概念はあまりにも馴染みがないものだった。


「……」


 今からその温泉が出るという村に行くとなればまず間違いなくウィルリットと共に行くことになる。

 旅の道中どんな話をされるかなど考えるまでもない。


 唯一反対する可能性のある彼へと興味と「行きたい」という想いを一切隠さない視線。それが無言の圧力となって彼を包み込んでいた。


 その視線から逃れるようにジト目でウィルリットを見たローグだったが、彼女は助け舟を出さない。それどこか妖艶な笑みでウィンクが返されるだけだ。


 すべてを諦め、そして受け入れて肩を落とし、大きく深いため息をついたローグは頷く。


「ああ、行こう。そう多くない機会だしな」


 ウィルリットは「ふふっ」と笑ってユラシルたちに勝鬨のような華やかな声で告げる。


「せっかくだ。道すがら彼のことについて色々話してあげよう」


「「「おお~っ!」」」


 ユラシルたちの歓声が上がる中、ローグは再度大きく肩を落とす。


「もう好きにしてくれ……」


 敗者の言葉に耳を傾ける者はいなかった。

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