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残影の追放者 〜追われし者よ、どうか良きヒトの世で〜  作者: 諸葛ナイト
追放者

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捨てた場所

 村から帝都までは大鳥車で3日程度。

 休みなく進めば縮められるが長距離移動が初めてのユラシルがいるため、ローグたちは少し早めに休むことにした。


 野営する場所は街道から少し離れた開けた平野。

 見通しは良く、近くには川もあるため休むにはちょうど良い場所だ。


 2つの月が昇り始めた頃にはテントを建て終えた彼らはユラシルが灯した焚き火を囲んでいた。

 その火で狩ってきた獣の肉を焼いていたローグが感慨深げに言葉を漏らす。


「いや〜、やっぱり魔術便利だなぁ」


「あ〜、そうか。魔術使えないと野営も面倒だな」


「まぁ、慣れてるからそうでもないぞ? 手間だけど」


 ローグは笑いながら言うとユラシルへと串焼きを差し出した。


「ありがとうございます」


 それを受け取ったユラシルはローグが作ったタレがしっかり乗った肉にかぶりついた。


 丁寧に処理され、香草や甘辛いタレで隠されてはいるがやはり少し臭みと雑味がある。

 しかし1日の疲れを癒すための食事としては十分な味だ。


「あの、ローグさんって本当にパーティを追放されたんですか?」


「ん? ああ、本当だよ。信じられないか?」


「信じられないというより、皆さんがそんなことをするとは考えられなくて……。

 特にハルシュとは幼馴染なんですよね? だったらもっと方法があったはず」


 ローグは一瞬視線を落としたが、すぐに肩をすくめて笑う。


「どんなに仲が良くても必要なくなったら切る。戦場じゃ何があるかわからないし、足手纏いがいるせいで全滅なんてこともあり得る。

 パーティっていうのはそういうものなんだ」


「で、でも! ローグさんが本当に足手纏いだったなんて思えません」


 納得できずに拳を握り締め、顔に影を落とすユラシル。

 会話にこそ入らないがメリスも同じようにどこか悔しげな表情を浮かべている。


 そんな2人を見てローグは視線を焚き火に移して語り始めた。


「ハルシュは俺に村を出るきっかけをくれたんだ。

 急に『一緒に探索者になろう』って言い出してさ。一緒に村を飛び出して本当にパーティを作った。

 でも2人だとすぐに限界が来た」


「……そこで出会ったのがシルトさん、なんですよね?」


「ああ、ハルシュと一緒に探索者になって2ヶ月ぐらいだったかな。酒場であれやこれ話してる時に意気投合してさ。そのままパーティに加わってくれたんだ」


「探索者ってよくそんな感じでパーティを作るって聞くけど、本当の話なのか?

 酒場で意気投合って信用できるのか?」


 眉を寄せるメリスにローグは笑いながら答えた。

 

「ああ、俺もそう思うよ。でもシルトは『酒が入れば本音が出る。そこで合うなら信用できる』って言ってた」


「シルトさんとは結構長くパーティを組んでたんですね」


「ああ、探索者になって3ヶ月も経ってない頃だったってこともあってシルトから学んだことは多いよ。

 豪快でちょっと雑なところはあったけど情もある。盾を持ってるってのもあって頼もしいやつだ」


 楽しそうに「うんうん」と頷くローグの言葉からは不信や失望といったものはない。

 むしろ自慢するような声音と表情だ。


「トラスロッドさんはドワーフとエルフのハーフの方ですよね? たしか、依頼で出会ってそのまま仲間になったって」


「そうそう! なんか居心地が良かったって言ってたな。

 ま、とにかく優しいヒトでさ。魔術支援が得意なんだ。身体強化や傷の治療を一手に担っててくれて助けられてばっかりだった」


「んで、ニアスが入ってそれが終わった」


 トラスロッドのこともハルシュやシルトと同じような語調で話すローグへとメリスの棘のある言葉。

 一瞬流れた険悪な雰囲気を解すように彼は苦笑いを浮かべつつ頷く。


「ニアスとは彼女が追放された直後に出会った。

 雨の中で途方に暮れてたから助けたら、『恩返しがしたい』って言われてな。すごい才能の持ち主だったよ──俺が追放されるほどにな」


 改めてされた紹介を聞いたユラシルは納得できないと言いたげな表情を浮かべる。


 話を聞く限りやはり悪い印象は得られない。

 むしろ5人全員でいた方が全て上手くいきそうに感じられた。


 それが顔に出ていたユラシルにローグは諦観したように言う。


「仕方ないってところはあるんだよ。パーティを維持するには税がとられるからな」


「税、ですか? そんなに多いんですか?」


「多いな。4人を超えた辺りから意識できるぐらいになるし、5人にもなればそれだけで頭を悩ませられた。

 だから、探索者は4人パーティが割合としては1番多いんだ」


 パーティで依頼を受けなければならない関係上、税金はどうやっても軽減できない出費。

 しかし、それはギルドという場所で活動しているから発生するものだ。


「なら、ギルドに入らなきゃいいんじゃ? それなら税金を取られることもなくなって……」


「そうもいかない」


「なんでですか?」


 小首を傾げながら出された問いにどうわかりやすく答えればいいかとローグが悩む中、肉を飲み込んだメリスが答える。


「簡単な話だ。信用だよ」


「信用……?」


「ギルドからの承認っていうのは第三者からパーティの存在、活動を認められてるって証なんだ。

 どこから来たかも、どこに所属してるかもわからないやつとギルド所属のやつ。どっちを信用できるかって話だな」


「あとはなにかあればそいつ自身に言えなくてもギルドの方に言えば補償してくれる場合がある。

 だから依頼主としても個人よりギルドへ依頼を出す方が安心できる」


 ローグは視線でメリスに確認を取る。

 彼女がはっきりと頷いたのを見てユラシルが整理するように口に出した。


「信用されるにはギルドに入るのは必須なんですね。そして安全面や安定性を考えるなら複数のヒトと組むのも」


「そう、後者を捨てるにしてもギルドってところからは抜けられない。俺もパーティから追放されはしたけどギルド所属ってのは変わらないからな」


 夜闇のように流れ始めた暗い空気を入れ替えるようにローグは食べ終えた串を焚き火にくべながら提案した。


「さて、見張り番だけどユラシルと俺で交代してやろう」


「ん? いや、それぐらいならアタシも──」


「依頼主にさせるわけにはいかないだろ。

 昼間はずっと(大鳥車)を動かしてもらってるから俺たちでやるよ」


 視線で「大丈夫か?」と問いかけるローグの目にユラシルは力強く頷き返した。


「はい! 頑張ります! 車の中でゆっくりできてたのであまり疲れてませんし」


「いや、そんなはず……あー、いや、うん。わかったよ。任せる」


 このまま話していても2人が食い下がるわけがないと悟ったメリスは仕方ないと言わんばかりにため息をこぼす。


 車の近くに建てられたテントに入ろうとしたが、その直前に振り返った。


「いいなユラシル、無茶はするなよ。ローグも!」


「はい。おやすみなさい」


「ああ、わかってるよ」


 ユラシルへはどこか心配そうに、軽く流すように返したローグへは疑いの目を向けつつもメリスはテントの中へと入っていった。


 その姿を見届けたローグはユラシルへと視線を戻すと少し申し訳なさそうに眉を下げる。


「悪いな。ユラシルには野営と見張り番の感覚を知っててほしかったからさ」


「いえ、あまり疲れてないっていうのは本当ですし……」


「そうか。でもメリスが言ってたように無理はしなくていいからな?

 疲れってのは溜まり過ぎるとむしろ感じなくなるもんだ」

 

 言いながらローグは近くに置いていたリュックからいくつかの小道具と草やなんらかの干物を取り出した。


 それらを並び終えると少し悩みながらも薬研(やげん)に草を入れて薬研車ですり潰し始める。


「あの、それは一体?」


「薬だよ。より正確には頭痛薬だな。少し苦いけど効果はたしかだ。

 改良しようと色々やってるんだけど、どうも上手くできなくてな」


 外傷であれば魔術で跡も残すことなくすぐに治せてしまうため、怪我を治すような薬はあまり考案されていない。


 逆に頭痛や腹痛といったような病気を治す魔術はあまりなく、それらを癒すには薬が必要とされている。


 魔術では出来ないことを行える薬。

 薬師としての知識や技術は魔術を一切使えないローグが身に付けるものとしては当然と言えるものだ。


「すごいですね。ローグさん」


「って言っても探索者にとって必要とされるのは怪我を治す魔術の方だ。

 例えば毒とかの中和剤やらがあれば助かるって時もあるけど、頻繁にあるわけじゃない。だから店で買ったやつを持ってりゃどうにかなる」


 自嘲気味に返すローグを見てずっと持っていた疑問をユラシルはぶつける。


「なんでローグさんは探索者を続けてるんですか?」


「……!」


 薬研に木の実を入れようとしていたローグの手がピタリと止まった。

 そのまま少し考え込むように無言になったかと思うと、その時のことを思い出したかのように小さな笑みを浮かべる。


「シルトとトラスロッドにも言われたよ。

 『お前は薬師として生活できる。わざわざ探索者なんて命知らずの行為をやる必要はない』ってな」


「それでも、今でもローグさんは……」


「ああ、探索者をやってる。追放されてもなお、な」


 ゴリゴリと木の実と薬草がすり潰される音を鳴らしながらローグは淡々と語る。


「俺にはもう帰る場所がないんだ。

 父親は戦いの中で、母親は病気で死んだ。その時、俺はなにもできなかった。すぐそこにいたのになにもできなかったんだ」


 その表情には自嘲すらもなく、言葉には後悔しかない。


 ローグはそのまま顔を上げて夜空を見る。

 星が瞬き、2つの月が浮かぶ美しい夜空にその時の虚しさと悲しさ、そして自分自身への憎しみを思い出した。


「あの家には良い思い出もあったけど、その思い出は全部書き換えられてしまった。

 正直、あの場所に居続けるのは怖かったんだ」


「だからハルシュさんの誘いに乗ったんですか?」


「ああ、そうだ。俺はさ、その時に帰る場所を捨てたんだよ」


 その日のことを思い出しているのかローグの顔にはどこか悲しげでありながらも清々しいような笑顔。


 しかし、次の瞬間にはそれは綺麗に消え去った。

 そこにあるのはどこまでも自分を責め続ける1人のヒトだ。


「帰る場所を捨てたのが、今の俺だ」


 そう語るローグに自分を助けた時のような勇敢なものも、昼間の野盗と戦った時のような苛烈なものもない。

 あまりにも弱々しい1人のヒトだった。


 夜空を見上げていたその頭が下ろされ、前髪で隠された顔に影が落ちる。


「……俺はどこに帰ればいいんだろうな」


 小さく笑うローグの声はどこか寂しげで、怯えているようにユラシルには聞こえた。


「俺の居場所は──どこにあるんだろうな」


「ッ!?」


 開きかけたユラシルの口から言葉が紡がれることはない。

 かける言葉を探し出すことが今の彼女には、できなかった。

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